受け継がれし鋼の魂(40)
ミーヤの精神世界を怪しく照らす闇夜に浮かぶ赤い月、その月を背後に抱き闇夜の空に君臨するわナイトゴーント。
自身の力が最大限に発揮される夜を舞台に、戦いの幕が切って落とされる。
「まぁ、そりゃ支配下に置いた相手の精神世界なんだから、自分にとって都合のいい時間帯に設定するわな」
夜空に浮かぶナイトゴーントを見上げて小さくため息をついてから、そう言って懐に手を突っ込み、現実世界で渡されたある物が精神世界でも存在しているかの確認をする。
懐には問題なくある物は存在し、ちゃんと持ち込めてしまったんだと頭を抱えたくなってしまったが、それでもこれが切り札になるならと、懐からある物を取り出し、そして今まさにミーヤの捜索に向かおうとしているナオキにある物を手渡す。
「あぁそうだ、忘れるところだった。ナオキくんこれを」
それを受け取ったナオキは首を傾げ。
「カイトさん、何ですこれ?」
そう疑問を口にした。
ナオキに手渡したそれは、中に何か小さな箱でも入っているのか、やけにパンパンに膨らんだ封筒であった。
というか、ここまでパンパンに膨らんでいるのなら、封筒から中の物を取り出してそれだけ渡せばいいのだろうが、それをする勇気はなかった。
理由は色々あるのだが、個人的にはこれを使う前にナオキがミーヤを奪還できればそれでいい。
というか、それに越したことはない。
正直、これを使う機会はないほうがいいような気がする……そんな事を思いながら。
「それはよしもりさんから……君のお父さんからの贈り物だ。なんでも、これを使えば間違いなくミーヤは取り返せるとのことだが……まぁ、これに頼らずナオキくん、君自身の想いでミーヤさんを取り返すんだ。それがいい、絶対に」
最後の言葉を念入りに強調してからナオキの肩をポンと叩き。
「それじゃ、ここは任せろ」
そう言って、ナオキをこの場から離れさせ、ミーヤの元へと送り出す。
「わかりましたカイトさん! 後はよろしくお願いいたします! 必ずミーヤを取り返してきてみせます!!」
ナオキはそう言うと、こちらに一礼してから月明りが届かない暗い森の奥地へと駆けて行った。
そんなナオキに背を向ける形で、彼の後を追えないように一歩前へ踏み出し、夜空を見上げる。
「よう、わざわざ他人の精神世界の時間を自分の都合のいい夜間に改竄して、ずいぶんご苦労なこったな? ナイトゴーントさんよ」
そして、そう軽口を叩いてやるとナイトゴーントは鼻で笑い。
「ふん、この夜が余の時間と知っていて、一人残るか、愚かな……実に愚かだ。二人掛かりならまだ勝算はあっただろうに。勇敢なのか無謀なのか、あるいはただの破滅願望か……それとも自分に酔っているのか? できもしないのに足止めを引き受ける自分に……やれやれだ」
そう言って肩をすかしてせた。
その態度は明らかにこちらを挑発しており、ナイトゴーントが何を期待しているのかが丸わかりであった。
「はっ!! 別に酔ってもいねーし、できないとも思ってねーよ! 勝算? あるに決まってるだろ! この陰険蝙蝠野郎!!」
なのでそう言って挨拶代わりに炎の魔法を放つが、しかし炎弾の直撃をくらってもナイトゴーントは無傷であった。
「なるほど、精神世界でも相変わらずマシーンアタック以外は無効化されるのか」
そう口にすると、上空のナイトゴーントは鼻で笑い。
「無駄な抵抗はよせ。ビースターではない、ただの人間の攻撃など余には効かん。貴様の未来はここで死ぬか、余の傀儡となるかの二択だ。さぁ、どちらを選ぶ?」
そんな事を尋ねてきたが、それを聞いてこちらも鼻で笑い返す。
「なーにいい気になってんだ? ビースターでなければ攻撃は通じない? はっ! 何言ってんだてめー。マシーンアタック……つまりは機械による攻撃だったら問題ないって事だろ? これはすでに機械の騎士さんにヨハンが召喚した重機でとっくにバレてんだよ!!」
そして懐からアビリティーチェッカーが装着された状態のアビリティーユニットを取り出し、すばやく液晶画面上に投影された「装甲装着」のエンブレムをタッチし叫んだ。
「だから、わざわざロボを召喚しなくても装甲を纏えば十分なんだよ!! それを今から証明してやる! 装着!!」
それと同時に、周囲にメタリックな機械の鎧が出現し、それらは素早く体に纏わりつき装着していく。
そうしてあっという間に全身メタリックなパワードスーツに身を包んだものとなった。
さらに続けざまにアビリティーチェッカーの液晶画面上に投影された人形使いのエンブレムをタッチ。
直後、自分の真横に自分と同じほどの大きさの鋼鉄でできた人形が現れる。
そして現れた鋼鉄でできた人形を自らに装着する人形使いの秘儀を使って鋼鉄でできた人形を装着し装甲をさらに強化、クラタスの大きさまでにはいかないまでも、自身の体格よりは少し大きくなったパワードスーツ姿でナイトゴーントを睨む。
「さて、それじゃはじめるかナイトゴーント!!」
そして、そのまま身を屈めて拳を握り、一気にナイトゴーントめがけてジャンプする。
そんなこちらを見てナイトゴーントが困惑した様子で叫ぶ。
「なんだその姿は? まさかサイボーグ化!? ……まったく、ビースターどもの総大将といい、生身の肉体を捨てその身を機械に変えてまで闘争を求めるか? このウォーモンガーめ!!」
「サイボーグだ? バカかてめーは!! 聞いてなかったか? 見てわからねーか? 装甲を装着しただけ、呼び出した鋼鉄の人形を追加で纏っただけの少し特殊なパワードスーツだ!! とはいえ、その発想はてめーらバイオスターにはなかったか? だったらご愁傷様だな!!」
パワードスーツによって飛翔力がアップし、パンチ力も大幅に上昇しているため、ジャンプしたと同時にこちらが放った拳はナイトゴーントの顔面にめり込み、そしてそのまま遠くへと突き飛ばした。
「ぐほぉ!?」
ビースターによる攻撃以外は通じないと高を括っていたナイトゴーントは殴られてダメージを受けた事に困惑したまま地面に激突、夜空から墜落した。
そんなナイトゴーントをすぐに追って追撃する事はせず、ゆっくりとした足取りでナイトゴーントへと近づいていく。
殴り飛ばされ、地面に墜落したナイトゴーントは信じられないといった具合で殴られた箇所を手で触れながらゆっくりと体を起こす。
「バカな!? ビースターでもない人間になぜ余が!? ありえん!! こんな事、あってはならない!!」
ナイトゴーントはそう怒鳴ると全身から禍々しいオーラを放ち、羽根を広げると、こちらに向かって低空飛行で一気に突っ込んでくる。
そして鋭く鋭利な鉤爪をこちらに突き出してくるが。
「動きが単純すぎてそんなの脅威でもなんでねーぞ!!」
これを体を少し逸らしてかわし、驚くナイトゴーントの脇腹に力いっぱいの拳を叩き込む。
「おらぁ!!」
「がはぁ!?」
脇腹に拳をくらったナイトゴーントは体をくの字に曲げ、そのままあらぬ方向へと飛んでいく。
そんなナイトゴーントに追撃をかけようとするが、ナイトゴーントは素早く体勢を立て直すと、そのまま羽根を広げ、猛スピードで森の中へと飛んで逃げていく。
「逃がすかよ!!」
そんな逃げたナイトゴーントをすぐには追わず、立ち止まって腰のベルトの側面にある装置を素早く押す。
すると背中に装着していた装置の一部がパージされ、それはすぐさま目にも止まらぬ動きで変形すると近未来的なライフル銃となった。
そのライフル銃は超音波ライフル。動物全般が嫌がるどころか、その場に倒れ込んでしまうほどの超音波を発し、相手を制圧、もしくは一時的に行動不能にする兵器だ。
それを手に取って、ナイトゴーントが逃げた方向に向かって引き金を引く。
直後、森全体が大きく揺れ、そしてバザっと何かが地面に落ちる音がした。
ここからでは姿は確認できないが、ナイトゴーントが地面に墜落した音だろう。
超音波ライフルを構えながら、ゆっくりとした足取りで森の中へと入っていく。
そして周囲を警戒しながら歩く事数分、体をピクピクとさせながら地面に倒れているナイトゴーントを見つけた。
そんなナイトゴーントに銃口を向けながら。
「勝負あったな」
そう言って引き金に指をかける。
そんなこちらを見上げ、ナイトゴーントが口を開いた。
「バカな……あり得ない……この余が……こんなやつに負けるなど……」
その言葉を聞いて、思わずため息が出た。
「はぁ……あのなぁ、それはこっちのセリフだ。拍子抜けだぞてめー、弱すぎもいいとこだ。もう少し苦戦するかと思ったが、これしきでやられるか?」
この言葉にナイトゴーントは少しイラっとした反応を見せるが、そんなナイトゴーントに言い放つ。
「十鬼衆の一角なんて言われて恐れられてるが、どうせてめー、相手の負の感情を揺さぶって自分の支配下に置くやり方ばっかで、実はまともに誰かと戦った事ないんだろ? 戦闘経験のなさが如実にでてたぞ?」
これを聞いたナイトゴーントはうらめしそうにこちらを睨み、歯噛みしていたが、やがて。
「弱すぎだと? 余が? いずれバイオスターの頂点にたつ、この余が?」
プルプルと震えながらそう言うと。
「ふざけるな!! この下等生物が!! 誰に向かってものを言っている!! 調子に乗るなよ!? 余に対して不敬な発言をした事、後悔させてやる!! 絶対に後悔させてやるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
怒りの感情が爆発し、怒鳴りだした。
直後、地面が大きく揺れ、立っていられない状態となる。
「なんだ!?」
慌てて片膝とつき、周囲に捕まれるものがないため片手を地面に当ててその場に留まるが、直後ナイトゴーントが羽根を広げて上空へと飛び上がると。
「余を本気にさせた事、死んで悔やむがいいぃぃぃぃぃ!!!! 下等生物ぅぅぅぅぅ!!!!!」
怒りの感情を吐き捨てた。
直後、世界全体が真っ白に包まれた。
いや、これは包まれたのではない。爆ぜたのだ。
世界全体が爆ぜた。
それはナイトゴーントが有するもうひとつの負の感情に由来する特殊能力。
相手ではなく、自身の負の感情を利用する力であった。




