SIDE 筆頭領主候補ロノザ
私――ロノザ・シュランドは、竜という生き物を毛嫌いしている。
しかし、それを知っているのは第三飛竜部隊の副隊長だけであり、表面上は、領主一族の末弟として上手くやれているだろう。
第三飛竜部隊というのも、蓋を開ければ、守り神の面倒を見るために設立された子守り部隊。私を後始末の隊長に据えたのは、問題しか起こさないことで有名な愚兄だ。
私が決済書類に追い回されている間、部下は守り神を見つけようと必死になって都を巡回する。そうすることで、私のもとに書類がやってくる。なんて無駄な永久機関だろうか。
元を辿れば、領主を決めようとしない守り神が悪い。全面的に悪い。あれは固執しているのか、意固地になっているのか知らないが、愚兄や他の候補者を受け入れない。
「ロノザ隊長、守り神の痕跡が見られました」
「この時間に?」
山積みになっていた書類を片付けたところで、この報告だ。
私は溜め息を飲み込んで、外套に手を伸ばす。
その時は、伝承の人間と出会うなんて、微塵も思っていなかったのだ。
✶
メイカという名の子供を連れて、城の中に入っていく。
もたつけば愚兄に嗅ぎつけられるだろうと思った私は、城門ではなく裏手の水門を抜けることにした。
「ここから歩くぞ」
「あの……これからどうなるんですか?」
振り向けば、子供は外套の裾を握りしめていた。内心で「おや」と思う。泣きそうな顔は、どこか勘違いしているようだ。何を思ったのか知らないが、これは好都合。私は鼻を鳴らした。
「貴様は、これから尋問を受ける」
「びえっ」
「貴様の事情など知らん。宿舎に着いたら、洗いざらい話してもらおう」
意地の悪いことを言った自覚はある。
副隊長からの咎めるような視線も見えている。
しかし、いざ人間を前してしまうと、私の好奇心は押さえられなかった。
機嫌を良くした私は、使用人の使う道を通って宿舎に向かう。義兄に見つからないよう、遠回りまでした。なのに、そんなに歩かせる意味ありますか? と副隊長から苦情が入った。
子供を見やる。それは私の脅しを忘れたのか、隊員の往来する宿舎を興味深そうに見ていた。
ラガラ竜によるボヤ騒ぎが起きてから、石造りに変えさせた宿舎だ。
「こんな石だらけで、寒くないのかな……」
「ラガラ竜がいるお陰で暑いと苦情が入っているが」
「ぎゃあっ」
その、砕け鎧を前にしたような顔をやめろ――とも言えず、私は半目で口を閉ざした。
宿舎の二階。執務室に辿り着いた。やっとだ。やっと話し合いができると思ったところで、中から話し声が聞こえてきた。内容は分からないが、私と愚兄の補佐官が言い合っているらしい。
「あの……?」
子供の腕を取った私は、踵を返して私室に連れていく。足を向けた方向で、察したのだろう。副隊長が、信じられないものを見たような顔をした。なんとでも思えばいい。私としては、愚兄に見つからなければいいのだ。
私室と言っても、私が寝泊まりに使っているだけで、機能していなかった客間がやっと日の目を浴びるのだ。そのような、非難の目を向けられるような意味合いはない。
防音のため、扉を閉める代わりに副隊長を配置させた。
「軽蔑するところでした」
じとりとした目線を向けてくる副隊長。二年ほど前に結婚し、子供もいる彼女にとって、私の行動は信じられないものらしい。こめかみに手をやった私は、対面にいる子供を見つめた。
「……貴様の話を聞かせてもらおう」
ぼんやり、床を見つめていた彼女は、ぽつぽつと語り出した。




