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青空の冠  作者: 蛸屋 匿
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8 サザンラの丘陵3

 鎧族が頑丈な種族だということは、前々から知っていた。でも、それにしたって異様な光景。


「えッ! 腕で弾き飛ばした!?」


 山に響くのは、ファビスが鳴らした金属音。衝撃で吹き飛ばされたのは、暴れ竜の方だった。それを見て驚いたのは、私だけではないようで。アシャさんは「馬鹿力め」と眉をひそめていた。


「普通の鎧族は、あの手の地竜の攻撃に耐えられません。腕の一本どころか、腹も吹き飛んでいるでしょうね」

「びええっ」

「ファビスの硬さは、異常レベルなんです」


 続けて二体の竜が、ファビスに襲いかかった。地中から飛び出てきた竜を相手にしても、彼は落ち着いていた。

 ――むしろ楽しそうに見えるのは気の所為? 気の所為だと思いたいな。

 いつの間にか手にしていたのは、槍のような白亜の棒。ファビスは軽やかに振り回した棒を大地に振り下ろした。


「打ちつけた瞬間、地面がえぐれていた気がするんだけど……?」

「あれはマキンという、東の伝統的な得物ですね。最も重い貝殻を削って作られるそうですよ」

「なんか……小指をぶつけたら痛そうだね」


 規格外な様子を見ていると、かえって落ち着いてくるような気がした。その激しい戦いは、見ていたらあっという間に終わった。当たり前のように、重たそうなマキンを背負っていた鞄に差し込むところを見て、遠い目をする。


「そうだよね……今まで、ずっと背負ってきていたんだよね……」

「なにが?」

「うひゃあっ!」


 気づけば真横にいたファビスは私の顔を覗き込んでくる。私は慌てて「う、重荷のことを考えていただけ」と答えた。

 少し驚いたような顔をした彼は、すぐに顔をほころばせた。まるで、お花が咲いたような優しい笑顔だった。


「メイカは優しいね」

「ええと、そう言ってくれるファビスも優しいね?」


 そう返したら、金属の擦れる音が聞こえてきた。アシャさんが、鼠色の髪を揺らしてまで笑いを堪えていたのである。意外と表情が豊かなことは、お玉の件で知っていたけど……。


「そんな笑います?」

「も、ふふ……申し訳ない」

「たぶん、竜殺しの名を知ったうえで優しいなんて言うから、つい笑いが堪えられなかったんじゃないかな」


 自分で口にすると恥ずかしいな、と眉を寄せたファビス。確かに、同僚に竜殺しなんて二つ名がついていたら、簡単に『優しい人』と口にできないのかな? そう考えたら、どこか拗ねたような言葉が出てしまった。


「危機感がないのは分かってる……でも、ファビスは怖い人じゃないもん」

「そう言ってくれて嬉しいよ! まあ、飛竜部隊のやつらも、悪意で接しているわけじゃないんだ。アシャなんて、書き取りの業務は交代してくれ」

「げほっ! それ以上は!」


 笑っていたアシャさんは、慌ててファビスの口を押さえた。それを避けようとしないファビスや、すごく恥ずかしそうなアシャさんの様子を見るに、やっぱり仲が悪いわけではなさそう。


「なんとなく分かるかも……みんなのファビスを見つめる目って、どこか寂しそうだし」

「う……本当に、メイカは鈍いのか鋭いのか分かりませんね」

「そう分析されると、なんか気恥ずかしいな」


 ファビスは頬をポリポリと掻いた。

 ちょうどその時、都の方からゴーンと鐘の音が聞こえてきた。少し間延びしたような音は、お昼を教えてくれる竜の鳴き声らしい。空に目をやれば、太陽は真上にある。


「桃の香りがしてきた気がする」

「気が早いって」

「ファビスは暴れていた竜との交渉を」

「はいはーい」


 彼は、ひらひらと手を降って山を降りていった。それを見送りつつ、私たちはピクニックの準備をした。布製のシートを取り出して、アシャさんの手料理が入ったバスケットを置く。


「特に考えず走ったので、バスケットの中身がひっくり返ったみたいですね。申し訳ありません」

「ううん、それって私を守るための行動だし……守ってくれてありがとう」


 はにかんで言ったら、アシャさんは照れくさそうに受け取ってくれた。心が暖かくなって、変な声がもれそうになる。

 ――ファビスが帰ってきたら、彼にも言いたいな!

 そんなことを考えながら、シートに腰を掛けた。いつもは丘陵の方を向いているけど、今日は、風向きに合わせて都を見下ろすことに。


「わあ、まるで海みたいだね」

「ふふ。湖ですよ?」


 きらきらと太陽に照らされた巨大な湖は、両親とピクニックしたときに眺めた海と似ている。私って小さい頃から、大きい湖のことを「海がある!」なんて勘違いすることが多かったんだよね……そう考えたところで、あることに気がつく。

 

 ――あの時、見たのも湖だったのでは。


 私の顔は、熱されたように赤く染まった。よくよく考えたら、あれは都を見下ろしたような景色で……じゃあ、あれは私の記憶違いだったということ? ぱたぱたと頬を仰いだあと、頭を冷やすため、桃のジュースを飲んだ。


「あれ、メイカ……顔が赤いね?」


 帰ってきたファビスは、気づけばシートに座っていた。

 びっくりした私は「なんでもない! さっきは助けてくれてありがとう!」と勢いで言ってしまう。流れで口にしたから、適当な言葉に聞こえたかも……と、余計に落ち込んだ。

 そんな私に、彼は、無言でレタスパンを差し出してくれる。


「ファビスううう……貴方は本当に紳士なんだね!!」

「やっぱり? 気品に溢れてるもんね、僕」

「メイカ、このトンチンカンを助長させるな」

「ぐふっ」


 暴れ竜が出るというトラブルはあったけど、丘陵で行われる保護や観察は進んだみたい。満足気にうなずいた私は、目の前のレタスパンに齧りついた。

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