35話 ターニングポイント②
瞬きをする間もなく、魔剣グラムとガルニスの魔剣が激しく衝突する。
たった一度のやり取りで、辛うじて原型を留めていた勇者邸が衝撃波で吹き飛ぶ。
「お前と踊る曲はない」
「あら、つれないのねぇ!!」
刹那の鍔迫り合い。
お互いに距離が再び開く。
「随分とこの短期間で強くなったものね。
ノーランドでは歯が立たないのも納得だわ」
早く、早くこの女を殺して、世界樹に取り込まれているであろうセイレスを救い出したい。
「お前は、邪魔だ!」
その時、セイレスとの魔力パスを繋ぐ指輪が一瞬だけ青く光る。
視界の端で捉えた指輪の変化。
一瞬にも満たない、わずかな意識の揺れ。
だが、その一瞬でガルニスは俺との距離を詰め切っていた。
「残念な幕切れだわ」
ガルニスの大剣が俺の心臓を貫こうと迫る。
身体強化魔法__。
無意識のうちに、左手へ集中した魔力の塊でガルニスの大剣を片手で受け止める。
「ッ……!!」
ガルニスが大剣を引っ込めようと両手で引っ張るが、片手で握っている俺の手からは離れない。
単純な力では俺の方がもう上だ。
何度か抵抗を見せたが、諦めて剣から手を離す。
奴はもう丸腰。
最後の一撃を入れるなら今だ。
「こんなもんか……あんまりガッカリさせるなよ」
ガルニスの大剣を足下に捨てるが、未だ余裕の表情は変わらない。それどころか薄く笑みすら浮かべているほどだ。
「何笑ってやがる」
「あなた、本当に最高だわ……!
いつぞやのメイドに使うまで取っておくつもりだったけれど。
今のあなたになら、全力をぶつけても良さそうね」
「奥の手か。待ってやるからさっさと見せろ__時間の無駄だ」
「うふふ、主従揃ってせっかちなのは玉に瑕だけれど、いいわ!
これが私の奥の手、精々絶望しないことね。
災厄の加速領域」
ガルニスが奥の手を発動した瞬間、俺が足元に転がした大剣が魔力へと分解されていく。
立ち上る紫色の魔力の元へと戻っていった。
すると、ガルニスの手元に先ほどよりも更に巨大な剣が出現する。
自身の魔力を全て、あの剣に集めている。
大剣から放たれる魔力の量はもう、俺の持っている魔剣グラムを上回っている。
「凄まじい魔力だ」
思わず呟いた。
こんなものは逆境にも満たない。
止まるつもりは毛頭ない。しかし、ガルニスの奥の手は俺の予想を遥かに超えていた。
「お褒めに預かり光栄だわ。
でも、今のあなたが驚くほどの圧は、まだ__出ていないはずよ。
さぁ構えて? 早すぎるアンコールに付き合ってもらうんだから」
「一人で踊ってろ」
片手で軽々と回転させながら、肩に担いで体勢を低くする。
真っ直ぐ突っ込んでくる……!
初撃とは比べ物にならない速度で__魔剣グラムと再び衝突する。
上から叩きつけられた大剣を、水平にして受ける。硬い石畳の地面が深く抉れ、全身が軋んだ。
絶対にここで引いてなるものか。
こんな痛みなんて、今まさに苦しんでいるセイレスに比べたら……!!
「おおぉぉぉおオオオオ!!」
全力で剣を打ち上げると、再びガルニスの大剣が手元から弾かれる。
捉えた__。
ガルニスの頭上に魔剣グラムを振り下ろす。
だが、どこかに飛んでいったはずの大剣が再びガルニスの両手に握られ、攻撃を完全に防がれた。
「何度弾いても無駄よ」
「しつこい……!」
アリシャとの契約結婚で手に入れた、無機物を無条件で切断する能力は、今は意味を成さない。
ならば、ここでやるべきは能力によるゴリ押しではなく、剣と魔法の融合しかない。
離れずに魔剣に意識を集中し、イメージするのは青い炎。
一瞬で爆発的に膨らんだ、青い炎が魔剣グラムを包み込む。
セイレスとの指輪が一際強くなり、青い炎に呼応する。
魔力の圧が、さらに跳ね上がる。
勢いはまだ死んでいない。そのまま押し切ってやる。
「吹き飛べ」
俺の声とともに、ガルニスが数十メートル後方にある家をなぎ倒しながら、一本の破壊の軌跡を描いた。
ガルニスが瓦礫を魔力放出で吹き飛ばす。
青い炎による火傷は、遠目にも重傷だ。
額から血も多く流している。
それでもガルニスは高笑いをしながら、もう一度正面から突っ込んで来る。
「何度やっても同じことだ」
「さて、どうかしらね!」
今度は勢いを殺さずに、連続攻撃を仕掛けてきた。
一撃一撃は最初の踏み込みより、重さが半減している。だが、攻めに転じられない。
ガルニスの剣が加速し始めていることに気づいたのは、数秒の間に十回以上も打ち合った後だった。
速くなるにつれて、重さもまた底上げされていく。
こいつ、どんどん速くなってやがる。
俺が顔を僅かにしかめると、ガルニスが得意そうに笑う。
「もう気づいたの?
ふふっ、あなたの感覚は正しい。
私の奥の手は、剣の巨大化でも魔力の増幅でもない。打ち込むほど加速する剣なのよ!」
際限なく加速するならば、今すぐにこいつを殺さなきゃならない。
「なら、早く決着を付けようとするわよねぇ?」
「ッ……!!」
思考を先読みされて半歩下がった俺に、ガルニスは踏み込みを強くして畳み掛ける。
瞬間、ガルニスの姿を完全に見失った。
俺の首を獲りにくる!
反射的に、魔剣グラムを振り抜いた。




