受け継がれし鋼の魂(38)
ナイトゴーントからミーヤを取り返すためにミーヤの精神世界に潜る事を決意したナオキ。その顔つきはさきほどまでとは打って変わり、決意を秘めたものとなっていた。
そんなナオキを見て、いい顔つきになったじゃないかと思いながらアビリティーユニットを懐にしまうと潮留よしもりが声をかけてくる。
「カイトくん、それじゃあよろしく頼むよ」
「えぇ、任せてください。とはいえ、精神潜航を発動するには対象に触れる必要があるんですが……」
「現状は厳しいな」
そう言ってナイトゴーントへと視線を向ける。
相手はすでにコックピットのハッチを閉じており、ミーヤに触れようとするならば、再びハッチを開かせないといけないが……
「さて、同じ手が通用するかどうか……」
屋上に到着した時にはすでに魔法が行使された後だったので、具体的にどういった手段を行ったのかは定かではないが、イレーナとリーナによる魔法攻撃によってナイトゴーントはミーヤが搭乗しているコックピットのハッチを開いたのだ。
つまりはあの2人は一度は魔法攻撃でチャンスを作っているのである。
となれば、あの2人の魔法攻撃に希望を見出したくなるが、しかし可能性は低いだろう。
当然ながらナイトゴーントも2人を警戒するはずだ。となれば2度目は期待できない。
しかし、それでも現状では2人に賭けるのがベストだろう。
何せ実績としては2人だけが唯一、ナイトゴーントにハッチを開けさせたのだから。
ポケットからスマホを取り出しリーナへと発信する。
ここから大声をあげれば声が届かなくもないが、それではナイトゴーントに筒抜けになってしまい作戦も何もない。
「リーナちゃん、すまないがナイトゴーントに仕掛けた攻撃、それをもう一度イレーナと一緒におこなってくれないか? タイミングはこっちで指示する」
リーナが通話に出たと同時に早口でそう伝達する。
一体どんな攻撃をおこなってナイトゴーントにハッチを開かせたのか? これから自分たちがどういった事を仕掛けるつもりなのか、悠長に尋ね、そして説明している暇はない。
『うん、わかったよマスター。すぐに準備するね』
そんな状況をリーナは察したのか、素直に聞き入れてくれた。
リーナとの通話を維持しながら、TD-66とヨハンへと声をかける。
「機械の騎士さん!! ヨハン!! すまないが、ナイトゴーントがこの場から逃げないように牽制してくれ!!」
リーナへの指示と違い、こちらはナイトゴーントに聞かれても問題はない。
むしろ、聞かれた方がナイトゴーントがTD-66とヨハンの乗るクラタスに意識を集中して、リーナとイレーナの攻撃が成功しやすくなるだろう。
まぁ、2人が一体どんな攻撃をおこなったのかはまったく知らないのだが……
そんなこちらの動きを見てナイトゴーントは鼻で笑うと。
「牽制だと? まったく、余もなめられたものだな?」
そう言ってTD-66とクラタスに何か攻撃を仕掛けるような素振りを見せたところで。
「!?」
ナイトゴーントが動きを止めた。
そして、その全身から煙が立ち上りだす。
正確にはミーヤの乗るビークルを取り込んだ事によって生まれた体の半分を覆うロボパーツの部分から。
そんな自身の体を見てナイトゴーントは舌打ちすると。
「またあいつらか!」
そう言ってリーナとイレーナを睨む。
「うわ、こっち睨んできてるよ!」
操縦席でレバーを握るエマが冷や汗をかきながらそう言うと、操縦席の上に立つリーナとイレーナは。
「そりゃ対流加熱をするのは2度目だからね」
「しかも温度はさっきの10倍! 機械部分全体がオーバーヒートして当然でしょ!」
そう言ってハイタッチをかわす。
だが、その直後にリーナは疑問を口にした。
「でも、それだけ温度を一気にあげて中のミーヤは大丈夫なの?」
この疑問には操縦席の中のエマも同意し。
「だよね、しかもあいつからしたら、こっちの意図はわかってるんだから、ミーヤがヤバい状態になっても意地でもハッチ開けないんじゃないの?」
そう口にするが、しかしイレーナは。
「それはどうだろう? ナイトゴーントからしたら、ミーヤさんはビースターを取り込み続けるために絶対必要な存在……他のパイロットを支配下に置いたのならともかく、現状じゃ絶対にミーヤさんの生命維持はリスクを冒してでも優先すると思う。そうじゃなきゃ、ナイトゴーントからしたら折角手に入れたビースターとの合体を手放す事になるんだし」
そう断言した。
それを聞いたリーナは「まぁ、そうだよね」と相づちを打ってからナイトゴーントの腹部に目をやると。
「あ! ハッチが開いた!」
ナイトゴーントがさきほどと同じく、冷却のためコックピットのハッチを開いた。
リーナはそれを指さすと、イレーナはうんうんと頷いた後。
「ほらね」
親指と人差し指を顎に乗せ、ドヤ顔を決めながらそう口にした。
そんなイレーナにエマが操縦席の名から声をかけた。
「で? これからどうするの?」
この質問にはリーナが。
「ここから先はマスターからの指示はないんだよね」
そう口にするとイレーナが。
「わたしたちにできる事はここまでじゃないかな? 後はナオキくんとマスターたちの仕事だと思うけど」
そう言ってナイトゴーントの腹部に開いたハッチに視線を向ける。
そんなイレーナを見てリーナは。
「そっか……うまくいくかな」
そう言って同じくハッチに視線を向けた。
「いくよ絶対……」
リーナのその言葉にイレーナは小さい声でそう返して、成功を祈るように両手を合わせた。
「まったく小癪な!」
ナイトゴーントは慌ててハッチを開き、コックピット内部を冷却させる。
だが、その瞬間を見逃すほど、こちらはお人よしではない。
「ヨハン!!」
「わかってるよカイト!!」
ハッチが開いたと同時にヨハンの乗るクラタスは左腕を上げ、ガトリング砲を放つ。
中にミーヤがいる事もあって、ガトリング砲から放たれたのは実弾ではなくゴム弾であるが、それでも強力な威力でもってハッチをボコボコに凹ませていく。
そうして形が歪んだハッチは、きっちりと閉まる事ができなくなってしまった。
「っち! 卑怯な真似を!」
ナイトゴーントはもはや原型をとどめないほどにボコボコに凹んだハッチに手をかけ、無理矢理押し込んでハッチを閉じようとするが。
『させません!!』
TD-66が一気に前へと踏み出し、ナイトゴーントの手を掴んでそれを妨害する。
「この木偶の坊め! 邪魔をするな!!」
ナイトゴーントはこれを振り払おうとするが、しかしうまくいかない。
ならばと負の感情を揺さぶる特殊攻撃をTD-66にしかけるが、これにTD-66は。
『無駄ですよ。ドロイドであるわたくしにその攻撃は通用しません!』
そう言ってナイトゴーントと力比べをしながら、徐々にその手をハッチから離していく。
そして、TD-66は。
『マスター!! 今です!!』
そう、こちらに合図した。
「あぁ、機械の騎士さんわかってる!! ナオキくん、いくぞ!!」
「はい、カイトさん!!」
TD-66が抑え込んでくれている間に、ビークルを下りたナオキと共にナイトゴーントに向かって走る。
ふたりして全力で走るが、しかしその事に気付いたナイトゴーントがTD-66と力比べをしながらも、こちらに尻尾をふるってくる。
「っ!!」
「させるかよ!!」
迫ってくる尻尾にナオキは目を見張っていたが、今はかまっている暇はない。なので懐からアビリティーユニットを取り出し、レーザーの刃を出してを掲げ周囲に光る鎖が多数出現させる。
そして、それらを迫る尻尾へと放って縛り上げた。
さらにはあまった鎖をハッチへと放ち、内部へと侵入させ、そこに座っているミーヤを縛り上げ、そのままコックピットの外へと引っ張り出した。
「なんだと!?」
その事にナイトゴーントは驚愕するが、ざまぁみろ! なり、どうだ? 引き離してやったぞ! なり、この子は返してもらうぞ! なりのセリフを言う時間的余裕はない。反応してかまってやる時間など微塵もないのだ。
そう、そんな悠長な事はしてられない。なので、すぐに縛り上げたミーヤをこちらに手繰り寄せ、そしてアビリティーチェッカーを手にしてアビリティーユニットにセットして精神潜航のエンブレムをタッチ。
それと同時にナオキの手を取って、手繰り寄せたミーヤの体に触れた。
精神潜航を発動した状態でミーヤの体に触れたため、魂は彼女の精神世界へと潜り込んでいく。発動時に手を取っていたナオキの魂と共に……
「……よくわからないが、ミーヤの心の中に入った……のか?」
ナオキが下りたビークルの隣に立っていた潮留よしもりが、光る鎖にぐるぐる巻きにされた状態のミーヤの上に積み重なるような状態で倒れたカイトとナオキを見て目を細めていたが、しかし、すぐに考えてもわからん! と思考を放棄し、横にあるビークルに手を触れる。
「何にせよ、今はふたりがミーヤを取り戻すまで持ち堪えないとな」
潮留よしもりはそう言うと、小さく息を吐き、そして。
「久しぶりだなチーター。一緒に戦うのはいつ以来だ? もう俺の事なんか忘れたかもしれないが、また力を貸してくれ……頼む」
右手を天高く突き上げる。
その右手はすでにサイボーグと化した機械の腕であり、右腕自体がタッチ画面となっていた。
そのタッチ画面のあるボタンを押し、認証コードをすばやく打ち込んで、しずかに。
「ファイナルヒュージョン……遂行!!」
そう口にした。
直後、横に待機していたビークルが変形し、そして潮留よしもりと融合した。




