5 選ばれし五十二人の駒
(……此処に残った者って……いったい何人なんだろう……?)
相当数の囚人たちが居たのは間違いない。
和馬は、おっかなびっくりしながらも、監獄に残ってひれ伏している囚人たちの頭数を数えた。
「……五十二人……もっといなくなるかと思ったのに……」
和馬の意図にしてみれば、全員がいなくなってから、自分も外へ出ようと思っていた。……しかし、外は危ないらしい。これだけの囚人が戻ってきたのだ。しかし「学校のクラスよりもちょっと多い人数に囲まれている」という状況は、ただただ苦痛であった。
ジルはその「五十二」という数字を聞いた瞬間、老人ジルの瞳に怪しい光が宿った。
「……五十二とな……!おお、なんという数秘的な美しさだ……!」
ジルはガタガタと鉄格子を震わせ、同じくこの檻に残った若者に話しかけた。
「おい、若造。貴様は知らぬだろうが、古の遊戯に『トランプ』というものがある。それは四つの四季、五十二の週__すなわち、この世の『一年』を司る数なのだっ!」
「えっ、何だって?じゃあ、この人数は……」
「決まっておる!青方は、この監獄に新たな『秩序』を刻もうとしておられるのだ。この五十二人こそが、新世界の運命を回すための『一揃いの札』そして……あの方は、そのすべてを超越する五十三枚目として君臨しておられるのだっ!」
(いや違う違うっ!偶然だよ……偶然っ!)
和馬の内心の叫びを無視して、若者はその場に再び平伏した。
「看守長……いや、わが主よ!つまり我ら五十二人は、貴方の指先一つで捨てられ、あるいは切り札となるための駒というわけですね!感服いたしました!」
「「「「我ら、主の御手の中にある札とならん!!」」」」
五十二人の凶悪犯(囚人)たちが、一斉に唱和した。彼らの瞳からは先ほどまでのパニックが消え、「自分たちは特別な役割を与えられた」という異常な万能感に満たされている。
和馬は、その熱狂的な視線に耐えきれず、顔を覆った。
「……もう好きにしてくれ。トランプでも何でもいいから、俺のことは放っておいてくれよ……」
無情にも『黒い板』が彼の言葉を変換させる。
「みんな、聞いたか。『トランプ(遊戯)を始めろ』と仰っている。……つまりこれからこの監獄を使って、あの方の退屈を紛らわすための『命がけのゲーム』を開始せよという御命令だっ!」
ジルの解釈により、五十二人の囚人たちは即座に立ち上がった。
「了解した!各員、四つの組に分かれろ!監獄の東西南北をそれぞれ制圧し、ジョーカーである主の御心に適う『最高の舞台』を作り上げるのだ!」
「うおおおーーッ!!」
和馬が止める間もなく、五十二人の精鋭(勘違い集団)は、徒党の勢いで監獄の深層へと散っていった。
静寂が戻ったプラットフォーム(和馬の居場所)で和馬は手元の『黒い板』と玉座の前に転がる首無し骸骨を見比べた。
「……なあ、先代さん。俺……トランプなんてババ抜きしか知らないんだけど……」
当たり前だが、骸骨は何も答えてはくれない。ただ、和馬の頭の中で、満足げに笑うジルの声だけが虚しく反響していたのだった。




