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28話 祝福と絶望の光

「おぉ……」


 思わず感嘆の声が漏れてしまう。

 そこには息遣いが感じられるほどの距離で、活気が溢れていた。


 熱気渦巻く街並みは、どこも溢れんばかりの人だかりが出来ており、各々の商いをしている。

 魔王に転生してからというもの、初めてイリス国に行った時は落ち着いた街並みと人が印象的だった。


 だが、この中央国家ユグドラシルは、絶賛成長中の樹木を思わせるような勢いを肌で感じられる。


 思わず熱気と日差しから顔を隠して素直な感想が出てくる。


「すごい国だな」


「まだ朝だからこれでも人は少ない方だよ。

 じゃあ、私は一度お母さんの様子見てくるから」


「あぁ、どこで集まる?」


「この街には世界樹の観光が盛んだから、その近くにある噴水広場で。

 結婚式を挙げるなら一日かかるだろうから、夕方に」


「わかった。そっちも気をつけてな」


「あなたに心配されるほど落ちぶれてない。

 じゃあね……」


 短い挨拶だけ済ませてスズハとはすぐに別れ、結婚式場に足を運ぼうとするが、場所が全くわからない。


 スズハに聞いておけばよかったが、まぁ魔族避けのバリアもある。そこまで急がなくてもいいだろう。


「シェリア、街の観光する?」


「いいえ、私はすぐにでも……と言いたいですけれど、主様はこの街が初めて。さすがにそこは弁えておりますわ。

 だからまずはこの街を楽しんでから。

 結婚式はその後で構いません……ひひひ」


「そ、そうか。ありがとう」


 最後の引き笑いはもう仕方ないとして、シェリアなりの気づかいなのだろう。

 まずは全員でこの街を見て回りたい。


 魔法で大道芸をやってお金を稼いでから、街を見て回ってもいいな。

 イリスも綺麗な街だったけど、俺はこっちの人が沢山いる方が好きかもしれない。


 気のせいか……?

 シェリアが俺の腕を取って色々と連れ回しているのはわかるが、セイレスの距離が前より少し近くなっている気がする。


「楽しむにしてもお金がないとな。

 世界樹の真下は観光エリアだってスズハが言っていたし、まずはそこでお金稼ぎでも……」


 歩き出そうとした時、俺の自慢の黒髪を乱雑に引っ張る者が一人。そんなことをするのは一人しかいない。


「いてててて。なに? アリシャ」


「私、見せ物になるのは嫌」


 あぁ、確かに女神だもんな。

 確かに配慮が足りなかったかもしれない。

 だけど何をするにしてもお金がかかるからなぁ。

 見せ物にならずにお金を得る方法。

 あまり褒められた手段じゃないけど、もっと手っ取り早い方法は__。


「なら教会に行って先に結婚式をしよう。

 それで三女神が来たぞーって言って、お偉い様にもらえばいいか」


「それならいいわ。女神の祝福を一つ落とせば十分よ」


 うーん、それは信じている人達が少しばかり可哀想になる。もうちょっと言い方考えられない……?

 まぁ、それが女神として今まで気づいてきた地位としてのプライドなのだろう。

 やっぱりたまに見せる女神っぽさは今も健在である。


 魔王とは最も縁遠い教会に向かうと、すぐに白い建物から何人か出て来て出迎えてくれる。その中の一人が声をかけてきた。


「これはこれは……!

 三女神様が全員いらっしゃるとは、すぐに準備をさせますので、どうぞ中へお入り下さい」


「ええ、お勤めご苦労様。

 今日はあなた方に祝福を授けるために巡礼に来たの。それとシェリアとこの男が式を挙げるから、準備もよろしくね」


「シェリア様がご結婚なされるのですか!?」


「えぇ……えぇ。私はこのお方と一つになりますわ。ねぇ、主様?」


「……そうだね」


 いよいよ本当に結婚式が始まろうとしている。

 享年二十七歳。一生独身を謳歌すると思っていたけど、ウソ結婚じゃなくてマジ結婚になってしまうとは。


 しかも相手はこの異世界を守っている三女神の一人ときたもんだ。人生、いや魔王生か。

 あぁ、俺をこの世界に転生させた神よ。

 異世界転生だけでもありがたいのに、世帯を持つという人としての幸せを、なんだかんだで噛み締められそうです。そこだけは感謝します。


 相手は一番の問題女神のヤンデレちゃんだけど。



 ◇◇◇◇



 中央国家ユグドラシル。私の故郷へ戻って来てしまった。

 __本当はまだ、帰るつもりはなかったのに。

 叔父は半殺しにした関係上、今も教会の医務室にまだいるだろう。

 少しの後悔はあったが、私に半殺し以上の仕打ちをしたんだ。殺さないだけ感謝してほしいくらい。


 さておき、家には付き人を除いて母しかいないのは好都合だ。

 病んで壊れてしまっている母を世話をしてくれる人がいなければ、私は勇者として旅に出ることすらできなかっただろう。

 熱気溢れる街路を脇に逸れ、行き止まりの路地裏へ向かう。


 壁の中へ吸い込まれるように身体を預けると、そこには見慣れた勇者の家系の関係者のみに許された屋敷がある。


 家のドアノブを握る手が自然と少し震えている。

 魔王をまだ倒していない。仲間も失った。

 旅の途中で家に帰って来てしまった私を、家の人間はどう思うだろうか……?

 壊れてしまった母の身体は、まだ体力は残っているだろうか……?


 考え始めるとキリがない。それでも、自分の母にもう一度会って先代魔王を倒す決意をしたい気持ちが強かった。


「お帰りなさいませ。スズハ様」


 ハウスメイドの長であるセレスが出迎えてくれる。

 あまり意外そうな表情は見せず、落ち着いた態度でお辞儀をして迎えてくれる。


「……ただいま。お母様は?」


「お身体は大事ありませんが、嬉しいご報告が」


「なに……?」


「ふふ、それはご自身でお確かめください。きっとお喜びになると思いますよ」


 言われるがまま、母の私室を軽くノックしてから入ると、そこにはベッドに座っている母の姿があった。


「お母さん……?」


 虚空を見つめながらも、返事が返ってくる。


「スズハ……?」


 頬の肉が無くなりながらも、目には虚ろな希望の光。

 歪ながらも、力が宿っている。

 私は嬉しくなって声をかけようとしたが、視線は一向にこちらへは向けてくれなかった。

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