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25話 中央国家ユグドラシル、侵攻前

「なるほど、君が最後の三女神。縁切りのシェリアか」


「あら、ご存知ですの? つまらないですわね。

 ですが許しませんわ。主様に初めて名乗る機会を奪ったのですから。

 まずは先代魔王とあなたとの縁、切り裂いて差し上げます」


「遠慮しておこう。君の目にはどうやら私から魔王様へ繋がる縁が見えているらしい。

 その力は一度切られたら最後、対象と関わった記憶ごと封印されると聞いている。


 魔王様が三女神の中で一番警戒されているのが君だ」


 シェリアと呼ばれた少女は余裕そうに短く笑っているが、目には殺意しかこもっていなかった。

 俺はとんでもない子と、ウソ結婚の契約をしてしまったのかもしれない。


「あらあら、光栄ですけれど、そのまま逃げ切れると思って?」


「追うのであれば君だけを連れ、私とともに深界へお連れしよう。地続きとはいえ、この新しい魔王と魔力を繋ぐパスが維持できるとは思えないがね」


「……憎たらしい」


 一層殺意のボルテージが上がっていく。

 このままでは我を忘れて飛びかかりそうだ。

 首の出血自体は止まったけれど、ふらつく足元を懸命に踏ん張りながらシェリアの肩に手を置く。怖いけれど。


「お怪我はございませんか? 主様?」


 喜んでいるのか、目を見るとそこには殺意ではなく、親愛を越えた、執着にも似た感情だけが映っていた。


 ギルバートが見せる表情は、何を考えているのかはわからない。

 こちらに戦闘の意思なしと判断したのか、後ろを向いて指輪に魔力を込め、転移魔法陣が浮かんだ。


「失礼する。一言だけ忠告してやろう。

 ジェラルドに聞いたかもしれないが、そのメイドの心臓が動いている限り、我々はいつでもお前達に襲撃をかけられる。

 忘れないことだ」


 転移魔法陣に消える姿を追うものは、誰一人いなかった。



 ◇◇◇◇



 魔界よりも更に人間界から遠い土地、深界。

 そこで一人の側近を待つ。


 薄暗い部屋の天井から吊り下がるシャンデリアが怪しく光る。

 長卓には白く布がシワひとつなく敷かれ、席には既に八人の幹部が腰掛けてギルバートの帰りを待っていた。


 一つはギルバート直属の暗黒騎士が四人。

 そしてもう一つはガルニス直属の魔術師と暗黒騎士が合計三人。


 そして側近幹部のガルニスが私の一番近くに腰掛けているが、会話はない。


 ギルバートには勇者を暗殺するように命令を出している。

 彼のことだ__勇者が最も油断した一瞬の隙に、暗殺を完了するだろう。


 ギルバートが転移魔法陣で帰還してくる。

 良い知らせを待っていたが、どうやらそうではないらしい。


「申し訳ございません。魔王様。

 勇者暗殺の任、失敗致しました」


「ほう?」


「どのような処罰でも何なりと」


 恐らく責任を取って死ねと言えば、この場で自らの首を躊躇いなく落とすだろう。

 その覚悟だけで十分だ。


「なぜ失敗したか、椅子に腰掛けて話すがいい。

 予定外の事態が起きたのだろう。

 でなければ失敗して帰ってくるとは思えぬ。


 まずは温かい紅茶でも淹れるとしよう。

 我々の明日のために」


 人数分の給仕が終わった後に、ギルバートは紅茶に手をつけずに報告を始めた。


「縁切りのシェリアが現れ、暗殺を防がれました」


「あの娘か__良い。帰って来たのは僥倖だぞギルバート。お前をシェリアに切られては敵わぬ」


 カップを傾けながら、話を聞く。


「新たな魔王はこれで全ての女神との契約を果たし、勇者スズハを仲間に引き入れました。

 ご報告は以上となります」


「ではそれを踏まえて会議を開始する。

 意見のあるものがいれば遠慮なく言うがよい」


 だが、進言する者は誰もおらず、私の次の言葉を待っている。

 奴は神に勧められて魔王を選んだ。

 そして、何かしら特別な力を授けられている。


「ギルバート。お主から見て転生した新たな魔王はどう見える?」


「はい。私の目から見れば女神三人に魔力を分け与えているため、最大魔力量は大したことはありません。


 しかし、気になることが一つ。

 魔王様の仰る通り、新たな魔王クレイヴは転生した際に神からギフトを授かっております。


 私の目の前では見せませんでしたが、間違いなく隠そうとしている様子がありました」


「ふむ。ではやはり正体が掴まれると奴にとって都合が悪い。警戒して温存しているならばなお問題はない。それだけの器ということよ」


 むしろギルバートではなく手頃な騎士に行かせて実力を測った方がよいか。

 深界から一番近い人間界の国を襲わせるか?

 いや、やるなら派手にしなければ、恐らく奴はまた力を蓄えることを優先するだろう。


「中央国家ユグドラシルを攻める」


「「……っ!!!」」


 空気が一気に張り詰める。

 今まで魔族が一度も踏み込んだことはない、言わば人間界の国々をまとめる一大国家。


 すると、ガルニスの直属幹部の一人。ノーランドが声を上げる。


「おいおい! マジかよ魔王様……!!」


「怖いのか?」


「嬉しいんだよ!! 

 今まで魔族がずっと人間に虐げられてきた歴史を作った国が、ようやく潰せるんだからなぁ!!? なぁ! やっていいよな!!」


「あぁ、私の名の下に許可しよう」


「おおおぉおぉおぉぉぉおお!!!!!」


 雄叫びを上げて張り切るノーランドを見て、冷静にガルニスが指摘する。


「恐れながら魔王様。中央国家ユグドラシルは中心に巨大な世界樹が生えており、そこを中心に国全体を包み込むバリアが張られております。


 先代勇者から奪った移動手段である、指輪の転移魔法もその効力によって弾かれています。

 どうやって内部に侵入するのでしょうか?」


「それについては考えがある。

 バリアの突破は私に任せ、お前達は舞台の編成をしろ。

 それとギルバート、お主は今回ユグドラシルに攻め入ることを禁ずる。理由は言わなくてもわかるな?」


「はい。ここの警備はお任せ下さい」


 頷き、椅子から立ち上がって号令をかける。


「我ら真の魔王軍は、中央国家ユグドラシルを攻め落とす! 今こそ叛逆の時!!

 バリアの中であぐらを掻いている人間共に、本当の地獄を見せてやれ!!!」


「「おぉ!!」


 野太く短い声が、会議室にこだまする。

 魔王クレイヴ。お前の力を暴き、現世の知識に縋らせてやる。


 お前の記憶を啜るまで人間を蹂躙し、炙り出してやろう。

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