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青空の冠  作者: 蛸屋 匿
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4 再会

 串焼きを頬張りながら歩いていた私は、気づけば北の通りにいた。

 案内板を見上げて、また首をかしげる。どうやって宿に帰ればいいのか、分からない。


「道案内してくれそうな人は……」


 辺りを見回したが、この場所は武器を持った人が多いようで、声を掛ける気にもなれない。そういえば、白髪の男性が、北には『なりぞこない』がいるから近づかない方がいいと言っていたような……。


「早く帰ったほうがいいかも……」


 汗ばんだ手を握りしめた私は、恐らく南であろう方角に向かって歩き出した。その視界の端で、銀色の鎧が見える。アシャさんと同じような銀の鎧は、都を守っている第三飛竜部隊の制服……と、魚屋のおじさんが言っていた。

 アシャさんの同僚なら、事情を話せば宿のことも知っているかもしれない。そう考えた私は、銀の鎧を追いかけた。


「すみませーん……」


 路地の奥に向かって声を投げかける。

 ……返事はない。

 微かに聞こえてきたのは、金属の音。聞き間違いかな? と首を傾げながら小路に入った瞬間。ダンッ! と、私の真横に銀色の鎧が打ち付けられた。地に落ちたのは、私が追いかけていた鎧族の男性。


「ひぎゃあっ!」


 全身を抱きしめるように、腕を交差させる。血は流れていないけど、代わりにまとっていた鎧がポロポロとこぼれていく。

 崩れる寸前の鎧を前にして、私は動けなくなった。


「は、人がいるなんて聞いてなっ、ごほ……」


 紺色の髪を持った男性は、かろうじて喋れるようだった。やっと動けた私は男性に近寄る。鎧の右腕に当たる部分がなくなっていて、息を呑んだ。


「だ、だいじょうぶですか」

「可愛いお嬢さん、そんな顔しないで。なんてね、軽口を叩けるぐらいには、だいじょう……ごふっ」

「全く大丈夫に見えないんですが!?」


 咳き込むたび、男性の鎧がハラハラと崩れていく。それでも男性は「大丈夫」と言う。オロオロとする私を安心させるためなのかもしれない。咄嗟に、応急処置をしなければ! と思ったけど、私は鎧族の傷を塞ぐ方法が分からなかった。

 男性が言うには、この先に指名手配された砕け鎧がいるらしい。路地は危険と言われていたのに、何も考えず入ってしまったことを悔やむ。

 第三飛竜部隊の隊員である彼は、その砕け鎧を捕まえに来たのだが……。


「砕け鎧はあっという間に捕えられたんだ……でも、ごほほ」

「な、なにか別の脅威が……!」

「脅威というか……」


 途端に、言葉をつまらせた男性。この期に及んで伝えられない事情があるのだろうか? そんな、私の疑問はすぐに解けた。複数人の足音と共に、銀色と薄青色の羽根を持った四足の竜が、私の方へ突っ込んできた。

 銀の粉を振り撒いた飛竜は、おとぎ話から飛び出てきたようだった。しかし、その飛竜は思っていたより俗物的だった。


『鎧ごときが、ぼくの邪魔をするなあああ!!』

「ああ……」


 男性が諦めたような声をもらした。直後、飛竜と目が合う。お月様のようなキラキラの目が私を捉えた。とても綺麗だけど……さっきの叫びを聞いてしまうと、その神々しさは半減である。

 半目になった私が見えたからなのか、彼は、急ブレーキをかけたように動きを止めた。遅れて、聞き覚えのある女性の声が聞こえてくる。


「守り神! 貴方が領主を選ばない限り、砕け鎧は増える一方で……」

「あれ、ソネスさん!?」

「メイカさん? 何故ここに」


 何がなんだか分からない。

 そんな私たちを嘲笑うように、守り神と呼ばれた飛竜は鳴いた。


    ✶


「守り神、飛んで行っちゃいましたね……」


 守り神は、路地の隙間から大空に向かって飛んだ。その瞬間『メイカ』と呼ばれたような気がしたが、たぶん気の所為だろう。


「はあ、始末のつかない」

「南の守り神が奔放なことは、昔から変わらないだろう」


 頭の痛そうなソネスさんと、その奥から現れたのは白髪の男性。

 彼は、怪我人を運び出すよう隊員さんに指示を飛ばしたようだ。やっぱり高貴な人なのかな。頭を下げたほうがいいのか、迷っていたら紺色髪の男性に「あれ、隊長と知り合い?」なんて聞かれた。

 彼の視線の先には、白髪の貴人がいる。


「たい……?」

「ああ。私は、第三飛竜部隊の隊長を務めている」


 あっけらかんと言われた情報に、驚けるほどの理解力はなくて。さして驚かない私に、紺色髪の男性が「肝が座りすぎだろ」とこぼした。


「その顔、理解していないな」

「すみません、これっぽっちも」


 まだ、浮き島にきて二日も経っていないんだから、仕方がないだろう。そう言いたいところだけど、飛竜部隊の人たちは私の事情を知らない。困ったように眉を下げれば、軽く身分を教えてくれた。


「私はシュランドという領主一族の末弟であり、面倒なことに、南の守り神の主人候補である」

「ええと……さっき飛んで行っちゃった飛竜の主人になるの?」

「まだ、候補ではありますが」

「くだらんな」

「このように、ロノザ様は務める気がありません。そして、守り神も拒絶しているのが現状です」

「それって大問題では……」


 お互いに拒絶しているようでは、いつまで経っても領主が生まれない。領主がいないと、都は回らなくなる。

 そうなると、砕け鎧が増えてしまうようだ。


「領主、ひいては主人候補はロノザ様だけではありません」

「南の候補だけで数えれば……十二人ぐらい居たか」

「ロノザ様が最有力候補なんですが……」


 ソネスさんが頭を抱えたところで、怪我人の搬送が終わったという報告が聞こえてくる。怪我人と言われて、横に座っていた男性を真っ先に見つめた。


「どうしましたか」

「いや……怪我人がここにもいますけど」


 私の言葉に、男性はワッと涙を流したが「そいつは自業自得ですので」「お前は歩いて帰れ」なんて一蹴されていた。

 何かやらかしたことは明白なのだが、腕の傷は大丈夫なのだろうか?


「あれは古傷なので、お構いなく」

「そいつの仮病癖に付き合う必要はない」


 そういうものなんだ。と、驚いたところで白髪の――ロノザ様がすっと目を細める。何故だろう、すごく嫌な予感がするのだけど。頭の片隅に、説教という二文字が浮かぶ。


「それで、貴様は『北には近づかないほうがいい』という私の忠告を無視したわけだが……」

「ええと、迷子になっちゃって」

「土地勘が無いにも関わらず、宿から出たのか?」

「うっ」

「見誤った。私が思っていたより、お前は常識知らずのようだ」


 常識知らず――その言葉に肩を震わせる。高貴な人だから……という理由で出自を隠していたけど、それもボロが出そうだ。指と指をくっつけていると、ロノザ様は腕を組み直した。


「お前、どこの誰だ?」

「…………空が綺麗ですね?」

「そうか。第三飛竜部隊と聞いてもピンとこない。出自を言うこともできない。おまけに『空が綺麗だ』なんて口説いてくる」

「ええ! 口説いたつもりなんてないですよ!」

「だろうな」


 鼻を鳴らした男は、私の額に人差し指を向けた。チクリ、と痛みが走って、思わず額に触れた。ぷつりと垂れているのは、赤い血。


「人間、どうやって浮き島に降り立った?」

「!!」


 後から聞いた話だが、ウォロラで暮らしている人の形をした生き物は赤い血を流さないらしい。そうと知らない私は、ニキビを潰された!? と変質者を見るような目を向けてしまったのだが。

 それからは、あっという間だった。

 飛竜部隊の隊長・副隊長に囲まれた私は、竜車という首長竜の引く乗り物に詰め込まれ、城まで連行された。

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