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捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~  作者: りょうと かえ
第2章 側妃、東の果てへ

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9.一夜明けて

「本当に大丈夫かしら……?」

 色々なことが頭の中を通り抜けていく。

 レオールは軍人として極めて優秀だし、エベラルド辺境伯の兵も精強なはず。

 それでもイエティはラッセリア公国において強力な魔獣だ。

 公国には数百種の魔獣がいるが、その中でもイエティの厄介さは十指に入る。

 猿に似ているが、それは外見だけ。青白い体毛に爪と角を持ち、体高は五メートル。さらには触れたものを凍らせる。

 しかも群れで襲ってくることが多く……数によっては正規軍でないと対処できない。

 もし本当に魔獣がイエティだとしたら、それはラッセリア公国から来たものだろう。

 イエティは重点的に対策と管理がされる魔獣のひとつ。それゆえ人里にまで襲来してくることはほとんどないのに。

「それが帝国にまで来たということは……っ」

 つまりラッセリア公国が魔獣討伐の頻度を低下させている疑いがかなり強くなる。そうでなければ説明がつかないからだ。

 私は唇を噛んで悔やんだ。

 ディルダが悪意を持てば、確かに公国の南部や西部で魔獣討伐を減らすことも可能だろう。

 ……でもそこまでやるなんて。

 考えもしなかったが、言い訳にはならない。

 実際に公国の政治は荒れて、私もヴォルデへ送られた。

 今、王都から情報は来るけれども制約されている。しかしそれではいけないんだ。もっと私が動いていかないと……。

 やらなくちゃいけないことがある。

 うとうとしながらも神経が高ぶって、結局寝ることができなかった。

 それでも身体をふかふかのベッドで横にできただけマシだろうか。窓のカーテン越しに朝の光が入り込む。

「レオール様がご帰還されましたー!」

「……!!」

 屋敷中に響き渡る声。人がバタバタと行き交う。

 私は簡単に支度を調え、寝室から出てレオールを出迎えた。

 屋敷の門に戻ってきた彼はいくぶんか疲れているようで――でも、少しも怪我はしていない。

 レオールは張り詰めたままの顔で、言った。

「今、戻った」

「被害のほうは……?」

「物的被害が多少。だが幸いにも人的被害はほぼなかった。討伐隊も無事だ」

「……被害が少ないのは何よりね。本当は何も被害がないほうがいいのだけれど」

「これはエベラルドの領内のことだ。コーデリア、君が責任を感じることではない」

「でも……っ」

 言いかけて、レオールが制する。

「それよりも見てもらいたい物がある。起き抜けのようだが構わないか?」

「もちろんよ」

 レオールに案内されたのは屋敷内にあるこぢんまりとした工房だ。

 これは魔獣から得た素材などを簡易に加工する作業場だろう。

「討伐した魔獣だが、やはり帝国の記録にない。その一部を持ち帰ってきた」

 魔獣は魔力の結晶体でもあり、討伐すると身体の大部分が塵になる。ただ、魔力が集中している部位は残りやすく、それで種類の判別を行う。

 イエティの場合は青色の爪や角のはずだ。

 レオールの部下が木箱を持ち込み、開けた。

 それだけで工房内の室温が数度下がった気がする。冷気がどっと流れてきたからだ。

 箱の中を覗き込むと、そこにあったのは青みがかった爪や角であった。

 イエティのものだ。暗い気持ちになりかけるが、なんとか踏み止まる。

「これはイエティの角と爪ね。間違いないわ」

「ではこれらの魔獣の大元はラッセリア公国か」

「ごめんなさい。あなた方に公国の後始末をさせてしまって……」

「君は最善を尽くした」

 レオールはこのようなところでお世辞は言わない。

 本当にそう思っているのだろう。だからこそ心が痛い。

「王都に戻ったら必ず埋め合わせをするわ。約束する」

「……ふむ」

 そこでレオールはじっと私を見つめた。

 優しさと厳格さが同居した瞳にごくりと息を呑む。

「それよりも君自身の身のほうが心配だな」

「えっ?」

「君が来てから少ししてイエティが襲来した。ヴォルデ山脈の氷と雪はイエティがもたらしたものもあるのだろう。昔から、ああも雪は降っていたのか」

「そ、それは……」

 私の記憶力に抜けはない。一度見たものは忘れない。

 でも見たことのないものの比較は不可能だ。

 ヴォルデに来たことはなく、昔と違うのかどうか判断できなかった。

 私が言葉に詰まっていると、ルーインが引き受ける。

「ヴォルデにも前々から手を入れていたと……」

「その可能性はある。ヴォルデの魔獣が制御不能になれば、領主であるコーデリアの責任問題にもなりかねん」

「……そうね」

 その前に帝国へ魔獣をあふれ出してしまったわけだが。

 何度も起きればレオールだけでは抑えきれなくなり、正式な外交ルートを通じて私の責任が問われるだろう。

 うごごご……っ! 表面上の顔は取り繕いながらも、心の中では頭を抱えるしかない。

「しかし、昨夜の出来事でひとつ前向きなこともある」

「なんでしょうか……?」

 レオールがイエティの爪や角を見やった。

「君の知識でイエティを難なく討伐できた。君にはこれらの半分を受け取る資格があるだろう」

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