受け継がれし鋼の魂(33)
ナイトゴーントはこの時点ではまだ上位個体に吸引合体されれば主導権を奪われ、自我を失うクソ雑魚個体でしかなかった。
とはいえ、他のクソ雑魚個体と違って負の感情を抱く相手の意識を奪う攻撃なんてものを放てるあたり、どちらかと言うとパッとしない特殊個体であったともいえる。
何にせよ、そんな非力であったナイトゴーントにとって、またとない好条件が転がり込んできた。
何せ予備機とはいえ、ビースターを撃破できるかもしれないのだ。ひょっとするとその実績を引っ提げて吸引合体で主導権を握れるかもしれない。
そうすれば、吸引合体を積み重ねた先に待っているのは上位個体の仲間入りだ。
ナイトゴーントはワクワクしていた。何せ今は自分にツキが回ってきている。
城塞都市中が負の感情に包まれている今なら負の感情を抱く相手の意識を奪う攻撃も失敗する事はないだろうし、その相手がビースターの予備機に入り込んだのだ。
つまりは簡単にビースターを撃破できる条件が整っているわけである。
とはいえ、まだ上位個体は瀕死の状態とはいえ生きている。
そんなやつに今吸引合体を迫られたらすべてが水の泡だ。
ゆえにナイトゴーントは負の感情を抱く相手の意識を奪う攻撃を放った後で身を潜めていた物陰から飛び出すと予備機のビースターに乗り込んだ相手の意識がなくなったのを確認する前に瀕死の状態の上位個体の顔を踏み潰し殺害した。
そうして上位個体から吸引合体を迫られる可能性を排除した後でビースターの予備機へと視線を移した時だった。
ナイトゴーントの体に異変が生じた。
(な……なんだ? この感覚は? 体の内側から……力が無限に溢れてくる!!)
それは上位個体への進化であった。
ここに来るまでに多くの人間を殺し、経験値を得ていたが、それに加えて瀕死とはいえ上位個体を殺した事により内に秘めたるポテンシャルが覚醒したのだ。
(すごい!! すごいぞこれは!! これだけの力があれば、余が天下を取るのも夢ではない!!)
進化した自身の力に興奮するナイトゴーントであったが、そこである事に気付く。
それはさきほど放った特殊攻撃の変化だ。
これまでは負の感情を抱く相手の意識を奪うことができる攻撃であったが、その性質は進化した事により変化したのだ。
その変化した内容は支配……負の感情を抱く相手の意識を支配下におく事ができる特殊攻撃に変化したのだ。
そして、その攻撃は陽が傾き、夜になるにつれてさらに効力が増す。
(まさに夜に君臨する王の力……いいぞ! この力さえあれば!!)
ナイトゴーントは歓喜に打ち震えながら予備機のビースターを見る。
中にいる大人と子供はすでに新たな力によってナイトゴーントの支配下にあった。
子どもの方はビースターに関して何の知識もない、ただの素人であったが、大人のほうは予想した通り、かつてビースターに乗っていた元パイロットであった。
それどころか、メインパイロットでもあった大物だ。
これはとんでもない収穫だ! とナイトゴーントは自分に回ってきた運に感謝しながら、支配した大人の意識の中を漁っていく。
こいつの中にある知識をすべて覗くことができればビースターの弱点はおろか、ビースター自体を使役する事も可能になるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きつつナイトゴーントは興奮状態で支配下に置いた元パイロットの知識を漁る。
だが……
(なんだこいつ? ビースターの操縦方法や制御方法はわかっていても、肝心な核心的な部分を何も知らないじゃないか!)
そう、支配した大人の知識は操縦に関する知識は豊富なものの、ナイトゴーントが求めていた部分に関しての知識はまったくといっていいほど持ち合わせていなかった。
これには当てが外れたとナイトゴーントは肩を落としたが、それでも得られたものは大きかった。
何より末端のバイオスターには開示されていなかった情報を多く収穫できた事は大きい。
そして一番の収穫は何と言っても支配できた大人が潮留しずかであったという点であろう。
潮留しずか、ビースターを動かす連中の総大将である潮留よしもりの妻であり、元ビースターのメインパイロット。
こんな大物を手中に収める事ができたのは大きい。
ビースターを使役する術は得られなかったが、こいつを使って他のビースターに乗り込んだりすれば必要な情報はいずれ得られるだろう。
ナイトゴーントはそう思い、この場は一旦、支配下に置いた潮留しずかとこの予備機のビースターを連れ帰るかと思った時だった。
「させ……るか!」
支配下に置いたはずの潮留しずかがナイトゴーントの支配を振り払い、自我を取り戻したのだ。
「何!?」
潮留しずかとの接続が絶たれたナイトゴーントが驚き、予備機のビースターを見るとすでにビースターはこちらに向かって殴り掛かってきていた。
「このっ!! バイオスターめ!!」
潮留しずかはまだ意識がない子供の手を握って無理矢理レバーを握らせ、強制的に予備機のビースターを動かしていた。
だが、そんな強引なやり方で動かしたビースターがまともに戦える挙動をこなせるわけがない。
虚を突かれたとはいえ、ナイトゴーントは突撃してきた予備機のビースターをいとも簡単に粉砕した。
半壊し、地面に横たわる予備機のビースターを見てナイトゴーントは「しまった」と顔に手を当てるが、しかしすぐに思考を切り替える。
(まぁこいつからは十分情報を得られたんだ。なら、こいつにこだわる必要はないだろう。別の手段を探すまでだ)
そうして、支配下から脱せられる前の潮留しずかから最後に得た情報を精査する。
(総大将、潮留よしもりの子供か……連れ去って人質にするか? いや、効果があるようには思えんな……)
潮留よしもりの子供を利用する手段がないか、ないなら後顧の憂いを絶つために殺しておくか。
どうすべきか考えたところで、潮留しずかの記憶の中に出てくる一人の人物が使えないかを考える。
(エルフのガキか……記憶の中の情報通りのやつか確認してみるか)
しばしの間どうするか検討したナイトゴーントは、城塞都市を一度出て、都市外部に潜伏。
そこで主力のビースターたちが帰ってくるのを待って様子を窺う事にした。
そして数時間後、城塞都市に主力のビースターたちが帰ってきた。
「ミーヤ! 俺強くなる!! 強くなって絶対に母さんの仇を討つ!! だから俺に戦い方を教えてくれ!!」
「えぇ、ナオキ……やろう! 私たちでこんな悲劇を終わらせよう!!」
涙目で訴える潮留よしもりの子供を抱きしめ、そう決意を口にするエルフの少女を遠くから観測し、ナイトゴーントは核心した。
このエルフのガキは利用できると。
絶対にこのエルフのガキはビースターをもっとうまく使いこなすためにさらに必要な知識を得るはずだと。
そして、その知識は絶対に自身にとって必要不可欠なものになると。
だからナイトゴーントは潮留よしもりが建てた研究所の近くに陣地を張る事にした。
この地を拠点にすれば連中を監視する事ができる。
支配するタイミングを見極める事ができる。
そうやってナイトゴーントはずっと待っていたのだ。
ミーヤに感情の揺らぎが生じるその時を。




