6.余興
レオールの黒の帝国軍服には勲章が増えていた。
いつもぶっきらぼうでどこか不機嫌そうな彼ではあったが、実際のところは強面で誤解されやすいだけだと私は知っている。
「ようこそ、カリダード帝国へ」
「エベラルド伯様、お久し振りでございます」
ドレスの裾を持ち上げ、正式な挨拶を交わす。が、レオールは唇をやや曲げた。
「レオールで構いません。座り心地が宜しくない」
「レオール様、これで良いでしょうか。……あなたももう少し口調を砕けさせてもいいのですよ。王妃になったとはいえ、旧知の仲ですから」
「そうか……そのほうが楽だ」
レオールが息を吐く。実はこのレオール、ディルダとは遠い親戚関係で、あり得ない順位ではあるがラッセリア公国の王位継承権も保持している。
だからこのぐらいでも……。レオールの瞳が私から隣のルーインへと移った。
「隣の子は――貴殿がルーイン殿下であらせられるか」
「お見知り置き頂き、誠にありがたく存じます。私めもどうかルーインとだけお呼びくださいませ。今はコーデリア様に仕えるだけの身でございます」
「ふむ……仔細は聞いている。それが望みであれば、そのように」
さすがにレオールはルーインのことを聞き及んでいたようだ。
まぁ、接している隣国の王族の件だ。隠し通せることでもない。
「さぁ、宴を用意している。奥の間へ」
レオールに言われ、私は口を閉じた。
微妙な瞳の色合いの違い……がどうしても気になっていたのだ。
私の記憶に間違いはないはずなのに。
違和感は口に出さないと気がすまない。
瞳の色がわずかに違うのは、どういう理由か……考えるまでもなく、答えはひとつだった。
「失礼ですが、あなた様は本当のレオール様でしょうか?」
「ほう、なぜそんなことを?」
レオールが微笑む。帝国でも有数の軍人である彼には似つかわしくない。
前に会った時にはそんな笑い方をしなかったのに。
「……あなたは影武者では?」
「ふふっ、はは……やはり気が付くんだな」
レオールが嬉しそうに髪をかき上げる。何がそんなに楽しいのだろう。
「どこがおかしいと思った?」
「瞳の色と笑い方が、記憶と違います」
「素晴らしい記憶力だ。相変わらずだな」
レオールが指の先に魔力を集める。
この世界でごく僅かな者が仕える神秘の力、魔術。公国では数十人ほどしかいない。
もちろん私もルーイン、ディルダも使えない。
そんな魔術をレオールは十全に使える数少ない高位の貴族である。
レオールが指を目元に当てると、彼の緑の瞳がもっと鮮やかに変化した。
私の記憶にあるレオールの瞳だ。森に似た爽やかさと知性を感じさせる緑の瞳だ。
でもレオールの魔術は光と雷に関係する攻撃なものばかりで、そんな変装に使えるような魔術はなかったはず。まじまじと見ていると、レオールが得意そうにしている。
「君の裏をかくため練習した甲斐があった」
「そんな……ええと、事のために?」
「君は全てを覚えているからな。違和感に気付いたのはさすがだが、下らないことに全力を投じた俺の勝ちだ」
光の魔術で色合いを変えることはできる。ただ、恐ろしく高度な魔術だ。
多忙なはずのレオールが練習する価値はないように思うんだけど。
ルーインが私にこそっと囁いてくる。
「こ、こんな方でしたか?」
「うーん、前に会ったのは帝国大学なのよね。その時、彼は教員でこんな人じゃなかったような……」
私は小首を傾げる。あの時、レオールは軍学と魔術学の臨時講師であった。
厳格で物事をはっきりさせ、学生には容赦ない――でも公平でやる気のある学生を伸ばすのが得意なようで、非常に人気があった。
「笑っていたのは?」
「学んだ」
どういう顔をしていいか分からず、私は少し目線をそらした。
思ったよりもお茶目な性格だったかも。
あるいは――今、レオールは二十六歳のはず。会わなかった五年間でかなり変わったのだろうか。そんなことを考えていると、レオールが改めて手を差し出してくる。
「余興はこれくらいにしよう。そろそろ夕闇が近付く。積もる話は中で話そうじゃないか」
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