受け継がれし鋼の魂(32)
ナイトゴーントは今でこそ十鬼衆の一角であるが、最初から強かったわけではない。
というよりかは、むしろ最下級の存在ですらあった。
上位個体や特殊個体に吸引合体され、主導権を奪われ自我を失い、上位個体や特殊個体の巨大化した肉体の糧となる……そんなモブ雑魚個体であったのだ。
そう、モブ雑魚個体であるにもかかわらず吸引合体されずに生き延びていたのは運が良かったに過ぎない。たまたま、自分の周囲に吸引合体を求める上位個体がいなかっただけだ。
そんなナイトゴーントが十鬼衆の一角に数えられるまでに強くなるきっかけとなったのはあの事件……よしもりやミーヤが出撃し、手薄となた城塞都市をバイオスターたちが襲撃して壊滅させた事件……そう、ナオキの母親である潮留しずかが殺された事件だ。
あの事件、城塞都市の襲撃を指揮したのは上位個体であったが、その指揮下に当時はまだモブ雑魚個体であったナイトゴーントも入っていたのだ。
とはいえ、基本的にモブ雑魚個体は城塞の扉を突破するための突撃要因、いくらでも代替がいる人海戦術の使い捨ての消耗品でしかない。
だからこそ、城塞の扉を突破し、中になだれ込んだら後は重要施設の破壊などはこちらでやるので、こちらの邪魔にならない程度で各自各々好きに暴れてどうぞという、責任放棄ともとれる命令が下されているわけだが、果たしてこれは指揮している事に分類していいのか? と疑問を呈したくなる。
とはいえ、ほとんどのモブ雑魚個体はそんな疑問を抱くことなく、ただただ上位個体の命令に従い、後は本能の赴くままに暴れまくる。
そこに明確な各個体の意思はない、個性もない。
例外たるナイトゴーントを除けば……
そう、ただただ命令された事だけを実行する、それ以外の思考を持ち合わせていないモブ雑魚個体の中には、たまに例外的に下された命令に疑問を抱き思考をめぐらせる個体が出現する。
そういった個体は上位個体や特殊個体へと進化する可能性を秘めており、何かをきっかけとして、突然そのポテンシャルを発揮させる。
そして、ナイトゴーントはそうして上位個体へと進化した一体であった。
城塞都市内部へとなだれ込んだナイトゴーントは、当初は他の個体と同じように逃げ惑う人々を襲っていたが、やがてそれにも飽きてしまい、城塞都市の中心部にある重要施設の破壊に赴いた自分たちを指揮する上位個体の後をつけた。
そもそも城塞都市内部に入ってからの命令は「各自各々好きに暴れてどうぞ」というものであり、ほぼ指示されていないに等しい。
各々好きに暴れていいというのなら、上位個体の近くで暴れても問題はないはずだ。
まぁ、一様はこちらの邪魔にならない程度でとは釘は刺されているのだが……
そんなわけで、ナイトゴーントは物陰に身を潜め、上位個体の様子を観察する。
上位個体は出撃してもぬけの殻となったビースターの本拠地を破壊しようと企んでいたが、しかしそこには出撃しなかった。否、できなかった予備のビースターが数機ほど待機しており、そのうちの1機は完全に変形して戦闘態勢に入っていた。
とはいえ、所詮は予備機……上位個体の攻撃に抗う事はできず、敗北してしまうが、しかしそこは腐ってもビースターである。敗北する直前、予備のビースターは一矢報いて上位個体に致命傷を負わせていた。
刺し違えてもバイオスターを倒すという強い決意の表れだったのだろうが、しかしそれで自らも命を落としてしまっては意味がないと思うのだが……
ナイトゴーントはそう思いながらも、しかし予備ですらこれだけやれるのだ。ならば今ここにはいない、1軍のビースターだったらどうなっていただろうか? と思わず、畏怖の念をこめて倒れた予備のビースターを見る。
変形合体もしていない状態でこれだ。まさに背筋が凍る思いに駆られるが、同時にこうも考える。
今回のように主力のビースターを別の場所にうまく誘導できたら、残った予備のビースターを各個撃破できるのではないか? と……
そう、ビースターも我々バイオスターと同じく、合体すればするほど強化されていくタイプだ。
ならば、合体する前の状態のビースターを破壊すれば、ビースターは強化された姿になれないという事になる。
とはいえ、素直に破壊されてくれるだろうか?
そう考えていた時だった。
誰かがこちらへと大急ぎで走ってくるのが確認できた。
それは子供と、すでに前線を退いた元パイロットであった。
ふたりは無傷のビースターの予備機に乗り込むとビースターを始動させた。
乗り込んだ2人によって動かされるビースターを見てナイトゴーントはある事を思いつく。
(そうか、パイロットの誘導役を買ってでれば、大人であっても中に入る事ができるのか! ならば、これを利用しない手はない)
ナイトゴーントは身を隠した状態のまま翼を広げ、負の感情を抱く相手の意識を奪う攻撃を放つ。
今は城塞都市中が負の感情に包まれている。
それはナイトゴーントからすれば、まず失敗する事はないという好条件が整った事を意味していた。




