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【書籍化】捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~  作者: りょうと かえ
第5章 予見

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32.悪王

 ディルダにはひとつ、コーデリアも知らない才能があった。

 それは魔獣を操ること。

 どれほど荒ぶる魔獣でもディルダのことを傷つけることはない。

『公国の家祖も同じような力を持っていたと言うが……それが我が子にも』

 公国の王族は生まれてすぐ魔獣に慣れる訓練を始める。

 それはラッセリア公国を背負う者には、魔獣に立ち向かう能力が必須だからだ。

 幼児の頃は小さな檻に入れられた虫の魔獣と接する。三歳頃になると檻越しに犬サイズの魔獣と――ディルダの才能が見つかったのは、この頃であった。

 ディルダは魔獣を恐れず、魔獣もディルダに敵意を見せない。それは特異な関係性だった。

 先王は数人の大臣とともに協議をした。

『この力を上手く使えば、公国は安泰かと』

『うむ……あいつの母は身体が弱い。しかしディルダは不憫ながら祝福を受けている……』

 ディルダの母は病気がちで表舞台に出る時間は限られていた。

 兄がいたがこちらは凡庸そうで、確固たる才能は感じられない。

『しかし……』

『陛下、何を悩まれているので?』

『この力は災いを招くのでは……。初代国王の時代は戦乱期だった。今とは比べものにならないほど魔獣が脅威の時代であった』

 公国は元々、人外魔境にも例えられる地だった。人と魔獣が相争い、天地を奪い合っていたのだ。その時代であればディルダの才能も大いに役立つだろう。

 だが、今の時代はそうではない。王族が最前線に立つわけでもないのだ。

 それより諸外国はディルダの才能を知ったら、どう思うであろうか。

 快く見守ってくれるのか、もしかすると身柄を奪い取ろうとするのでは……。

『最悪の場合、ディルダの命が危ういかもしれぬ。今は良くても、先々までディルダは安穏としていられるか』

『陛下……』

『ディルダは王族として生まれついた。この上、さらなる重荷まで背負わせたくない』

 先王の言葉に大臣たちも顔を伏せた。

『陛下の子を想う心、しかと受け止めました。しからばこのことは、ごく限られた者だけに』

 そうしてディルダは育てられた。ほとんど何不自由なく。

 しかし心の中では……自分は何かが違うと思っていた。魔獣は恐怖の対象ではない。

 富と力の源泉のように思えていた。

 対して兄は極めてありふれた人間だった。ディルダに対してそこそこの愛情をもって、生まれながらの補佐として扱う。

 普通の王族ならばそれで満足しただろう。不足があったわけではないのだから。

(俺はなぜ王になれないんだ?)

 ディルダは心の中に不満を募らせた。

 この才能と覇気があれば、もっと大きなことができるはず。

 その頃からカリダード帝国はさらに強大化しつつあった。

 国力差が年々広がるような状況にもディルダは嫌気が差していた。

(いつまで帝国と付き合わなければいけないんだ?)

 兄はことさらに帝国を恐れているようだった。

 あんな卑屈な態度は王の姿ではない。

 だが、仕方ないのだ。兄は結局、ディルダより早く生まれただけの凡人。

 ディルダのような選ばれた才能を持たない。

(俺が継ぐべきなんだ)

 兄は王にはふさわしくない。

 貴族も官僚も民も、最初に生まれたというだけで選んだだけだ。

 だから――ディルダは仕掛けた。ほんのちょっと王の資質にケチをつけてやろうと。

 その頃のディルダは自分の力を理解していた。音だ。

 ディルダの声の波が魔獣を催眠状態にして操るらしい。

 ディルダは手作りの鈴を兄に持たせた。それはディルダの声の周波数にやや似て、魔獣を呼び寄せる力がある。

 結果は……想像以上だった。兄はあっけなく死んだ。魔術師でもなく、抜きん出た武勇もない兄は魔獣に襲われて死んだ。

『これは運命だ。俺が王になるべきだったんだ』

 だからディルダは怖くない。魔獣が増えようと自分は傷つかないと知っている。

 民草が魔獣にあたふたするのも、ディルダは彼らが弱いからだとか思っていた。

 神に選ばれなかった連中に平伏する必要などないのだから。


「陛下、お呼び頂きましたか!?」

「おう、呼んだぞ」

 ディルダは歯を見せて笑った。

 メルダは首尾よくコーデリアを出し抜いてミスリルを手に入れた。

 今、もっとも信頼できる部下といってもいい。

「メルダ、新しい任務だ。喜べ」

「は、はい!」

「黒服と一緒に、少し魔獣に手を入れてこい」

「魔獣に……手を?」

「ああ、手を出せ」

 メルダがディルダの前に両腕を差し出す。

 執務室の引き出しからディルダはひとつの小さな布袋を取り出し、メルダへと手渡した。

 不思議な手触りの布袋だ。希少な魔獣の皮だろうか。

「中を開けて見てみろ」

 言われてメルダは皮袋を開ける。そこには小さな木製の鈴が入っていた。

 ディルダは楽器までも自作するが、そのひとつだろうか。

「これは……?」

「必要のない時は開けるなよ。危険な鈴だ」

「は、はい……でもどのような点がでしょうか?」

 見た目には単なる鈴だ。とても危険そうには見えない。

「その鈴は俺の切り札だ。魔獣を呼び込む」

「そ、そんな力が!?」

 メルダは驚愕した。作った鈴が魔獣を引き寄せるだなんて、おとぎ話にあるような力だ。

 でも、だからなのか。

 ディルダが王になったのは。運命が彼を選んだのだ。

「わかっているとは思うが、他言は無用だ」

「ええ、もちろん! ああ、これがあれば――」

 メルダは皮袋を胸元に抱きしめた。

 思ってもみなかった天恵。神はやはりメルダを選んでいた。

「コーデリアに一泡吹かせることもできます!」

「ほう、お前もあいつが嫌いか」

「はい! いつまでも偉そうにして……っ!」

 あの夜のことについて、メルダは誰にも言っていない。

 当然、同行していた黒服にも絶対に言うなと命じていた。

 思い出すだけで今も頭がクラクラするほどの出来事だ。

 ただ、直接的な方法でコーデリアに報復することはできない。

 結局のところ、メルダには兵も武力も知略もないのだから。

 だが、それが期せずして手に入った。

魔獣を呼び寄せる鈴――この力があればコーデリアに一泡吹かせられる。

「いいぞ、やはりお前は俺向きの女だ。黒服を使い、騒動を起こせ」

「やります! そ、それでどこで?」

「お前に任せる」

 途端にそう言われて、メルダは戸惑った。

 任せると言われても……どこから? どのように手をつければいいのか?

 ディルダの押し付け癖にメルダが口ごもる。

「どうした、何か案はないのか?」

「え、あっ……はい……とりあえず国内でちょっと騒動を起こそうかとは」

「その意図は?」

「ヴォルデだけを狙い撃つと、疑われるのでは……と」

 メルダがなんとか悪知恵を働かせる。

 学院でもこのような場はあった。あえて自分も巻き込むことで、加害者だとバレないようにするのだ。

「ヴォルデ周辺で騒動を起こせば、コーデリアのせいにできますよね?」

「おお、なるほどな。考えるじゃないか」

 ディルダから笑顔で撫でられるが、メルダは作り笑いしかできない。

 なぜならディルダの瞳はちっとも笑っていなかった。

 まだ値踏みされている、とメルダは確信した。

「悪くない。細かいところはお前に任せる。好きにやれ」

「は、はいっ!」

「ただ、ひとつだけ肝に命じろ。何かあったら、その鈴は必ず壊せ」

 ディルダの目が細まって声が低くなる。

「その鈴は貴重品だが、敵の手に渡るのは避けねばならん。周辺国に手がバレたら動きづらい」

「も、もちろん……そうですわね!」

 ディルダの言葉にメルダの背筋がやや寒くなる。

 コーデリアだけじゃないのか。周辺国全てに……同じことを?

 それは誰がやるのだろうか。

 それもメルダがやることになるのだろうか……?

「全てが終われば、お前こそ俺の妃だ」

 メルダは激しく頷きながら、皮袋を握った。

 この鈴こそが生命線。まだメルダの地位は安泰ではなさそうだった。

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