プロローグ
一階の居間から『春一番が吹くでしょう』というニュースキャスターの声が聞こえてくる。
通学準備をしていた私は、いつも流している朝の番組に目を向けた。
「早めに出発しようかな」
地域によっては、竜巻警報も流れているらしい。テレビの電源を落とし、私は玄関に向かう。
靴を履くため、手をかけた靴箱。カスミソウの花束と、白いフレームに包まれた古い写真が置かれている。その中の両親は、幸せそうな顔をしていた。
「よし……じゃあ、いってきます!」
誰もいない家に向かって声を掛けると、空田 芽郁花は玄関の扉を開けた。
雲ひとつない快晴の空。
生暖かい南の風を受けながら、通学路を登っていく。
山沿いにある漁港町は、見渡すかぎり青くて観光地としても有名。ただ、坂道が多いから、生活に適しているとは言えない。隣の市に住んでいる叔母さんも「中学校って上の方でしょ? 想像するだけで疲れるわぁ」とげんなりしていた。
「風、強くなってきてる……」
階段に足をかけた私は、横髪を押さえながら町を見下ろす。
海の先からやってくる強風に、前髪が暴れる。この風だと、櫛を通した意味もなさそうだ。
前髪の隙間から見えた空は、絵の具を垂らしたような青空。
見惚れて少し、海の際を飛行機みたいな影が通り抜けた。二つの影は、飛行機とは比にならないぐらいの速さで飛んでいく。
私は、パチリと目を瞬いた。
「あれは……」
なんだろう? と、目を凝らした瞬間――轟音と、巻き上げるような突風が襲いかかってきた。
足をすくわれて、咄嗟に「待って」と叫んだ。私を掴んだ竜巻は、近所の屋根までも剥がしてしまう。
私と瓦礫は、大空に投げ出された。
回る視界いっぱいに広がるのは、生まれ育った漁港町。
(この光景、はじめてじゃない……)
漁港町を見下ろしたことが、前にもあったような。しかし、その既視感の正体を突き止める前に、私の意識は限界を迎える。
気を失う直前、遠い場所で聞いた『鳴き声』が私のことを呼んだ気がした。




