25.メルダの謀略②
「関係のある商人ね……」
数人の顔がぱっと思い浮かぶ。
だが、果たしてそう簡単にミスリルを手に入れてくれるものか。
「それより盗賊か何かを装って、奪っちゃったほうが早いんじゃないの?」
「まさか! そんなことは不可能です!」
目を見開いて黒服が否定する。
「エベラルド辺境伯の兵もミスリルの護衛をしております。我ら公国の兵ではとても……」
「そんなに差があるの? あなたたちだって陛下の精鋭でしょ!」
メルダの言葉に黒服たちが顔を見合わせる。
どことなく呆れているようだった。
「エベラルド辺境伯は帝国の雷光と呼ばれる武人です。その兵はカリダード皇帝直下の近衛軍にも匹敵いたします……公国の兵でどうにかするのは不可能かと」
「……使えないわね」
メルダには何の力もない。武芸も不得手なら指揮も執れない。
配下の兵が無理だと言うなら従うしかなかった。
「じゃあ私が口で言うから手紙を書いてくれる? とりあえず連絡をつけないと」
「メルダ様の自筆のほうが効果的かと存じますが……」
「うるさいわね! 黙って私の言う通りにしなさいよ!」
貴族と取引する商人に出せるような書状をメルダは書けなかった。
だが、それを認めることはコーデリアに劣っていることを認めること。
コーデリアの書状は公国官僚の手本になるレベルなのだから。
何度も書き直しをさせて、ようやく体裁の整った手紙が完成した。
メルダは黒服に命じ、三通の手紙を届けさせる。
返事を待つ間、メルダは気が気ではなかった。
黒服に世話をさせて不自由はなかったが、狭くてボロい宿はやはり嫌だ。
「未来の公国妃からの手紙よ。……返ってくるわよね」
爪を噛んでジリジリと数日間、待機する。
ようやく黒服経由で手紙の返事が戻ってきて、メルダはとりあえず息を吐く。
黙殺するつもりなら、返事もしないだろう。少なくとも話を聞く気はあるはず。
まず一通目の返事……。
『ご協力いたしかねます。ヴォルデ領の住民はコーデリア様に忠誠を誓っており、ミスリルの入手は不可能でございますでしょう』
メルダは激怒した。
「何なのよ! この返事は!」
「その場で返事を頂いたのですが……」
「中身は見なかったの!?」
「にこやかな顔で封印されましたので」
「ふざけないでよ! 商人ごときが、私に逆らうなんて!」
手紙をびりびりに破って捨て、足を踏み鳴らす。
「二通目は……読まれますか?」
「当たり前でしょ! よこしなさい!」
メルダが二通目の返事をひったくり、急いで内容を確認した。
『ご要望の品は用意できません。帝国との交易品に手を出すことは、公国貴族といえども危険な行為かと存じます』
「そんなこと、わかってるわよ! 舐めてるの!?」
またも手紙を破り捨て、メルダは怒りに目を血走らせる。
「使えない! 本当に使えないわね! だから帝国にバレないようやれって言ってるのに!」
「二通とも拒否でございましたので?」
「見ればわかるでしょ……! さぁ、最後の手紙をよこしなさい!」
怒りながらもメルダは焦っていた。
マズい。最後の手紙にも拒絶されたら……別の手を考えなくては。
だが、今のところ妙案はない。
手ぶらでは王都に戻れない。絶対に成果が必要なのに。
最後の手紙を開封する。
『ご要望のミスリルはすぐにご用意できます』
「……!!」
『ただし警備が厳重なため数量はごく少量になります。また、ヴォルデの外に持ち出すのは内包する魔力から、検問に引っかかりますために不可能です』
メルダは目玉を左右に動かし、手紙の先を読み進める。
『そのためにお手数ではありますが、お受け取りにきて頂きたく――』
「やったわ!」
メルダは歓声とともに腕を振り上げた。ここまで書いてあれば確実だ。
その後には受取日の希望やら場所やらが書いてあった。
こちらから商人へ足を運ばなくてはいけないのは癪に触る。
が、大目に見てやろうという気分だ。
「早速、返事を出しなさい! すぐに取りに行くってね!」
こんな安ホテルにいつまでも我慢なんてできない。
ヴォルデのミスリルさえ確保できれば王都に戻れるのだ。
だが、黒服は訝しげな目を手紙に向けていた。
「少々お待ちを……この相手先の商人は信用できますので?」
「うるさいわね! じゃあ、何よ。私にまだここに籠もっていろと言う訳!?」
「い、いえ……」
「陛下もミスリルをお待ちなのよ! あたしの命令通りにすぐやりなさいよ!」
メルダの勢いに黒服たちも従わざるを得ず、段取りが組まれていく。
その様子にメルダは機嫌を良くした。
「ふん、コーデリアがなんだってのよ。やっぱり陛下のご寵愛があるあたしのほうが偉いんだから……!」
所詮、人は利のあるほうに動く。
コーデリアがどれだけ有能だろうが、こちらには陛下がいる。
下々の人間は威圧すれば従うのだ。
メルダはほくそ笑んだ。
「ヴォルデの人間に裏切られてミスリルを失うなんて! ああ、愉快だわ!」
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