1 竜の暮らす島
「これ……生きていると思うか」
「さぁ?」
寝ぼけていた私の耳に、男女の声が聞こえてくる。今は何時だろう? 学校には間に合ったのかな? そう考えたところで、飛び起きた。
辺りに広がるのは、草丈のある草原。快晴に、ぽつぽつとある雲。そして、私のことを覗き込む二人組。どちらも背が高くて、ずっと見上げていたら首が痛くなりそうだ。
民族衣装のような鎧。背負った大剣、腕に添えられたクロスボウ。彼らの身に着けている物は、見たことがないようなものばかり。
「生きていたみたいだな……俺は、探索者のショウ。こっちは幼馴染のリン」
「どーも」
「はじめまして……」
ショウと名乗った黒髪の男性は、袖の中から銀色の小さなプレートを出す。
銀のプレート、それから探索者という言葉に首をかしげていると、ショウさんに名前を聞かれた。慌てて立ち上がり「芽郁花ですっ」と答える。名乗った拍子によろめけば、水色の髪の……リンさんが支えてくれた。
「す、すみません……」
「なんで謝るのよ」
そう言われて、更に謝りそうになったが、なんとか飲み込んだ。
リンさんも銀のプレートを見せてくれる。何か意味のあることなのかな? 首をかしげる私に思うところがあったらしい。頭をかいたショウさんは、こちらを覗き込んできた。
「メイカは、小人族だったりすんのかな」
「ええと」
突拍子もないことを言われて、私は目を丸くした。
リンさんも呆れたように肩を竦める。
「あんたね……」
「でも、探索者のことも知らなそうだろ?」
「記憶喪失の方が説得力あるわよ」
もっともすぎる言葉に私まで頷きそうになった。けれど、別に記憶喪失ではないため、私は自分の身に起きたことを説明する。たどたどしい言葉でも、二人は最後まで聞いてくれた。
「風に飛ばされて、ここに来たのね?」
「じゃあ、現在地が分からないのか」
二人は地図を取り出した。ここは、竜の暮らしている浮き島。ウォロラ。その中でも南に寄っている現在地が、シュランドという地域。ガログ竜の多い草原地帯だそうだ。
「マボロシの浮き島……」
「大昔のウォロラは、そう呼ばれていたらしいな」
ふと、母さんが読み聞かせてくれた絵本を思い出した。舞台は、まさに竜の暮らす島。飛ばされてきた少年は、かけがえのない冒険をする。そんな、絵本の内容を思い出した私は、目をきらりと輝かせた。
「本当にあったんだ……」
ショウさんは、浮かれる私に「やっぱり」という顔をした。それに腹が立ったのか、リンさんがピョンと伸びた黒髪を引っ張る。
「いだだ」
「メイカは、これからどうするの?」
「これから……」
何も考えていなかった私は、言葉に詰まる。そんな私に、リンさんは「よければ都まで連れて行くわよ」と口にした。都というのは、ウォロラに三つある大都市のこと。シュランドの都に行けば、目的も見つかるかもしれない。
「よろしくお願いしますっ」
「よろしい」
「本当なら護衛料金がかかるところだが、今回は特別だ」
「あたしたちも、都に向かっていたところだし?」
ツンと澄ましたリンさん。
カリカリしているのかな……と思っていたけど、悪い人ではなさそう。私が「邪魔にならないよう、精一杯ついて行きます!」と握りこぶしを作ったところで、二人は歩き出した。
✶
「あんた、それでよくついて行くって言ったわね……」
歩き出して少し。張り切りすぎて疲れた私に、リンさんが呆れる。申し訳ないけれど、ここは休んでもらうしかない……そう思っていたら、リンさんが手のひらサイズの石を取り出した。原石みたいな石は、青色の光を帯びている。
「おいで、シードラ竜っ」
リンさんは、石を空中に放り投げた。その瞬間、地面がバリバリっと割れて、地中から黄色い生き物が飛び出してくる。黄色い体に薄青色のラインが入ったその子は、空中にあった青色の石を飲み込んだ。
「あれはシードラ竜。リンの相棒で、地中からついて来てくれていたんだ」
ショウさんの説明は、あんまり耳に入ってこなかった。それよりも、リンさんの腕に頭を擦りつけるその子の方が気になる。波打つような白色のたてがみは、泥も土もついていない。
「石、食べちゃいました……」
「ご飯よ、ご飯」
「石を食べるんですか!?」
「厳密には宝石だな」
シードラ竜は、地中にある原石を食べて暮らしているらしい。名前はあるんですか? と聞いたら『名前を持った竜』は浮き島に数えるぐらいしかいないと言われた。
「名前をつける行為が尊ばれているの」
「名をもらうことで、竜は強くなるからな」
「そうなんですね……」
それは、なんだか寂しいな。そう顔をうつむかせると、視界の中にシードラ竜が入ってくる。その子は私の周りを泳ぐように旋回した。
「メイカには、シードラ竜に乗ってもらうから」
「乗って大丈夫なんですか!?」
「小型竜でも力はあるわ」
リンさんは、自慢するように平らな胸をそらした。そこに親近感を覚えつつ、待機してくれていたシードラ竜に触る。つるりとした表面は、冷たくて触り心地がいい。そっと跨げば、シードラ竜は地面の中から顔を出した。
「おわっ」
「怖かったら、たてがみを掴むことね」
「まあ、俺たちが見守っている間は大丈夫だ」
二人の掛け声と共に、シードラ竜は地中を泳いだ。風を切っていく感覚は心地が良くて、都の手前にある山岳まではあっという間だった。




