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27話 縁切りでバリア突破? 勇者の母に迫る悪意

 一度戦った時に母親が精神を病んでしまったのは聞いていた。

 だが、まさか中央国家ユグドラシルの出身だったとは。


「へぇ、スズハの故郷なのか。じゃあ俺達とは別行動した方がいいかもな」


 娘が魔王と一緒に里帰りなんて、聞いたことないしな。


「うん。そうしてくれると助かる。魔王となんて帰ったらお母さんが倒れそうだから」


「そうだな」


 だが、魔族との縁を切らなければならない人物がもう一人。


「魔王様。私はここで帰りをお待ちしております」


 魔族の血が入っているクラリスもまた、恐らくバリアに弾かれてしまうだろう。


「シェリアに縁を切ってもらえば、クラリスも入れるんじゃない?」


「確かにシェリア様に魔族との縁を切って頂ければ、私は中へ入れるかもしれませんが……」


 歯切れが悪いクラリスが気にしているのは、きっと……


「魔族の血が消えて弱体化するかもしれないってこと?」


「はい。魔王様は"魔王"という縁がありますので、力は落ちるどころか上がっていました。

 ですが、私の生命線は魔族としての血筋と言い換えてもいいです。


 うっかり縁を切って、戦力外になるのは我慢できません」


 そこで当人に聞いてみる。


「クラリスは魔族としての縁が大事だって言ってるけど、シェリアから見てどう?」


「お待ち下さいまし」


 じーっとシェリアがクラリスを見つめるが、どうやら問題ないようだ。


「いいえ主様。切るのは力との結びつきではなく、縁。

 このメイドは、魔族との薄い縁を切ったとしても、力には影響はございません。


 主様に対する特別な縁ができておりますし、私としてはこの縁をぜひ切らせて頂きたく……!」


「やめて下さい! それだけは!!

 ……魔王様は、私の全てなのです」


 クラリスが珍しく、いや出会ってから初めて声を張って抗議する。

 俺としても意外だったが、シェリアは短く「ふぅん」とだけ零し、クラリスではなく俺に忠告という名の釘を刺してきた。


 やはりヤンデレちゃん。ところどころ恐ろしい。


「主様に一つお話しが。あまり気が多いと……切りますわよ?」


「さて! 結婚式を挙げに中央国家ユグドラシルへ行こう!! シェリア! クラリスが持っている魔族の縁を切ったらすぐに行こう! いいな?」


「はぁい……!」



 ◇◇◇◇



 中央国家ユグドラシルのバリアの目の前、巨大な白亜の門がそびえる堅牢な建物の前へ転移する。


 十メートル以上はある真っ白な壁よりも、巨大な世界樹と呼ばれるに相応しい樹木が一本だけ生えている。


 幹の太さはどれくらいあるのか、壁の外からは推測できるレベルを遥かに超えていた。

 まさしく壮観。街の半分近くは影で覆われているのではないだろうか?


 急に転移魔法陣で現れた俺達を見て、壁の警備を任されている騎士達が駆け足でやってくる。


「なんだ君達は!?

 魔力針が計測不能になっている!

 イリス国に襲撃をした魔王軍関係者じゃあるまいな!?」


 イリス国の襲撃方法が転移だと、末端である警備騎士にすら周知されているのか。

 この一言だけでも、国としての高い水準にあるのがよくわかる。


 俺を除き、全員が素顔を露わにしているためか、警備騎士が俺のフードを雑に引っ剥がす。


 クラリスとシェリアが殺意の気を撒き散らすと、警備騎士が怯えたように手を離した。

 顕になった俺の顔は、もちろん変身魔法で偽装している。


「もういいか?」


「し、失礼しました。

 しかし、あなた達は一体何者でしょうか?」


 そこでアリシャがセイレスを前に連れて、警備騎士に宣言する。


「ここにいるのはイリス国に加護を与えし三女神の一人。水の女神、セイレスなのよ?

 この世界樹を維持してる神聖水の源だって、この子が生み出したんだから!

 さっさと道を開けなさい!!」


 警備騎士がきょとんとしている。

 それもそうだよな……。いきなり現れて、ここにいるのはセイレスだと言われれば、フリーズする気持ちはよくわかる。


「あなた方が、三女神様の関係者だと?

 はっはっは! 面白い冗談だな!!


 だが、時にその冗談は罪にもなりかねない。

 君たちが怪しい者じゃないのはわかったから、もうそんな冗談で笑いを取ろうとしなくていいぞ」


「んなっ! ちょっとクレイヴ!」


「なに?」


「今ならこの騎士達、斬れると思うの」


「おい止めろ」


 警備騎士の二人に通行料を支払うタイミングで、またお金問題が浮上する。

 そういえば、未だにお金持ってないんだった……。


 スズハは少し呆れてため息を漏らしながら、持っている聖剣を見せると、背筋をピンと伸ばして緊張した面持ちになる。


「はっ……! 勇者スズハ様! お勤めお疲れ様です!

 ということは……! そちらの方々は本当に……?」


「ようやく信じる気になったのかしら?」


「いいからアリシャ。二人が可哀想よ」


 警備騎士の手が、ガタガタとわかりやすく震えている。


「し、失礼しましたぁー!!

 命だけはご勘弁を!! セイレス様にアリシャ様。そしてその特徴的なハサミをお持ちのあなた様も……。ひぃいい!!」


 なんだか事が大きくなっている。

 結婚式を挙げるにしても、街に入るだけでこの騒ぎだ。仕立て屋に会いに行くまで、こんなペースで目立っていてはキリがない。


「アリシャ。これからはなるべく目立たないようにしないとダメだ。

 気持ちはわかるけど、先代魔王の関係者がいたら本当に命を狙われちゃうぞ」


「うるさいわね、そんなこと言われなくてもわかってるわ」


 そっぽを向いてツーンとする仕草をする。

 可愛いが、ここで本音を言うと話が拗れそうなので黙っておく。


 重厚な大門を潜ると、そこは本当に異世界が広がっていた。


「……ただいま」


 小さく呟いたスズハの隣で、シェリアは俺の腕に手を絡めて__。


「主様? 早速式場へ向かいましょう?」


 どう足掻いても、俺はこの子の狂気を止められない。


 そして__。

 スズハの母に魔の手が迫っていたことを、この時の俺達は、誰も知る由はなかった。

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