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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第13章「身も蓋もないバイブルを焼き捨てる夜へ」
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第101話 「ホテル」




 すこし時間はさかのぼる。 

 場所は変わって、ここはガネットプリンスホテルのスイートルームだ。


 ニニコとシーカと、煙羅煙羅(えんらえんら)が宿泊する部屋にシーンは移る。


 ……ホテルに泊まってんの?



 11階のツインルームは、夜景を一望(いちぼう)できるオーシャンビューだ。貿易港に面した(わん)には、大型のクルーザーが何(せき)も行き来していた。

 月明かりと船灯が海に反射し、宝石のようにきらめいている。


 そんなこととはまったく関係なく、室内はひどくやかましい。

 ニニコのせいでな。



「こっちに来ないで! 毒ガスを()くわよ! ワーワー!」


 ホテル中に聞こえるんじゃないかってくらいの大絶叫。

 ニニコはベッドの(すみ)で、毛布にくるまって泣いている。" 真っ白闇 " から触手をいっぱいに伸ばし、わんわん泣きわめいている。


「触らないで! 来ないで! ワーワー!」


 (おび)えるニニコの、なんと小さなことか。

 しかしホントにうるさい。




挿絵(By みてみん)




 おや?

 ニニコが着ているのは血みどろのサマードレスではなく、ホテルのパジャマだ。かなりサイズが大きいが、シーカが着せかえたに違いない。


 ということは、いまさら(さわ)らないでもなにも……だが愚かなニニコは、自身の服装の変化に気づいてないようだ。


「触らないで! 来ないで! ワーワー!」

 なんと愚かなのか。

 


「あ、あ、あ、うん」

 

 それに対してシーカは、部屋の中央のソファでくつろいで(・・・・・)いた。ニニコは来ないでと叫んでいるが、近づいてすらいない。

 

 そんなことより、テーブルの上はすごい。

 ホテルのシェフ自慢のフルコースが、ずらりと並んでいる。



 赤ワインソースの伊勢エビのグラタン。

 手長エビ(スカンピ)のフリット。

 牛エビ(ブラックタイガー)のチリソース炒め。

 夏野菜のチップスを()えた車エビの副菜(コントルノ)

 赤座(あかざ)エビと獅子唐(シシトウ)のパスタ。

 芝エビのロールキャベツ風スープ……

  

 ごちそうを前にして、シーカはまだ手をつけていない。


「ニ、ニニコ。食べ・よう」

 

「エビばっかりじゃないの! ワーワー!!」

 メニューに文句を言うニニコ。

 いや、美味そうだが。



 シーカのとなりには、煙羅煙羅(えんらえんら)が、ちょこんと鎮座(ちんざ)していた。短い足をソファに投げ出し、あろうことか葉巻を吸っている。プカプカ。

 

『ニニコ、冷めてしまうぞ!』


 まるでお母さん……

 泣き叫ぶニニコに、早よ食えと(うった)える。 



「大きなお世話よ! なによ、その超合金のおもちゃは! ワーワー!」

 拒絶。

 話を聞きゃしない。

 


『何度言わせる! 我は煙羅煙羅(えんらえんら)だ。お前がネジを食ってくれたおかげで、シーカの肩から外れてしまったのだ。どうしてくれる!』

 

 ひどくプライドを傷つけられたのか、煙羅煙羅の声が(すご)みを増す。恐ろしい声に、さすがにニニコも、びくりと声を詰まらせた。


「ど、どうって……」

 


「どうも・しなくて、いいよ」

 ふふ。

 小さく微笑(ほほえ)むシーカは、やたら落ち着いた声だ。


「た・た・食べよう。腹減ってる、だろ?」

「うぐ」


 ぐっと声を詰まらせるニニコ。

 やがて、ちいさく返事をした。


「……………うん」



 ニニコはのろのろと立ち上がり、シーカの向かいのソファに座った。

 素直(すなお)な子なのよ、ホントは。


「……いただきます」

「い、い、いただき・ます」


 2人して、行儀よくフォークを持った。

 たいへん遅い晩餐(ばんさん)が、やっとはじまる。



 カチャ、カチャ。

 モグモグモグ。


「……おいしい」


 3種の貝と海老(エビ)のポタージュを堪能(たんのう)するニニコ。ペコペコのおなかに、すっと入ってくる。

 にこにこ笑いながら、ワインを口にするシーカ。


「は、話は、わかって・くれた?」

「うん……」


 難しい表情を浮かべるニニコ。

 かたんとフォークを皿に下ろす。



「そのルディ神父が鎧を集めてるのね?」

「う、ん」


()白闇(しろやみ)の呪いを解くのを、手伝ってくれるのね?」

「う、ん」


「だから、私にも(よろい)集めを手伝わせるのね?」

「い、い、言いかたが」


「そうなのね?」

「う、ん」


「シーカは、ルディ神父を手伝ってるの?」

「いまのとこ、そ、そういう感じ」


「じゃあ “ ()() ” も、ルディ神父にあげちゃうの?」

「ぜったい、渡さない」


「じゃあそれが原因で神父と対立したら、どうするの?」

「ま、ま、まだ・考えて・ない」



 気まずい食卓になる。

 どうやらここでもアイテム集めの話になっているが、あんまりニニコの反応はよくない。


 と……おや?



「? なにこれ?」


 ニニコが、テーブルに置かれたメモ用紙に目を向けた。そこには、でかでか(・・・・)と電話番号が書かれている。

 なにこれ?


「なにこのメモ。電話番号?」




「ん? んん!」

 あわてて、口の中のものを飲みこむシーカ。

 もぐもぐもぐゴクン。


「こ、この部屋の、で・で・電話番号だよ。そ、そのままに、しといて」



「……意味わかんない。それよりいいかげん、シーカの目的を聞きたいわ。シーカはいったい何がしたいの? なにが目的なの?」


 いよいよニニコは、シーカの本心をさぐる。

 真剣な表情で、じっと彼の顔を見すえた。


 だが返ってきた答えは―――



「べ・べ・べつに?」

 ものすごい答え。



「ムッ……なにそれ。べつに(・・・)ってなに?」


 ムッとするニニコ。

 シーカは、困った顔で説明をつづける。


「え、え、煙羅煙羅(えんらえんら)は、ひとつの、鎧に、なるのが、目的。で、でも、俺、は……」

 身ぶり手ぶり説明する。

 けどなに言ってんのか、さっぱりわからん。



『ええい、うっとうしい! 我が説明する!』

 煙羅煙羅が割って入ってきた。

 ひどくイラついた口調だ。


『よいかニニコ。我は……いや我ら(・・)はもともと一領(いちりょう)の鎧だった。だからふたたび、一領の鎧に戻る。簡単な話だろうが!』



「私はシーカに聞いたのよ! なによ、()って!」

 またニニコがわめく。

 じつに興奮しやすい娘だ。


『いちいち(わめ)くな、うっとうしい! 領とは、鎧を数える単位だ。そんなことはいいから聞け!』

 怒る煙羅煙羅。

 じつに興奮しやすい。

『我らは、ふたたび一領の鎧に戻らねばならん。ここまでは良いな?』


「ちっとも良くないわ!」


『良いのだ! だがシーカ(こやつ)め。()()だけは、絶対に手放さないなどとほざきおる! バカげておる!』



「そ、そんな・感じ」

 バカとか言われたシーカだが、ぜんぜん気にする様子もない。にこやかに、しかし聞く耳持ちませんといった笑顔で答える。


「く、く、朽ち灯は、死ぬまで・俺の」


 朽ち灯は死ぬまで俺の……俺のなんだというのか?

 相棒とでも言うつもりか?


 回答を待たず、煙羅煙羅は続ける。


『ええい、ならば方法はひとつ! だれが鎧を着るかは(あと)まわしだ。とりあえず、すべて集める! それしかあるまい、違うか?』



「なにもかも間違ってるじゃないの! ふざけないで!」

 ガシャン!

 勢いよくニニコは、テーブルを叩きつけた。ふだんの彼女ではありえない無作法だ。


 そしてついに、ついにニニコは、いちばん聞きたかったことに(せま)る。


「ずっと不思議だったの。あんたたち(・・・・・)は、いったい何なの? なんで意思をもって動いてるの? こんな……こんな非科学的なものってある!?」

 ()える。

 腹の底から吠える。



 煙羅煙羅の答えは……



『知るか、そんなこと』


「なッ……?」   

 

 固まるニニコ。

 知るかって、なに?

 


『我らは、ただ存在しているだけだ。生まれた経緯(いきさつ)も、なぜ超常の(ちから)を持っているのかも知らん。知ったことか』

「知ったことかって……そんな無責任な」


『ほう。では、お前は知っているのか? なぜお前は、ニニコ・スプリングチケットなのだ? 教えてくれ』

「むぐっ……」


 煙羅煙羅の勝ち。

 ニニコの負けだ。

 アイテムの正体について、煙羅煙羅から聞けると思ったのに……本人も知らないんじゃ、どうしようもない。



『続けるぞ。だれが鎧を(まと)うにしても、ひとつ問題がある。“ 足枷(あしかせ) ” だ』


「!……トラの長靴ね」


『あんなもの()いて歩ける人間など、ヤツのほかにおらん。というより、足枷に呪われて歩いている人間をはじめて見たわ』


「待って……! じゃあ、トラ以前に長靴に呪われた人はどうなったの?」



『それ以前の人間だと? 決まっておるわ。その場から1歩も歩けず、衰弱(すいじゃく)して死におった』




挿絵(By みてみん)




「……!!」

 ニニコの表情が一変する。

 嫌悪(けんお)……いや憎悪(ぞうお)

 そして、悲痛。


 かつて(・・・)足枷に呪われ、悲惨な最期をむかえたであろう犠牲者たち。その死を、痛切に想像してしまった。


 ……胸が()めつけられる。

 ようやくニニコは、声をしぼり出した。



「あんたたちは、とびきり(・・・・)のゴミよ」




挿絵(By みてみん)




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いま書いてるやつよ。

 ↓

チャッカマン




イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。


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