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青空の冠  作者: 蛸やろう
11/13

9 竜舎見学1

「観察の仕事は、あらかた終わったよ」


 竜の足跡を探していたら、別の場所を見ていたファビスが戻ってきた。

 サザンラの丘陵での保護、観察の大体が完了したらしい。調査結果は良好、竜の季節移動も問題なく行われていた。

 ファビスとアシャさんは第三飛竜部隊の正式な隊員で、この任務が終われば他の仕事につくだろう。この後はどうするのかな? このまま、何もなく解散……ってなったら、流石にちょっと寂しいかも。

 落ち込む私に、ファビスがとある提案をしてくれた。


「そろそろ、竜舎の案内をしようと思ってるんだけど、興味ある?」

「……竜舎の?」

「そう。知っての通り、竜舎は保護した竜や、非番の隊員たちの相棒が暮らしている。竜と鎧の生活を見るのも、良い刺激になると思うんだ」


 ファビスの言葉に、私は顔を上げる。

 野生の竜だけでなく、鎧族と関わる竜の姿も見るべき――その考えは、単なる思いつきというわけでもなさそう。竜舎見学については、ファビスだけでなく、アシャさんも賛同しているらしいし。


「この時期でしたら、危険な竜も少ないです。それ故に、隊長の許可も取りやすいでしょう」

「それなら、行ってみたいかも。すごく勉強になりそうだし!」


 興味深そうに言えば、二人は笑ってくれた。

 私が竜に興味を持つことは、彼らにとって喜ばしいことなんだって。


「ロノザ様には、私から伝えておきます」

「お、助かるよアシャ」

「……ファビスが言ったところで、意味がないことは知れているからな」

「ぐふっ」


 また虫に刺されていそうなファビスを横目に、私は竜舎へ思いをはせた。

 飛竜部隊の相棒だから飛竜が多いのかな。

 見たことのない、大きな竜もいるのかな。


「この近くにはいない、珍しい竜も見られたりする?」

「それは、当日のお楽しみだよ」


 ファビスは持ち直したのか、片目をつぶってみせた。

 その言葉にワクワクしながら、待つこと二週間。ようやく、竜舎見学の許可が下りた。


    ✶


 青紫色の制服をまとった私は、駆け足で集合場所に向かう。


 水門には、見慣れた銀の鎧をまとった二人がいる。いつも通りの光景……かと思えば、ファビスの後ろに知らない少年がいた。彼は誰だろう? 疑問に思いつつ、頭を下げる。


「ごめんなさい、少し遅れました」

「時間ぴったりだから大丈夫」

「メイカさんが気にすることではありません」


 二人の言葉にホッとしつつ、おすまし顔の少年に目を向けた。燃えるような赤髪と、それよりも薄い赤目を持った少年。歳は、私より少し下に見える。服装は鎧じゃなくて、襟が詰められた翠色の制服。


「えっと、こちらの方は……?」

「彼はレット。竜舎所属の見習いでね」

「……」

「まーこの通り人見知りしているみたいだから、気にしなくていいよ」

「……フン」


 鼻を鳴らした少年は、私のことを見向きもしない。私が名乗ったとしても、聞き入れてくれなさそうな感じの悪さ。嫌悪される理由が思い至らず、困惑する。そんな私を差し置いて、ファビスは「それじゃあ出発しよう!」と、明るい声を出した。



 竜舎を目指す道中は、思っていたよりも長かった。

 緩やかな道を、ひたすらに歩き続ける。

 その間、ファビスは他愛もない竜の知識を披露してくれた。


「ウォロラに暮らしている竜たちは飛竜、水竜、地竜に分かれている。そこから、さらに大きさでも分類があってね――」

「……あの」


 楽しげに語るファビスに対し、レット少年は眉を寄せた。


「なぜ、そんな当たり前の話をするんですか」


 当たり前と言われ驚いたのは、私の方だった。そっか……ファビスはいつも『人間』の私に合わせて話を噛み砕いてくれているけど、それってウォロラの人からしたら常識レベルの話だったんだ。


「……分かりやすく話しただけだよ?」

「ファビス」


 アシャさんに名前を呼ばれて、彼は口を閉ざした。

 レット少年には悪いけど、人間がウォロラに降り立ったことは重要機密。もし、私が人間であると知れ渡ったら、ロノザ様はどんな反応をするか。

 それはもう、はちゃめちゃに叱ってくるだろう。そんな恐ろしいことあってはならない! だから人間だということはバレてはいけないんだ。


「……変なやつらだ」


 幸いにもレット少年が踏み込んでくることはなかった。気まずい空気は流れたけど、それから十分もしないうちに竜舎へ辿り着いた。


「メイカ見て。これが、シュランドのほこる竜舎だよ!」


 ファビスに言われ、私は視線を持ち上げた。

 そこに広がっていたのは、雄大な山岳。シュランドの竜舎が建てられているのは、この地を囲う山々の斜面だった。圧巻と言うべき光景に、私は空色の目をこれでもかと見開く。


「す、すごい! 崖に穴がいっぱいある!」

「あはは、シュランドの飛竜を保護するには、この形が最適だったんだ」


 数々の穴には、竜たちが暮らしているとか。

 巣穴の場所に決まりはなく……住みたい場所を見つけた竜は、勝手に居着くらしい。


「敵対しないの? 管理は大変じゃない?」

「そこは生態系に沿った作りをしているから無問題だね。管理は……竜にとって居心地の良い環境を作るのが最優先だから」


 ぽりぽりと頬をかいたファビスは、最も近いという麓の地竜エリアに向かった。私も、周りの景色に圧倒されながら、背中を追いかける。

 テュフォン竜は踊り、ガログ竜も草原を駆けている。この数週間で覚えた生態系が、目の前に広がっている。その事実に興奮した。同時に、ある大きな疑問が浮かび上がった。


「……ガログ竜って暑い場所で暮らせるの?」

「お、良い質問だね」


 ファビスは落ちていた枝を拾って、太陽と竜の記号を書いてくれた。ファビスの手帳によく書かれている記号は、彼の考案したもので、第三飛竜部隊に浸透している。


「そもそも、ガログ竜が暑さを嫌うのは病気が理由。太陽の熱が、ガログ竜の病を引き起こすんだ。一方、ここの巣穴は太陽の熱を遮ることができるし、風通しもいい。だから、大抵のガログ竜は病を発症しない」

「病気になりたくないから、大移動をしていたの……!」

「これも種族繁栄のため、生存本能なんだろうね」


 どしどし、歩いてやってきたのは、噂のガログ竜。頑丈そうな見た目をしているのに、意外と紫外線に弱いのかもしれない……日焼けって痛いもんね、と考えていたところ、アシャさんの目つきが鋭くなる。


「誰か来ます」


 彼女の言葉通り、程なくして竜舎職員が飛び込んできた。

 アシャさんが、警戒したように足を踏み出す。


「何事ですか」

「が、ガログ竜が、病に罹ってしまった!」


 真っ青になった竜舎職員。

 彼の言葉に、レット少年の顔つきが変わったような気がした。

少しずつ連載を再開します。

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