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【書籍化】捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~  作者: りょうと かえ
第4章 発展と焦燥

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28.不始末

 それから一週間後、ラッセリア公国の外務省にて。

 貴賓室に招かれたカリダード帝国の大使は苛立ちを募らせていた。

「全く、無礼な……!」

 公式会談の開始がすでに二時間も遅れている。しかもこの会談は定期開催とはいえ、来年度の交易について詰める場だ。

 帝国の利益にも直結するため、大使は気を揉んでいた。秘書官が声をひそめる。

「……会談の設定も遅れておりました。やはり異変が起きているのでしょうか」

「コーデリア王妃が王都から去った影響かもしれん」

 二か月前、王妃コーデリアが側妃となり、王都から移されたことは諸外国に衝撃を与えた。

 宰相のオルドスは有能とはいえ、内政畑の人間で外交の専門家ではない。

 外交や財政についてコーデリアの貢献は大きく、短時間で穴を埋めるのは困難だ。

 さらにディルダ王の能力は……お世辞にも褒められたものではない。

制御する人間がいれば、まだまともなのだが。

 その一番制御できるコーデリアがいなくなってしまった、という話である。

「大変お待たせいたしました。ただいま陛下が参られます――」

 公国の外交官が汗をかきながら報告に来る。

 それを帝国の大使たちはにこやかに受け止めた。

「どうぞお気遣いなく。公国の紅茶を堪能させて頂いておりますので」

 表情や言葉遣いは柔らかい。だが、平時よりも低い声に公国の外交官が顔を強張らせる。

 数分後、言葉通りにディルダが会談の場に現れた。

「大変お待たせした。うっく」

「…………」

 ディルダの顔は異様に白く化粧されていた。まるで何かを隠すために。

 しかも声がおかしい。ガサガサなのである。

「まさかお酒を召して?」

「いや、ははは……そんなことがあるわけないでしょう。さぁ、来年の貴国との交易について話しあおうではありませんか」

 ディルダの立ち振る舞いは王そのものだった。だが、そのメッキはすぐに剥げてしまう。

 重要な数字が頭に入っていないばかりか、すぐに眠気に襲われるようだ。

 当人は否定したが、どう考えてもアルコールにやられている。

 会談は開始時間が遅れたのもさながら、中身も例年にないほど実もなく長引いてしまった。

 夕方、会談が終わり大使館に戻ってから帝国大使は首を振る。

「なんだ、あれは……。話にならなかったぞ」

「無礼かつ無能でしたね」

「全くだ。しかも公国から買い上げるはずの魔獣素材が足りない。どうなっているんだ?」

「一か月半分ほど……コーデリア王妃がおられなくなったからでしょうか」

「恐らくは。皇帝陛下は国土開発のため、魔力を含む鉱石や魔獣素材の確保を望んでおられるというのに……」

 帝国大使はため息を吐いた。

 近年帝国では増大する人口に対して、それを賄う資源を必要としている。

 いまや外交の主軸は資源の確保だ。これで今後数十年の成長が決まるのだから。

「これまでも念押ししていた事柄がこの有様だとはな。皇帝陛下がお怒りにならねばよいが」


 帝国大使が帰ったあと、ディルダは再び酒宴に興じた。黒服が新しい酒を持ち帰ってきたのだ。そこに宰相のオルドスが姿を見せる。

「何か言いたそうだな、オルドス」

「帝国との会談につきまして、いささか懸念事項があったとのことで……」

 目を伏せながら言葉を選ぶオルドスにディルダは鼻を鳴らす。

「遠回しな言い方は褒めてやる。帝国とのことは問題ない。魔獣の素材について、焦っているようだ」

「……や、やはり帝国の軸はそこと」

「お前の言った通りだな」

「恐れ入ります……」

 ディルダのセリフにオルドスは汗を拭く。

 実はそれもコーデリアの残した言葉なのだが。オルドスはコーデリアの言葉をタイミング良く伝えたに過ぎない。

「あの女――コーデリアの穴が埋まらん以上、魔獣討伐の目標数をこなすのは無理だったな。まぁ、そこも予想の内だ」

「それならば何よりでございますが……」

「一度、帝国への輸出を絞れば公国のありがたみもわかるだろう。価格の吊り上げもやりやすくなる」

「な、なんと!? 予定数量に足りないばかりか、価格の引き上げも……?」

 オルドスは戦慄した。そのようなことをすれば、いくら友好国のカリダード帝国も激怒するのではないだろうか。

 近年のディルダの振る舞いでただでさえ、近隣諸国の不信を招いている。

 その上でこのようなことは果たして許されるのだろうか。

「不安そうだな。ふん……」

 ディルダはつまらなさそうに机の上の箱に目を向けた。

 その側ではメルダがディルダに供する酒を作っている。

 メルダが杯と箱を持ち、オルドスの元へ向かう。

「見てみろ」

「――私の成果よ」

「これは……ミスリル! しかもかなりの高品質でございますね」

 開けられた箱の中身にはミスリルの延べ棒が入っていた。

 青白く穏やかな魔力が感じられる。

「そう、このメルダが手を回して確保したのだ。可愛い奴め」

「お褒め頂き、光栄です!」

 メルダがにこりと微笑むが、わずかな違和をオルドスは感じた。

 心のどこかに怒りを溜め込んでいるような。ディルダに向けてではなさそうだが……。

 ディルダのせいで培われた危機感能力が働く。

オルドスは延べ棒を手に取った。

「これは公国産でしょうか。しかし魔力の波長に覚えがありません」

「ほう、さすがだな。そこまでわかるか」

 オルドスは公国で希少な魔術師でもあった。

 魔力を含む物質は産地によって微妙な違いがある。公国のミスリルの魔力はどれもが穏やかで似ているのだ。

 目の前のミスリルは公国産のはず……だが、今公国で扱っている産地のミスリルではない。オルドスはどの地方で作られたものか同定できるはずなのだが。

「くくく、これはヴォルデ地方で作られたミスリルだ」

「かの地方の鉱脈は枯れたと思っておりましたが……まさかコーデリア様が?」

「本当にご苦労なことだ。土を掘り返し、精錬までするとはな。コーデリアのことは気に入らんが、能力はある。こうやって使えば良かったのかもな」

 オルドスはミスリルの延べ棒を箱に戻しながら黙っていた。

 コーデリアがヴォルデで手をかけたミスリルの延べ棒を、快くディルダへ贈るとは思えない。どのような経路で入手したかは聞かないほうがいいのだろう。

 メルダが関わっているのならなおさらだ。

 ヴォルデのミスリルで充当する考えも甘すぎやしないだろうか……。

「とりあえずは帝国の反応を見るとしようか。コーデリアを使えば、何とでもなるだろう」


 しかし、その目論見もほんの二週間で崩れ去った。

 帝国大使からの書状が届いたのだが、そこにはカリダード帝国の皇帝からの明確な怒りが込められていた。

 オルドスは手が震えるのを抑えながら、ディルダへ書状を読み上げる。

『公国と帝国の友好関係を何と心得ておられるのだろうか』

『件の交易品は我が国の発展に不可欠であり、それは貴国もよくよく承知のはず』

『貴国の現体制にわずかながら懸念を覚える』

 書状であるから柔らかい表現ではあるが、内容は辛辣だ。

 激怒しているといっても良い。

 オルドスも外交の専門家ではないとはいえ、これまでに外交文書を読んではいる。こんな調子の文言を帝国からもらったのは初めてだ。

「……陛下?」

 読み上げてからオルドスはディルダのほうを見上げる。

 ディルダは目を細め、眉を寄せていた。ディルダは苛立っていた。

「ちっ、帝国め。小うるさいことを……!」

 思ったよりも厳しい内容はディルダの予想外でもあったのだろう。

 これで危機感を抱き、修正してくれるのであればまだ間に合う。 

 オルドスは駄目押しの情報も上げることにした。

「官僚たちからもコーデリア様の復帰を望む声もあり……」

「お前もコーデリアの復帰に賛成か」

 じっと睨むディルダへオルドスが息を呑む。

 冷や汗をかきながらも、ここで引くわけにはいかない。

「時機を見て、そうすべきかと」

「どいつもこいつも。まぁ……いい。そろそろ俺からも手紙を送ろうと思っていたところだ」

「おおっ! ではコーデリア様のご帰還を?」

「簡単に戻しては面目が立たん。それはあいつの態度次第だ」

 コーデリアは非のないことで頭を下げるのを良しとはしない。

果たしてすんなりと行くのだろうか……。

 ディルダの残忍な笑みにオルドスは嫌な予感がした。

これにて第4章終了です!

お読みいただき、ありがとうございました!!


もしここまでで「面白かった!」と思ってくれた方は、どうかポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて頂けないでしょうか……!


皆様の応援は今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

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