33話 幸せの代償
今この女、なんて言った?
俺のセイレスに「死ね」って言ったのか?
いくらスズハの母親とはいえ、絶対に許されねぇことを言ったな。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ……」
「待ってクレイヴ。この人、ちょっと様子がおかしいわ。
話を聞いてみましょう」
「なんでそんなに冷静でいられるんだ! 君に死ねって言ったんだぞ!」
「だからよ。一人の人間が女神に死を告げるなんて、よほどのメリットがないとありえない」
「だからって……!」
「私のために怒ってくれるのは嬉しい。でも、だからこそスズハの母親がなぜこんなことを言ったのか、確かめる必要がある。
理解して」
「……わかった」
セイレスの言っていることは共感できなかったが、今は嘆くより大事なことがある。
クソッ……俺だってわかっている。
だけど、簡単に引き下がれないんだよ!
「なぜ、私の死が必要なのですか?」
「あなたが死ねば、ライトにもう一度会えるのでしょう? 世界樹を枯らせば……!」
「……ッ!! なぜ、死者の魂が保管されている場所が世界樹だと知っているのですか?」
「夢の中で神様が教えてくれたのよ! 水の女神セイレスが苦しめば、神聖水が穢れる。
そうすれば、魂が世界樹の中から解放されて、もう一度あの人に会えるって!!」
「この世界の神が……?」
「ええそうよ! あなたは女神様でしょう!?
普段から祈りを捧げている民に少しくらい報いたっていいじゃない!!」
このクソ女……。黙って聞いてりゃ好き勝手に喋りやがって……!
「おいお前、俺はな!」
「クレイヴ!!」
セイレスに強く名前を呼ばれて黙らされる。
だが、俺の我慢ももう限界だ。今すぐにこの女を引っぱたいて黙らせてやりたい。
セイレスが俺の顔をじっと見て、哀しそうに笑いながら抱きしめてくる。
心臓の鼓動がやけに速い。うるさい。
これはセイレスとの触れ合いで胸が高鳴っているんじゃない。
本能が拒んでいるんだ。
この腕を、この身体を、絶対に離してはいけない。
「クレイヴ。ありがとう」
「おい。何言ってるんだよ。ははっ、こんな時に冗談を言うなんてセイレスらしくないだろ?
こんな……こんなにすぐに離れ離れになるなんて、俺は耐えられないぞ。
やっと……やっとだぞ? ようやくお前と__。
なぁ、セイレス……?」
「私ね、クレイヴ。私があなたにしてあげられたのは、魔法の先生くらいしかない。
きっとこの先はあなたの足手まといになってしまう。
このままスズハを放っておけば、勇者なしで先代魔王を倒しに行かなきゃいけなくなる。
それだけは絶対に避けなきゃいけない。
……だから、もう決めたの。
あなたの女として」
「待ってくれ……待ってくれよ!
俺はお前のことを……!」
「……ごめんね。
短い、本当に短い時間だったけど、幸せだった。愛してる」
俺の意識は、そこで途切れた。




