表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/38

29話 狂気の結婚式

「大きくなったわね、スズハ。ねぇ、あなた?」


 どこを見てるの?

 あなた……ってどういうこと?

 薄々気づいてはいるが、どうにも頭が理解を拒んでいる。指先が冷たい。


 母の視線の先は、本棚へと向かっている。

 まるでそこに私の知らない、でも母には見えている人がいるかのようだ。


「お母さん……? どこ見てるの?」


「何言ってるのよスズハ。お父さんでしょ?

 忘れちゃったの?」


「何を、言って……。

 セレス! セレスッ!! すぐに来てッ!!!」


 思わず叫ぶ。

 慌てたように足音をバタバタと響かせながらも、セレスが大汗を掻いてやって来る。


「どうされましたかお嬢様ッ!!?」


 いつも通りのセレスを見て、私は安心からか涙が溢れ出て来てしまう。


「お母さんが……! お母さんが……!!

 うっ、うあぁぁぁぁぁああああ!!!!」


 母親の目の前で泣きじゃくる私を見て、セレスが痛いほど力を込めて抱きしめてくれる。


「大丈夫、大丈夫ですよお嬢様。

 私が、セレスがこちらにおりますから」


 セレスが母を見ると、目を見開いて驚いた表情をする。大声で泣いている私の傍らでは、全く気にする様子はなく、母は見えない誰かを向いて薄く微笑んでいた。


「奥様……。どうして……大切な娘様が頑張ってくれるのが誇りだと、つい先日仰っていたではないですか!」


「セレス、そこの娘を下がらせなさい?

 ライトの声が聞こえないわ」


「……ッ!!」


 その言葉を聞いて、セレスは私を抱いて母親の私室を後にする。


「どうして……。

 スズハお嬢様……? 私は大丈夫でございます。

 きっと奥様はお疲れなのと、急にお嬢様がお帰りになられて混乱されているだけ。

 少し時間をおいてもう一度……お会いすれば、きっと……! うっ」


 セレスも口元を押さえ、必死に我慢するように嗚咽を漏らす。

 私達はしばらくの間、一緒に我慢できない現実を受け入れられなかった。

 母は会話が出来るだけで、どこにもいない父親の幻影を追いかけている。


 回復など一切していないのは、医者を通さずとも明らかだった。私にはむしろ悪化すらしているようにも見えてしまい、ただ泣くことしかできなかった。



 ◇◇◇◇



「シェリア様。式の準備は滞りなく進んでおりますが、本当にこのお方とご結婚なされるのですか?」


 教会の神父が正装で現れる。恐らく結婚式を挙げる夫婦を祝福するためのものだろうが、表情は崇めている女神が結婚するだけあって固い。


「ええ。それと、婚姻の儀はもう済ませておりますの。今日は名実ともにこの国の皆様に祝福をして頂こうと思いまして」


「それはそれは……。おめでとうございますシェリア様。新郎どのもこの度は祝福申し上げます」


 形上は取り繕う神父を見て、本当は理解が追いついていないだろうに……俺はプロだなぁと思った。


「では早速とはなりますが、シェリア様。ドレスへお着替え頂きますので、案内の者について行って下さいませ」


 神父が手で案内すると、裏手の方で手を挙げている女性が一人。シェリアに向けて手を振って合図をしている。


「感謝致しますわ。では主様? 私は一度失礼します」


 スカートの裾を上品に摘んで俺に一礼し、シェリアがドレスに着替えるべくその場を後にする。


 別室にシェリアが完全に消えた瞬間。神父が俺に向かって小声で囁く。


「本当に結婚するおつもりですか?」


「あなただって、あの子の無鉄砲さはわかるはずでしょう……?」


「……心中お察し致します」


 うん。やっぱりシェリアって問題女神だってみんなわかってるんだね。はぁ……。

 でも、やるからにはシェリアの望みを叶えてやりたい。


 決して後が怖いからではなく、一緒に戦ってくれるんだ。

 それで彼女が心置きなく協力してくれるなら、俺もまた彼女の期待に応えなきゃならない。


 アリシャとセイレス、クラリスは何やら三人で教会の参列席に座って談笑している。

 なんだか緊張してきたな……。


「さぁ、新郎どのもお召し物をお変えになられますので、どうぞこちらへ」


「わかりました。三人とも、俺はカッコいい服に着替えてくるから、ちょっと待っててくれ」


 クラリスは目を輝かせて早めの拍手を返してくれたが、アリシャは早く行ってこいと言わんばかりに手を挙げるのみ。


 セイレスはどこか複雑そうな表情で少しだけ笑い、こちらも快く思ってない様子だ。

 俺をじっと見つめて、その視線を決して離すことはなかった。


 そりゃそうだ。最後にやってきた女神と式を挙げようとしているんだから、あんな表情にもなる。

 でもすまん! こればっかりは俺にもどうにもできない!!


 そしてタキシードっぽい格好に着替えて三人の前に出ると、意外にもアリシャの反応がよかった。


「あら? 意外と似合ってるじゃない??」


「うるせ。二人から見てもおかしなところない?」


 セイレスとクラリスに尋ねると、こちらも問題はないようで、割と好感触だった。

 これならば問題ないだろう。


 後はシェリアを待つのみ。

 急な結婚式だから、参列者は女神二人とメイドのみ。街の人達はもちろんいない中で執り行われた。


「主様? お待たせ致しました」


「あぁ。俺も今終わったとこ……ろ?」


 驚愕。女神だけあって容姿はめちゃくちゃ整っている三人だったが、純白のウエディングドレスに身を包んだシェリアの姿は、思わず息を飲んでしまうほどに美しかった。


 あまりの衝撃に、数秒言葉を失う。

 いたたまれなくなったシェリアは、恥ずかしそうに上目遣いで口を開いた。


「主様……? その……、よろしければご感想を頂きたいのですが……。どこか変でしょうか?」


「……あっ! ごめんごめん!!

 あまりにも綺麗だったから、ちょっと見惚れてただけ」


 瞬間三人の誰かから、殺気にも似た感情が一瞬伝わってきたが、振り返ると消えていた。


「まぁ……! 主様もとても様になっておりますわ!! さぁ神父、誓いの言葉を。

 本当は扉から歩いて行きたかったですが、もう我慢なりませんの。

 この場ですぐに主様と一つに……!」


「かしこまりました。さぁ、クレイヴ様、どうぞこちらへ」


「わかった」


 そして神父が穏やかな陽光差し込む、ステンドグラスの光越しに誓いの言葉を唱え始める。

 俺とシェリアは一度契約の指輪を外してから、もう一度、お互いの指に指輪をはめる。


 転生前を入れても結婚式なんて初めてだ。

 指輪を持つ手が震えて、シェリアに少し笑われた。


 指輪の交換が終わった後に、大きな花束を持った花屋と思われる少女が、シェリアに直接手渡した。


「おめでとう! シェリアさま!!」


「ありがとう。……ひひひ。これで私は主様と永遠に……!! もう絶対に逃しません……。

 素敵なお嬢さん、お名前は?」


「私はね! ルピナスっていうの!」


「そう。素敵なお名前ですわ。

 これからも健やかに育って下さいまし」


「うん! ありがとう!」


 これでよかったのか?

 シェリアは満足しているが、俺は心のささくれがヒリヒリと痛みを伝えてきているのを、なぜか感じていた。


 それから慎ましく行われた結婚式は、何も問題なく全て終了し、シェリアは終わった後もずっと幸せそうに俺にくっついていた。


 夕方、スズハと落ち合う噴水前に全員で向かう。

 すると、そこで待っていたのは、泣いたであろうスズハの表情が絶望に歪み、瞳からは生気が抜け落ちていた__。


 俺達はすぐに途轍もない何かがあったと、言葉にせずとも理解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ