12.鉱脈
ルーインがイエティの粉を手持ちランプに仕込む。ランプには四方に隙間があり、魔力が刻まれ微風を起こすようになっていた。
青白い粉がランプから少しずつ浮遊していく仕組みだ。
「では、始めますね!」
「お願いね」
ルーインを先頭に静かに鉱山へと近付いていく……ランプからの粉は何もなく、周囲へ撒かれていた。
単純に加工すれば対魔獣用の武器にもなるが、粉にしてしまうとそうはいかない。
もったいないが……こちらの使い方のほうがきっといい。
しばらく粉をまくが、成果は出てこなかった。ううん、ここは外れみたい。
まぁ、ひとつ目の鉱山で成果が出るのは望みすぎか。
「次に行きましょう……!」
周囲の住民代表は落胆の表情を浮かべているが、私はへこたれない。
そんな暇はないからだ。成果を出ると賭けたことはやり抜くだけ。
駄目だったので次の鉱山に向かい、また試しては次の鉱山へ。
密集しているので試しやすくはあるが……朝からの作業ですでに日は傾き、夕方になろうとしていた。
……時間的に今日はここで最後か。とはいえ、まだまだヴォルデには鉱山はある。
オレンジ色の夕日に照らされながら、トルドが申し訳なさそうに私へ言った。
「コーデリア様にこれほどしてもらいましたのに……。ご足労をかけてばかりで」
「気にしないで」
私の屈託のない言葉にトルドが驚いたようだった。
「成果はすぐに出なくても、続けることが重要なのよ」
これは趣味の読書で学んだことだ。
読書は続けてページをめくらなければ進まない。ページを飛ばしながら読むことはできない。
もちろん世の中には急ぐべきこともあるが、ままならないこともある。
さて、明日も鉱山を回らなくては。効率の良いルートは――と、そこでルーインが叫んだ。
「イエティの粉末が! 引き寄せられています!」
ばっと振り向くと、夕陽に照らされた粉が不思議に一筋の煙となって鉱山の横の外壁に向かっている。本来の入り口からおよそ百五十メートル離れて、一か所にまとわりついていた。
「本で見た通りの反応だわ!」
イエティは山の魔力を取り込む。それが爪になった共鳴して反応しているのだ。
トルドが同行した住民たちに呼びかける。
「これは……うぉーい! 掘ってみるぞー!」
「おおおっー! やるぞー!」
住民はやる気だ。でもそろそろ夜になってしまう。
「ま、待って。明日でもいいんじゃないかしら。鉱脈は逃げないし……」
「いいえ! 引き寄せた運は掴み取らないと!」
トルドたちは馬車からツルハシなどを下ろすと、そのままイエティの粉が付着した岩壁を一斉に力強く掘り始めた。
猛烈な音がガンガンと鳴る。岩石がどんどんと削られていった。
「……いいのかしら」
「どうなんでしょう。よほどやりたいみたいですが……」
ルーインもあまりの熱気に困惑していた。
私が帝国から来た専門家に目を向けると、彼らも目を輝かせている。
「これほど反応しているということは、望みは大きいかと。岩壁が崩れる心配もなさそうですし、このまま進めてもらっても……」
「なるほどね……」
私は自分の知識が本主体であると認識している。
現場のことは現場に任せたほうがよさそうだ。
それでも……鉱脈のありそうなところを掘ったからって、すぐに結果が出るとは限らない。
「見ろ! ミスリルの鉱石だ! ぶち当たったぞー!」
「まだ残ってたのかー! やったぁぁっ!」
「えええっ!?」
私が歓声に驚くと、トルドが両腕に石の塊を抱えて持ってきた。
濃い茶色の石の裏に青みがかった水晶が広がっている。
これがミスリルの鉱石だ。
私よりも魔力への感覚が鋭いルーインがごくりと喉を鳴らす。
「魔力を感じます。本物ですね……」
「やったわね!」
はしたない程度に微笑み、ぐっと拳を握る。
側妃に降格されてから心労ばかりだった気がするけれど、ようやく前向きなことがあった。
トルドがシワの浮かんだ目尻に涙を浮かべている。
「まさかまだ、鉱脈が枯れていなかったとは……。鉱石の質も良いように思います」
きらめく青の断面は魔力によって揺れ動き、水面のようであった。
より揺れ動くほど良いとされ、かなりの品質が期待できる。だが、まだここは始まりだ。
「御礼を言うのはまだよ」
「えっ?」
「精錬までやらないとね。このままでは使えないし、そうでしょう?」
「確かに精錬まで可能ならさらなる利益が見込めるでしょう。しかし精錬施設も何十年前に閉鎖されているわけで」
「大丈夫よ。目処はついているわ!」
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