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3 狂乱の放免

 和馬の意図しない「全房解錠」によって、監獄は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。


「扉が開いたぞ!逃げろ、逃げろっ!」

「ジョーカー(和馬)の気が変わらないうちに、一刻も早くこの階層から離れるんだ!」


数万の囚人たちが、蜂の巣をつついたような騒ぎで独房から飛び出していく。和馬は、その凄まじい足音と怒号に耳を塞ぎ、石の椅子の陰にガタガタと震えながら隠れた。


(……よ、よし。みんな逃げていく。このまま誰もいなくなれば、俺もこっそり出口を探せるはず……!)


和馬は、自分のしでかした大失態が「棚ぼたのチャンス」に変わることを期待して、独房の奥へ消えていく囚人たちの背中を見送った。だが、隣の檻にいた老人・ジルだけは、一歩も動かずに和馬を見つめていた。

その瞳には、逃げ出した者たちへの憐れみと、和馬へのさらなる心酔が浮かんでいる。


「……ああ、愚かな。ジョーカーの『罠』とも知らずに外へ向かうとはな」


(え?何だって!……罠?いや、俺は本当に、ただ間違えて扉を開けただけ……)


「何をいまさら……看守長様、惚ける必要はございません……彼らは気づいていないのですよ。この『虚無の胃袋』の外が、『生者の存在を許さぬ禁忌の荒野』であることを」


この巨大監獄の「外」は、豊かな自然が広がる世界ではない。

そこは、看守長である和馬が持つ『黒い板』の魔力が届かない、完全な『精神的真空地帯』だった。


「外」の世界。この監獄を一歩出ればそこには昼も夜もない、ただ真っ白な霧が立ち込める平原が広がっている。そこでは「存在の重み」が失われ、囚人たちは歩けば歩くほど、自分の名前、記憶、そして最後にはその肉体そのものが空中にとけて霧散していく。


この監獄の中にいる限り、和馬の持つ不気味な魔力『黒い板』が囚人たちの魂をこの世に繋ぎ止めている。外へ出るという事は、その「繋ぎ目」を自ら断ち切ることを意味していた。


「あああああ!足が……俺の足が消えていくっ!」

「助けてくれ!自分が誰だか思い出せない!誰か……誰か教えてくれっ!」


逃げ出したはずの囚人たちが、ボロボロになり、あるいは半透明に透けながら、命からがら監獄の中へと逆流してきた。彼らは鉄格子の中に戻ると安心したように和馬のいる中央に向かって土下座した。


「……お。お許しを!もう、どこへも行きません!ここに置いてください!」

「看守長様!あなたが居なければならない事が分かりました。ここは安息の地です。二度と逆らいません」


和馬は、真っ青なな顔で、彼らをみていた。


(……え?戻ってくんの?何で?……逃げない……の?)


「……当然ですよ。看守長様は『外には何もない』ことを教えるためにあえて扉を開け放たれたのですから」


ジルは、満足げに頷く。


和馬にしてみれば、「(偶然)自由にしてあげたのに勝手に戻ってきて、さらに土下座までしている囚人たち」は厄介な存在でしかない。


「……もう、どうすればいいんだよ。勘弁してくれよ……」


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