第100話 「アモロ」
神父ルディからの勧誘。
物語は、全13種のアイテムを探すストーリーへ……
行かない。
「悪いけど、断るね」
フォックスは拒否した。
「!? オーナー?」
ずっこけるトラ。
「神父。助けてもらったことは恩に着るぜ。けどアタシ達は、アイテムを外すために旅してんだ。アイテムをそろえるなんざ冗談じゃねえ」
ふんぞり返って、フォックスはルディを見上げる。なんと憎たらしい顔をするのか、この女は。
「たまたまとは言え、あんたがレインショットを見つけ出せたのは、アタシらがいればこそだろ? これでもう貸し借りなしってもんじゃねえか?」
メチャクチャ言い出した。
「ちょ……ええ!?」
困るトラ。
「……」
フォックスを見下ろすルディ。
ガイコツの顔で見つめられると、本当に怖い。
「……詭弁だと思わないかね? むしろ私は、君たちをレインショットの魔の手から救ってあげたと思っているのだが。実際、ヤツを憎んでたんじゃないのかね?」
ルディまでムチャクチャ言い出した。
どんどん表情がこわばるフォックス……
「おうさ、アタシはレインショットを殺してやろうと思ってたぜ? この手で火葬してやりたかったのに、あんたにその機会を奪われちまった。それなのに恩着せがましい態度はやめてほしいね」
「恩着せがましい? さっき、恩に着ると言ったじゃないか。あれは嘘かね?」
「はぁ? 言ってねぇけど」
睨みあい。
「……こんなことは言いたくないのだが、君たちを警察に突き出してもいいんだよ? これは脅迫ではない。指名手配犯を見つけたら、通報するのが市民の義務だからね」
完全な脅迫。
神父とは思えない発言だ。
「だったら、さっきの女どもを人質に取るまでだ。ニニコをシーカに攫われてんだ。ズルいとは言わせねえぜ?」
完全な脅迫。
じつに指名手配犯らしい発言だ。
一触即発―――
その空気を破ったのは、いままで空気状態だったトラだ。
「タイム。ちょっとオーナー!」
あわててフォックスに耳打ちをする。
ひそひそ。
「オーナー、ここは言うこと聞いときましょうよ。意地はっても、俺たちのが不利っすよ」
「バカ! こいつらだって、そのテログループだかゲリラだかを殺してんだぜ? ましてレインショット殺害の現行犯じゃねえか。警察に通報されたら困んのは、向こうも一緒なんだよ!」
フォックスも耳打ち。
ひそひそ。
「手配犯の俺たちがどうやって警察にタレこむんスか。向こうの目的がアイテムを集めることなら、俺たちのアイテムも粗末にしないはずッスよ。いまはルディの機嫌損ねないほうがいいですって」
ひそひそ。
「いーや、アタシは信用できねえ。さっきの聞いたか? 我々が鎧を管理するとかホザきやがったぞ。正しきボクたちなら悪用なんかしませんってか? マンガに出てくる悪の組織そのまんまだぜ」
ひそひそ。
「とにかく、やたらケンカ腰なのはやめてくださいよ」
ひそひそ。
「お前が言うな! アタシたちの目的は “ アモロ ” を探すことだろーが。忘れたのか」
ひそひそ。
「ぜんぶ聞こえているんだけどね!」
聞こえてたらしい。
ルディが声を荒げる。
その直後―――
「フッ……ハハハハハハハハハ! なんだそうか。そういうことか! ははは!」
笑いだした。
ガイコツが、カクカクと上下する。
「ハハハハハハハ……」
「うわ、なに!?」
「な、なにがおかしいんだよ!」
あっけに取られるトラとフォックス。
というか、ドクロの仮面で大笑いされると怖い。
「ははは! す、すまない。君たちは “ アモロ ” を探してるのか。なるほど考えたな、たしかにアモロなら呪いを解けるか」
ハハハ!
ハハハハ!
「そうか、アモロか! それならそうと、早く言ってくれればいいのに……ハハハハハ!」
ルディの言葉に、2人の表情が変わる。
い、いまなんて!?
「な……!?」
「し、知ってんのか!? アモロがなんなのか?」
「ハハハ。知ってるもなにも、これですべて解決だよ。もしかして知らないのかね? アモロとは鎧……いや、13のアイテムのひとつさ」
「んにゃ!?」
「マ、マジ!?」
飛び上がる。
明かされる真実。
アモロの正体は、アイテム!?
マジ?
「本当だとも。なんならすべて教えてあげようか」
ようやく笑いのおさまったルディ。
さっきまでと、まるでちがう明るい口調になった。
「まず、トラくんの『 足枷 』、
フォックス君の『 焼き籠手 』、
シーカ君の『 煙羅煙羅 』、
おなじく『 朽ち灯 』、
ニニコ君の『 真っ白闇 』、
マリィ君の『 水な義肢 』、
私の『 咲き銛 』、
それから『 穢卑面 』、
そして、
『 独楽 』、
『 井氷鹿 』、
『 アモロ 』、
……以上の13個だ」
ここにきて、アイテムの全容が明らかになった。
お待たせしました。
物語はついに佳境へ―――
いやいや。
ちょっと待って。
「マジかよ!! すげえ…………足らんぞオイ」
「ちょい待ち。えー、足枷、焼き籠手、朽ち灯…………ど、どこが以上なんだよ!」
指折り数えるトラ。
確かに、11個しかない。
あと2つは?
「残りはヒミツだ」
内緒にするルディ。
「ブチ殺すぞ」
「ブチ殺すぞ」
トラとフォックスがハモる。
「11個そろったら教えよう。言っておくが、この咲き銛から聞いて、私はすべての呪いについて知ってるんだ。あとは居場所だけ……さて、どうするかね?」
ブチ殺すとか言われても、ルディは教えてくれない。むしろ平然としたものだ。なんとなく、仮面の下で笑っているような気がする。
いや、その前に聞き捨てならない。
「なあルディ、さっき言ったのはマジなんだよな?」
「さっき……? 私がなにか言ったかな」
「アモロなら呪いを解けるって、たしかに言ったよな? どうやってだ。具体的に教えろよ」
「……さて、そんなこと言ったかね? 覚えがないな」
「……教えて?」
「もっと我々の関係が深まれば教えてあげよう。どうするかね?」
明らかになにか隠しているルディ。
だが……これはダメだ。
教えてくれそうもない。
「う……キッタねえな」
「アンタ、確実に天国行けねえぞ」
ブーブーと悪態をつくトラとフォックス。
いや、悪態をつくぐらいしかできない。
今度こそ。
今度こそ、選択肢のない勧誘。
「まずはアモロを探すんだよな?」
いちおう聞いてみるトラ。
しかし―――
「ダメだ。まずは井氷鹿だ。アモロは最後だ」
きっぱり。
きっぱり断る、したたかなルディ。
ぐむぅ。
唇をかむトラとフォックス。
考える。
考えこむ。
フォックスの答えは―――
「チッ! 足もと見やがって……わかったよ。ほかに行くとこもねえしな」
承諾。
「トラくんは?」
「ケッ、しゃーねーなーって思ってるよ」
しぶしぶ、承諾。
「これですべて問題なしだな。神よ……感謝いたします」
祭壇に向かって一礼するルディ。
そして、そっとフォックスに右手を差し出した。
「ありがとう、2人とも。これからよろしくお願いするよ」
「まだ釈然としねえけどよぉ……まあ、とりあえず世話になってやるぜ」
フォックスと握手。
もちろん彼女の右手を覆う、籠手との握手だ。焼き籠手が、ガチャリと音を鳴らした。
次に、トラと握手。
「よろしく、トラくん」
「あいよ。こちらこそなルディ」
ルディの傷だらけの掌よ。
いったい、どれほどの修羅場をくぐってきたのか。
いや、それより聞かねばならないことがある。
「けどルディ。アイテム集めるんなら、水な義肢のことはマズかったよな。軍艦に置きっぱなしだぜ、どうすんだ?」
首をひねるトラ。
「ああ、水な義肢ね……それは…………うん。たぶん海軍か、海上警察が持って行っちゃったんじゃないかな。たぶん」
ルディの声が、すこし裏返ったように感じる。
要領を得ない反応に、トラのほうが驚きの声をもらす。
「いや、たぶんてオイ。もしかしたら水な義肢のやつ、もうほかの誰かに憑りついてるかもしれねえぜ」
「まあ、その可能性もある」
「どうすんの?」
「そのときはそのときだ。新たに水な義肢に呪われた被害者を、また勧誘に行くさ」
「んな……」
絶句するトラ。
そんなズサンな計画でどうする……と言いそうになった。
どうもこのルディの考えてることは、根っこの部分がよくわからない。壮大な話をしたかと思えば、いいかげんなことを言ったり。
どうも掴みどころのない男だ。
しかし、フォックスは気にする様子もない。何本目かわからないタバコをふかし、じろりとルディを見上げる。
「トラよお、水な義肢のことなんかどうでもいいだろ。お前、なにアイテム集めに積極的になってんだよ。ほっときゃいいんだ」
スパー。
「いや、積極的になってくれたまえ。ほっとかれては困る」
たしなめるルディ。
「じゃあまず、アタシがいちばん気にしてること解決してくれよ。ニニコとシーカは、今どこにいんだ?」
「……さあ?」
肩をすくめるルディ。
「さあ!? おい頼むぜ」
「と、言われてもね。何度も言うが、私には “ 探索 ” が出来ないんだ」
「シーカと連絡方法は? ライナとか知らねえの?」
「ライナとはなにかね?」
「の……オッサン!」
「ライナって、なにかね?」
たちまち言い争いになる。
念のために補足しておくが、ライナとはコミュニケーションアプリ「LINA」のことだ。
「ハア……もういい。籠手よ籠手さん、ニニコとシーカはどこだ?」
ため息をつき、フォックスは右手を持ち上げた。
探索……
ガシャン!
『あっち』
ビシ……!
焼き籠手が、南の方角を指さす。
『南南西の方角、940キロ……』
「おいちょっと、940キロて。まさか国境超えてんじゃねえのか」
顔色が曇るフォックス。
「待ちたまえ……ふむ、ふたりがいるのは、どうやらホテルの部屋だな。この広さはスイートルームか? 贅沢だな」
フォックスの心配をよそに、ルディは軽く天井を見上げてつぶやいた。
ホテル?
スイートルーム?
なんでそんなことがわかるのか?
……見ているのか?
「なんでそんなことが……もしかして、いま見てんの?」
「まあね。シーカ君もニニコ君も、部屋で食事してるようだな……んん? ちょっと待ってくれ」
待ってくれ、とフォックスを制止したルディ。ごそごそと、ポケットから携帯電話を取り出した。なつかしい、ふたつ折りの携帯電話だ。
いまどきこんなの使ってるとは……さすがにライナを知らないだけのことはある。
「待ってくれ。えー……0、7、4、2……4、2、0……1……」
電話をかけ始めた。
PLLLL、PLLLL、PLL。
PL!
つながったらしい。
「もしもし? 私だ、ルディだよ。シーカくんかね?」
「はあ!?」
「なん……」
ガタッ!
ガタッ!
トラとフォックスが飛び上がる。
シ、シーカ!?
おどろく2人をほっといて、ルディは通話をつづける。そのうち携帯から、たどたどしい声が聞こえてきた。
間違いなくシーカの声だ。
《そ、そ、そっちは? ど、どうなった?》
「ああ、こっちは問題ないよ。それより、なにか私に言うことはないのかね?」
《エ、エ、エビ、美味い》
「ちがう。高速道路から私を落としたことだ」
《ご、ご、ゴメン》
「よろしい。フォックスくんに代わるから待ってくれ。はい」
はい。
と、フォックスに電話を差し出すルディ。
「い? アタシ!?」
とつぜん携帯を渡される。
いや、そんな急に……おそるおそる、フォックスは受け取った。
「…………もしもし?」
《や、やあ、フォックス》
受話器から聞こえたのは、のんきなシーカの声だ。あまりにもあっけらかんとしすぎて調子が狂う。
……いやいや。
なんでいきなり電話をかけられるのか?
どうやって電話番号を知ったわけ?




