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【書籍化】捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~  作者: りょうと かえ
第5章 予見

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31.苛立つディルダ

 何かがおかしくなっているような……。何もかも変な方向に行きかけているのでは。

 数か月前まで、こんなことはなかった。

 公国は小さいながらも上手く回っていたはずだ。コーデリアがいなくても問題なぞ起ころうわけがない。

 なぜならディルダは生まれながらの王族で、相応の力を持っているはずだから。

「そうだ、俺は――」

 ディルダには兄がいた。公国は彼が継ぐはずだった。

 しかし何年も前に彼は死んだ。運がなかったのだ。魔獣に襲われて死ぬなんて。

 公国の王族で魔獣に殺された者は百年振りの不幸だという。コーデリアが……いや、あの女はいつでも昔のことを引用するのだ。

 あの女は見たものを忘れないとか、人間ではない。

 だが、そうであればこそ民衆にも官僚にも人気があったのでは?

 ディルダの父の先王もコーデリアをいたく気に入っていた。

『コーデリアがいれば公国は何十年も安泰だ』

『ディルダ、コーデリアとルーインを大切にしなさい。ふたりと協調すれば憂いは何もない』

 ディルダは父の言葉にうんざりしていた。

 可愛げがなく、媚びることを知らないくせに人から信望を集めるコーデリア。

 皆はコーデリアを過大評価している。それがディルダの長年抱いている思いだった。

「持ち得ているはずだ」

 新しい酒をがっと飲み喰らう。

 王族の特権。快楽。統治。全てを支配しているはずなのに。

 昼から深夜まで何時間飲んでも気が晴れず、酔った頭のままディルダは執務室に向かった。

「ふぅ……」

「報告書と決裁を要する書類でございます」

 宰相のオルドスが持ち込んできた書類を適当に眺め、処理する。

 正直なところ、ディルダは官僚的な書類は読んでもあまり理解できていなかった。

 だが、問題はない。結局のところ大枠さえ掴んでおけば、コーデリアのように覚えている必要なんてないはずだから。

 ディルダはオルドスからの書類のひとつに目を留めた。

「金が足りないのか」

「……はい、率直に申しまして。魔獣の討伐数が減少しており、税収も減っております」

 ディルダは舌打ちする。直属の黒服を使い、討伐費用を削減しているのはディルダ自身だ。

 今はうるさいコーデリアもいないので、その規模も拡大している。

 それがこんなマイナスを生むとは。討伐費用を節約してやったつもりが……。

「なんとかならんのか」

「最善は尽くしておりますが……その、何とも致したく……ただ……」

 意味深な目線を送ってくるオルドスに、ディルダは鷹揚に答える。

「続きを言え」

「王宮内の費用を見直すことで、多少の余剰は出るかと」

「それは俺の遊興費を言っているのか? ああ?」

「い、いえ! 滅相もございません!」

 オルドスの目に反抗心は欠片もない。書類だけが能の男であるが、このような反応はディルダの嗜虐心を満足させる。

「見直しなら無能な官僚の費用を削れ。俺の金は削るな」

「うっ……仰せの通りに」

 オルドスを外さない理由はもうひとつある。

 それは隠れて、この男が足りない予算を自費で穴埋めしているからだ。

(お人好しもここまで来ると馬鹿だな)

 指示を出し終わり、ディルダが今度は黒服の報告書に目を通す。

『ヴォルデは短期間で活況を呈す。鉱業は現状、安定経営。インフラ整備の優先により、地元民もコーデリアの政策を支持』

『帝国との交易も順調。帝国への留学経験のあるコーデリアに対して帝国も好意的』

『南部の一部住民は魔獣討伐の減少を不服として、ヴォルデへ出稼ぎに向かう』

 黒服の報告によると、コーデリアは上手くやっているらしい。

(なぜなんだ?)

 かつて鉱業が盛んだったヴォルデはもう何十年も前の話だ。今のヴォルデは無気力で望みのない捨て地だったはず。

 それなのにコーデリアはわずか数か月で地元民からも支持され、資金を稼ぎ、帝国とも上手くやっている。

(くそくそくそっ! どうしてコーデリアだけなんだ?)

 昔からそうだった。彼女だけが特別に結果を出し、愛される。

 対するディルダはそうではなかった。

 捨て地で苦労するコーデリアを救い上げる……そのはずだったのに。そうすれば王宮内でもコーデリアもディルダを崇めるだろうに。

 だが、現実は違うようだ。

 コーデリアのいなくなった王国政府には問題が山積して、ヴォルデは富み栄える。

 全く逆の結果に――不機嫌に押し黙るディルダにオルドスが声をかける。

「あ、あの……陛下?」

「なんだ」

「報告書に何か不備が?」

 怯えるオルドスにディルダが眉を寄せる。

 目の前のオルドスに当たり散らしたいところだが、この男はまだ必要だ。

 爆発しそうな怒りを抑えながら、ディルダは扉を顎で指す。

「何でもない。用が終わったのなら、さっさと出ていけ!」

「は、ははぁっ!」

 オルドスは書類の束を持って、執務室から去っていった。

 白じむ窓の外を眺めても、ディルダの気分は晴れなかった。むしろ苛立つばかりだ。

「やはりヴォルデへ流すのだけでは、温すぎたか……」

 コーデリアは諦めるということを知らない。

 どんなに難しい本も読み進め、国家の難題にも取り組み続ける。

 王宮から追放されても、まだ屈しない。

「ふん、だがそうならば……別の手がある」

 王宮内ではコーデリアの味方も多く、直接的な手段は控えてきた。

 まぁ、隙のない女なので無理だったのだが。

 しかし王宮から離れたヴォルデなら、ここでは使えないような手も使える。

「お前が悪いんだ、コーデリア」

 ミスリルは公国の資源だ。王であるディルダが好きに奪ってよいはず。

 ディルダは身勝手にもそのようなことを考えていたのだった。

「メルダを呼べ」

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