23話 平行線の交わり
目を見開く。首に迫る聖剣を、避けない。
全魔力を首に集中させた身体強化魔法。
避けない。逃げない。
急所である首に聖剣が食い込み、俺の身体は玉座の壁まで数十メートル吹き飛ばされた。
「どうして……。どうして、斬られる瞬間に剣を離して受け入れたの!!」
勇者の泣き叫ぶような声が、俺の切れた意識を呼び戻した。
クラリスが俺の元へと駆け寄って、すぐに回復魔法をかけてくれた。
「魔王様ッ!!」
初めて見るクラリスの焦り。
悲痛な叫びを上げて、頼れるメイドが走り寄ってくる。今、それがまだ見えてるってことは__俺は賭けに勝てた……!
これで、覚悟は伝わったはずだ。
聖剣に斬られる瞬間、スズハの目が一瞬驚きのあまり大きく開かれた気がしたが……。
俺にダメージとなるのは、神の力を宿した破邪の回復魔法だけだ。
薄くとも魔族の血が混じっているクラリスの回復魔法には、俺にも問題なく効くらしい。
身体がじんわりと温かく、派手に飛び散った真っ赤な血が戻っていくが、冷たくなっていた俺の肌に血色はまだ戻らない。
ぼんやりと視界に見えるクラリスの顔には、大粒の汗が浮かんでいた。
「これが俺の覚悟だ。スズハ……!
ちゃんと話をするチャンスを……くれないか?」
スズハの瞳から力が抜け、聖剣が床に音を立てて転がり落ちた。
「あなたの覚悟はわかった。
自分が死ぬかもしれないのに、武器を完全に捨てて受け入れた。
だから一度だけ……。一度だけなら話を聞いてあげてもいい。
あなたを本当に殺すかどうかは、その後に決める」
意識が朦朧とする中、それでも安堵がこみ上げてくる。
「ああ……それでいい」
クラリスの膝枕に頭を預け、横になる。別室で待機していた女神二人を呼び、話し合いが始まる。
アリシャが心配のあまりデカい声を出して怒るものだから、セイレスがそれを諌めた。
「クレイヴ! あなたって人は!!」
「アリシャ。今は冷静に話をするのが先よ」
大変ご立腹だが、こうなった原因のほぼ全ては君にあるんだけどな……。
ともあれ、何とか俺の命は、今は繋がれている。ここからが……正念場だ!
「スズハ、君は……何のために……剣を取ったんだ?」
横になったまま語りかける。
「私は、父の仇は正直どうでもいい。
でも、父が亡くなってから、大好きなお母さんが私を見てくれなくなった。
だから、私はお母さんを変えた魔族を、殺して殺していっぱい殺して、多分スッキリしたかったんだと思う。
壊れたお母さんは、きっと魔王を殺しても喜んでくれないから」
「ああ、そうか……。
君は大切な人のために戦ってきたんだな」
「でも、私の仲間になってくれたミーナとアレンを殺した事実は変わらない。まさかそれを帳消しにできるなんて思ってないよね」
「そうだな。俺は元人間だけど魔王なのは変わらない。先代魔王の軍勢が君の仲間を殺めたのは、魔王を選んだ俺の責任でもある……。
謝って許してもらえるとは思わない。
だけど、謝罪させてくれ」
「なんでそんなに、簡単に謝るの。
あなたは先代魔王の仲間じゃないの?」
この勘違いをまず正さないと、俺達の会話は永遠に平行線を辿る。
「この魔王城を見ただろ……?
今まで君が戦った魔王の軍勢は、この城にはもういない。
俺と先代魔王は仲間なんかじゃないんだ。
先代魔王に命を狙われているんだよ」
「どういうことなの……?
じゃああなたは二人目の魔王ってこと?」
「そうだ。俺はこの世界の人間じゃない。
生まれ変わる前は異世界で生きていた。
結城紡っていう名前でな。
君の祖先も多分日本から転生してきたんだろう。とても日本人らしい名前だからね」
「私はあなたじゃないもう一人の魔王に、人生を狂わされたの……?
あなたが女神様といる理由も、本当は……」
スズハも少しずつ本質が見えてきたのかもしれない。ここでちゃんと伝えなければ。
「スズハ。君は先代勇者の父親と、死んでしまった仲間の仇を討つために戦うのか?」
「私は、ただ……お母さんを壊した魔王を許せない。絶対に仕返しをしてやるつもりで来た。
たとえお父さんを殺した魔王じゃなかったとしても、殺すつもりでここまで来た!
でも、あなたがもう一人の先代魔王を倒そうとしているなら、私はそれを利用する。
私の人生を狂わせた魔王の一人だとしても!!」
聖剣を床に突き刺し、大きな声を上げて啖呵を切る。
「それでいいさ。俺は先代魔王を討つために、君を仲間に迎えたい」
俺と勇者スズハの利害が一致して、先代魔王を共に打倒する話で決着する。
瞬間、スズハの背後に一瞬だけ青白い召喚陣の光が現れ、一本の剣が音もなく出現する。
全員の意思とは無関係に、それは現れた。




