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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第13章「身も蓋もないバイブルを焼き捨てる夜へ」
99/250

第99話 「ノゥ」




挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「私が皆殺しにした。660人全員ね。大変だったんだよ、本当に……気の遠くなるような日々だった」


 神父の告白は続く。

 自身の、壮絶(そうぜつ)な復讐の日々―――


「ようやく皆殺しにしたと思ったが、肝心(かんじん)の白リン弾の入手ルートだけは、まったくわからなかった。それで仕方なく、幹部メンバーを拷問(ごうもん)したんだ」


 ルディは、平然と殺人歴を語る。

 ドン引きのトラとフォックス。


「アンタ、さっきからスゴいこと言うよね。さらっと」

「もうこっちもサラっと聞こうぜ。で、拷問してどうした?」


「どうもこうも、拷問したその幹部が言ったんだ。ノースピークの脱北(だっぽく)兵から横流しされた……とね」


 淡々(たんたん)と話すルディだったが、すこし声のトーンが低くなる。

 脱北兵……というと、アイツのことに違いない。



「レインショットか」

 苦々(にがにが)しく吐き捨てるフォックス。



「それが4年前のことだ。さすがに気を失いそうになったよ……どうやって探せばいいのか、見当もつかなかった。もう探すのを(あきら)めようという意見も出たくらいさ」

 ルディが肩をすくめる。


「それでも我々(・・)は探しに探した。そして、ついに見つけた。一昨日(おととい)ようやくレインショットを殺して、ようやく私たちの復讐は終わった。長かったよ……」



「じゃあ、さっきの女どもがキャーキャー喜んでたのって、家族の(かたき)()てたからだったのか」

「そ、そりゃおめでとう。ついてけねえくらいスケールのデカい話だったけど……え、この復讐、アンタひとりでやったの?」


 なんと言っていいのかわからず、おめでとうとか言っちゃったトラ。だがこんな大規模な復讐を、果たしてひとりで出来るものなのか?

 たとえアイテムを使ったにせよだ。



「まさか! 私ひとりでなんて無理だよ。支援者たちといっしょにだ。アルベル・スタジアム事件の被害者、そして遺族たちだ。

 事件の関係者、18744人が支援団体を作って私を支えてくれた。いわば復讐の共同体だ。いまでは全員が家族みたいなものだよ」


「それじゃ昨日で……いや、おとといか。レインショットを殺して悲願達成ってわけ?」

「それでさっき、電話が鳴りっぱなしとか、メールがメッチャ来てるとか言ってたのか。その支援者から祝電殺到(しゅくでんさっとう)ってわけだ」



「そうだ……今日の吉報(きっぽう)を、みんなに聞かせてやりたかった。この12年の間に、18744人中、311人が死んだ。

 ある者は老衰(ろうすい)で、ある者は事件の後遺症で、ある者は(みずか)らの手で自らを……無念だよ」



 ……狂気のストーリー。

 さすがのトラとフォックスにも茶化(ちゃか)せない。

 たまらず話題を変えた。


「そ、それはそれは……で、次に……ええと、なにを聞きゃいいんだろ?」

「シーカとアンタは、どういう関係なんだ?」


 よりによって、シーカの話。

 聞きたいかそれ?



「関係と言われてもね。つい先日、いきなり彼がここを訪ねてきたんだ。たしか “ 探索(たんさく) ” とかいうので探したとか言ってたな。そう言えば、フォックスくんの籠手にもできるんだったね?」

「ああ」


 フォックスの、気の抜けた返事。


「シーカ君はそれを使って、" 穢卑面(エヒメ) " と " ()(もり) " に会いに来たんだ。その宿主(やどぬし)が、たまたま私だったんだ」



 どうやら、シーカはいまだにアイテム探しを続けているらしい。

 まあ、どうせ煙羅煙羅(えんらえんら)の指示だろうが。



 ……ちょい待ち。


 トラとフォックスの頭上に、疑問符が浮かぶ。


「ちょい待ち、エヒメって?」

「もしかしてその仮面?」

 2人そろって首をかしげる。


「おっと、言い忘れたね。私の呪いの名前だよ。この仮面が “ 穢卑面(エヒメ) ”。胸甲はもう知ってるね、“ ()(もり) ” だ」

 右手で仮面を、左手で胸甲を指さすルディ。

 彼がはじめて見せるひょうきん(・・・・・)なポーズで、ちょっと面白い。



『遅ればせながらよろしく。トラ、フォックス』

 あいさつする咲き銛。

 こうして話していると、とても礼儀正しいアイテムのようだ。



「俺の首を刺しといて、よろしくも無いもんだぜ。そうだ、さっき頭もドつかれたんだった」

 悪態をつくトラ。

 ふんとタバコの煙を吐いて、ひどく行儀が悪い。


「なるほどな、シーカがアタシらの居場所を探したってわけか。でも、なんでアタシらなんか探索したんだ?」


 すぱすぱと煙を吐くフォックス。

 いつの間にか、灰皿に5本も吸い(ガラ)が出来ていた。吸いすぎだ。



「いや、それはとくに理由はない。たまたま君たちの話になって、成り()きでだ。そうしたら君たちは、なぜか軍艦の上にいてね。

 その軍艦を見ていたら(・・・・・)、たまたまレインショットが見つかったんだ。さすがに驚いたよ、こんな偶然があるとはね」


 顛末(てんまつ)を語るルディ。

 

 しかし……え?

 フォックスとトラの眉間にシワが寄る。


「えー……はい??」

「いま、なんて言った? 見ていたら(・・・・・)ってなんだよ?」



「ああそうか、それも説明しないとね。穢卑面(エヒメ)の能力は、遠視なんだ」

 ルディが自分の仮面を指さす。

 

「どんなに離れた場所でも……たとえば密閉空間だろうが地球の反対側だろうが、深海の底だろうと見る(・・)ことができるんだ。いわゆる千里眼(せんりがん)というやつだ。自分のうしろ姿でも見える」



「……無敵じゃん」

「見るってのはその、具体的に……いや今はいいや。それで?」



「どこまで話したかな。そうそう、白リン弾を売ったのがレインショットだと判明した。だが、どこにいるのか探しようがなかった。

 4年間……ずっと足取りを追ったが、どうしようもなくてね。それを偶然やってきたシーカくんが、たまたま君たちを探索したことで見つかったんだ。皮肉なものだよ」


 上手い話もあるものだ。

 出来すぎた話とも言えるが。


「見つけたときビックリしたろ?」

「アタシならショック死するかも」


「心臓が止まるかと思ったさ。そう言えばフォックス君は、ヤツに密入国の手引きを依頼したんだろう? よくレインショットにコンタクトを取れたね」

 ルディのため息。

 なんとなく、感心したみたいな口調だ。


「我々が4年かかっても探せなかったのに、大したものだ。どうやってヤツに接触したのかね」



「そりゃカンタンさ。アタシもノースピークから亡命(ぼうめい)したからな」

「なぬ!?」


 あっけらかんと言うフォックス。

 ルディも、変な声で驚いた。


「コミュニティを持ってんのはアンタらだけじゃねえ。そっち(・・・)関連のコネで密輸業者探したら、たまたまレインショットに再会しちまってよ」


「……なんてことだ。君たちのエピソードのほうが、はるかにスゴいじゃないか」

 しみじみ。


「ビックリした?」


「驚いたに決まってるだろう。まあいい。とにかく私も、たまたまレインショットを見つけたわけだ。すぐに “ 軍艦かしはら ” の着港地点の町に、飛行機の予約を取らせた。その日の便(びん)に空きがあって幸運だったよ。

 もちろん飛行機のなかでも、かしはらの監視を続けていた。

 ところが予想もしないことが起こった。

 マリィ君だ。

 彼女が軍艦にやってきて……あとは知ってのとおりだよ」




挿絵(By みてみん)




「…………なるほどね」


 マリィの名前が出たとたん、フォックスの顔色が変わる。どこか悲し()な……その表情に気づいたトラが、あわてて続きを催促(さいそく)した。


「よ、よう。それよか、シーカが連れてたロボットは? やっぱ “ 煙羅煙羅(えんらえんら) ” か?」

 ちょっと無理のある話題の変えかただ。

 まあ、トラにしては上出来だろう。



「ん? ああ。煙羅煙羅(えんらえんら)の話は、説明するほどのことじゃないんだがね……」

 ルディは少し考えこみ、ぽつぽつと語る。


「えーと、まず私は飛行機を予約して、空港に向かおうとした。もちろん大急ぎでだ。ところがそのタイミングで、シーカ君がパニックを起こしてね。

 何事かと思ったら、煙羅煙羅(えんらえんら)が外れたと大(さわ)ぎだ。あれには参ったよ」


 本当に参った、と言わんばかりのルディ。

 さぞかし大変だったのだろう。たしかにシーカがテンパったら、なに言ってるか聞くだけでも困難だろう。



「どんな感じだったのかな」

「は、は、外れた! とかそんな感じじゃないスか?」

 

「だいたいそんな感じだった。とにかく私は空港に急がねばならなかったんでね。ゆっくり聞いている余裕がなかったんで、仕方ないから一緒に連れてきたんだ」




挿絵(By みてみん)




 シーカが港に来たのは、あまりにバカげた理由だったようだ。

 いや、それよりも重要な疑問がある。

 

煙羅煙羅(えんらえんら)は、なんで外れちまったんだ?」

 

「どうやらニニコくんが、煙羅煙羅のネジを食べたそうだね。正直、信じられんのだが……本当に食べたのかね? とにかく、ネジがないから取れちゃったらしい」

 肩をすくめるルディ。


 トラとフォックスが大きくため息をつく。

 ……予想したとおり、ニニコのせいだったか。


「やっぱりか、くだらね」


 自分たちの人生をメチャクチャにした呪い。

 それが、こんなしょうもない理由で脱着(だっちゃく)したと聞かされては、たまったもんじゃない。



「なあなあ、えっと……咲き銛だっけ? ようするにシーカはどういう状況なんだ? 煙羅煙羅の呪いを解いたって感じなのか?」


 いきなり咲き銛に質問するフォックス。あまりにもふつうに話を振ったので、トラのほうが驚いた。

 よくもアイテムなんかに気軽に話せるもんだ、この女は。



『いいえ、フォックス。あくまで煙羅煙羅は、シーカの上腕に憑依していられなくなったというだけです。べつに呪いから解放されたわけではありません』

 ふつうに回答する咲き銛。

 当たり前みたいに、会話に参加してくるアイテム……



「っていうと?」

『ノルマを満たすまでは、一生あの姿の煙羅煙羅(えんらえんら)につきまとわれます』


 プッ!

 思わず吹き出すフォックス。


「へへ! そう来なくちゃな。アイツばっかラッキーパンチで呪いを解かれちゃたまんねえよ」

『同感です。そんなに簡単に解呪されては、我々の立場がありません』


「お、アイテムにしちゃ言うねえ。朽ち灯とちがって、お前のことは気に入ったぜ」

『どうやら私もあなたが気に入りましたよ、フォックス。あなたはとても美しい』


「嬉しいこと言ってくれるじゃん。お前のデザインもなかなかイカすぜ」

『同感です、なんて言っちゃったりして』



 なんという順応力……さすがはバーベキューファイアと言うべきだろうか。あっという間に、咲き銛と打ち解けた。

 咲き銛は咲き銛で、フォックスにお世辞(せじ)まで言う始末だ。


 コミュニケーション能力の高さは、人間とアイテムの垣根を超えるらしい。



「ちょっといいかね? さっきから気になっていたんだが、アイテム(・・・・)というのは(よろい)のことかね。ユニークな表現だな」

 ルディの質問。


「やっぱアンタもそう思う? いつの間にか俺もそう呼んでるけど、なんか違和感あるよな」

 (うなず)くトラ。

 こいつもアイテムという呼びかたに、引っかかるものがあったようだ。


「それより、そろそろ聞かせてくれよ。なんで俺たちを助けてくれたんだ? あんたの目的がぜんぜん見えてこねえよ。もう復讐は終わったんだろ?」 



 1秒。

 5秒……沈黙が続く。


 ようやくルディが答えを返した。



(よろい)……君たちの言葉を借りれば、アイテムか。13個すべてを集めたい」


「はあ?」

「はあ?」

 予想もしなかった回答。


 つぶやくように、フォックスが口を開いた。


「……なんで?」



「私の願いではない。この穢卑面(エヒメ)と、()(もり)の願いだ。アイテムたちは、ひとつの鎧に戻りたいそうでね」

 ルディの口調は、あくまで(おだ)やかなままだ。


「……だからなに? それを(かな)えてやる理由は?」 

 

 一方、フォックスの口調はキツくなる。

 黙って聞いてるトラの表情も、(けわ)しくなってきた。



「私が復讐をなしえたのはアイテムのおかげだ。だから今度は、私がアイテムのために出来ることをしてやりたい」


「じゃあなに? アイテムを収集するついでに、アタシらも連れてきたってことかよ。そんでアタシらにもアイテム探しを手伝えと?」



「それは言いかたが悪すぎる気がするがね……まあ、平たく言えばそういうことだ。ただ個人的な意見を言えば、べつの意味で集めたいんだがね」


「はあ? んだよ、個人的な意見て」



「正直言って、この鎧はどれもこれも危険すぎる。私が言っても説得力がないかもしれんが……悪党に悪用されたら手がつけられん。全部まとめて、誰かが管理すべきだと思う。ならいっそ、私の教会ですべて管理しようと思ってね」


「イヤミか! アタシはこの籠手を悪用しかしたことねえぞ」



「だったらちょうどいい。今日でもう悪用するのはやめたまえ。いずれにしても鎧集めに力を貸してほしいんだ。君とシーカくんの “ 探索 ” があれば、たやすいことだろう?」


「たやすくはねえだろ。ていうかアンタの活動資金は、その支援者だかが負担してんだろ? みんな納得すんのかね?」

 ものっすごい、気が乗りません(・・・・・・・)アピール。


 しかし。



「それは問題ない。復讐を果たし終えたら、()(もり)の願いに従う。これは支援者18744人の合意だからね」

 問題ないですけど(・・・・・・・・)アピールをするルディ。



「…………」

 考えこむフォックス。

 しばらく、うーんと首をひねり……


「悪いけど、断るね」


 断っちゃった。




挿絵(By みてみん)




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いま書いてるやつよ。

 ↓

チャッカマン




イタいぜ!



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