27.コーデリアの網
「ええ、どうぞ」
メルダの返事に満足したコーデリアが、ミスリルの延べ棒を差し出してくる。
渡してくれるのか。
怒りながらもどこかほっとしながら、メルダは延べ棒をひったくった。
「本物よね」
「……ええ、魔力が発せられています」
隣の黒服の言葉にやっとメルダは安堵する。
同時に悔しさと怒りがだんだんとメルダの心に広がってきた。
何もかもコーデリアの手によって踊らされ、先回りされていた。
しかもこんな……コーデリア本人からミスリルを恵んでもらったなんて。
屈辱としか言いようがない。
「あんたなんか……っ!」
言いかけて、メルダがすぐに口を閉じる。ここで言い合いになるのは賢明ではない。
ミスリルを無事に王都にまで持ち帰らなければ。
コーデリアの微笑みを見ていると、血圧でどうにかなってしまいそうだ。
「帰るわよ!」
「さようなら、メルダ。また会いましょう」
「誰があんたなんかと……!」
小さく威嚇し、メルダは馬車に乗り込んだ。
邪魔は何もなかった。
「急いでここを離れなさい!」
馬車が走り出して平原から脱出する。
振り返って、闇の中にコーデリアの姿が溶けていくのを――メルダは恐ろしく感じた。
勝てない。
遅れて手が震え出す。
コーデリアは全てを見抜いていた。
彼女は他の全員とは明確に違う。格が違う。
「……どうすればいいってのよ!」
もう正面からコーデリアに挑んでも勝てない。
なぜなら自分の領地の商人さえ、コーデリアは押さえているのだ。
王都にもコーデリアを慕う貴族や官僚は多い。
まともな情報戦では絶対に裏をかかれてしまう……。
「このままじゃ済まさないわよ」
敗北感を抱きながらメルダは爪を噛んだ。
ひとりでは駄目だ。また同じようになってしまう。
「陛下から、何かをもらわないと……あの女には勝てない!」
メルダの馬車を見送ってから、私は息を吐いた。
なんとか楔を打ち込めたと思う。
「コーデリア様、ミスリルを渡してよろしかったのですか?」
「ええ、これで時間が稼げるはずよ」
一番、気にしなくてはいけないのはディルダの邪魔だ。
今、私がやっていることは大規模すぎて隠し切れるものではない。
成果も出ているし、それをディルダが知ればどうなるか。
間違いなく横槍を入れてくる。
「適当にいなせば、向こうも強硬手段を先延ばしにするはずよ」
「なるほど……確かに!」
「必要経費というやつよ」
ただ、いつまでこれで凌げるか。
今回、メルダを寄こしてきたのはひとつの兆候だ。
ディルダを取り巻く状況は悪化している。だからメルダを送ってきたのだ。
「レオール様に警戒と協力を呼びかけないとね……」
いざという時の備えは常に必要だ。手荒い手段に出られても対処できるように。
ディルダの性格だと帝国にも手を出しかねない。
「あともうひとつ、なのですが……どうしてあえて、メルダ嬢へあの態度を?」
「らしくなかった?」
「はい、いつものコーデリア様ならあのようにはなさらないかと」
「ふふっ、よく見てるわね」
そう、先ほどのやり取りではあえてメルダを挑発して屈辱感を持たせた。
これはメルダに対する嫌がらせではない。
いや、まぁ……メルダのことは嫌いなんだけど!
「メルダは私を憎めば行動に移すでしょう。そのほうがやりやすいの」
「そ、そうなのですか……?」
「今まではいけ好かない女、終わった女程度。でもさっきのやり取りで私は敵になれたわ」
ディルダの黒服は姿を隠しており、捕捉は難しい。
今回のことでディルダはメルダを重んじるだろう。
「メルダの性格なら、今夜の経緯は絶対に口外しないでしょう。そして陛下はメルダに次の任務を言い渡す……あるいはメルダから申し出る」
「メルダ嬢を追えば、向こうの手がわかると? 確かに、そうですね!」
「まぁ、確実ではないけれど。でも可能性は高いはずよ」
言いながら、私は闇の奥を見つめた。
ただ、そうなった時は……本当に公国が危険な道に踏み出す時だ。
私がいない王宮で何が起き、どう変わるのか。今しばらく、見守るしかなかった。
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