21話 剣と魔法の舞
黒っぽい茶系の長い髪が纏められてはいるが、あまりに強い威力に引きずられて激しくなびいている。
剣戟の嵐を何とか防ぎ、聖剣を魔剣グラムで押さえつけて止める。
鋭い目つきで俺を睨んでから、勇者が身体を斜めに回転させて振り解いた。
回転の慣性を利用し、俺の顔面へ蹴りを入れられた。
数メートル吹き飛ばされ、口の中に鉄の味が広がる。
歯がぐらついて邪魔だったため、血と同時に吐き捨てた。
「まさか体術も使えるとはな」
「最悪の叔父に叩き込まれたから」
「ふむ、君も大概苦労した人生を歩んでいるようだ」
苛立ちを隠そうともせず、勇者の少女は激昂する。
「最初から何もかも手に入れているお前には絶対にわからないことだ!」
勇者の持つ聖剣が言葉に呼応するように白銀の光を放ち始める。
最初の時とは比較にならない攻撃がくる! 瞬間的に覚えたての魔法の名を呼ぶ。
「ケルベロス!」
水でできた三つの首を持つ巨大な犬を目の前に作り出し、勇者へ大量の水を向かわせる。
もちろんただの水じゃない。
サンダーショックを強化した中級魔法__グングニルを接続済みだ。
ケルベロスに触れれば最後、槍を受けたかのような電撃が全身に這い回るはずだ。
だが、俺がしたいのはあくまで対話。
余計な怪我を負わせる必要はない。
「魔剣士タイプか、厄介な!」
「優秀な教師がいるからな!」
一瞬眉をひそめて俺を見たが、そんなことはお構いなしにケルベロスの噛みつき攻撃を寸前で全て躱している。
先代魔王の軍勢を退けてここまで来た経験と自負からくるものか?
力の理由はどうあれ、俺も修行してなかったら最初の一手目で死んでたな。
真っ直ぐ、俺の命を刈り取ろうとしてくる。
感情が抑えきれないのだろうが、直情的。
アリシャとの稽古がここで活きていた。
ケルベロスの首を聖剣で落とされた後、一気に距離を詰めてくる、まだ名前すら知らない勇者だが、自己紹介くらいさせてほしいものだ。
だが余裕を演じられるほど簡単な相手じゃない。ジェラルドを討ち取った時に使ったウィンドカットを、魔剣グラムに纏わせて五連撃。
中距離を走る風の刃を弾かせてからが勝負……!
だが、勇者は全く聖剣を振る素振りを見せるどころか、そのまま俺に向かってくる。
風の刃が当たる直前、勇者の周りに半透明の障壁が出現。五発とも障壁に弾かれた。
これが対魔力か!
下級魔法との合わせ技じゃ避けるまでもないってか! くそっ!
慌てて魔剣グラムを構え直し、勇者の猛進を受け止める。再びの轟音と衝撃波が広がり、今度は勇者ペースで型にハマらない連続剣を繰り出してくる。
やりづらい!
アリシャとは真逆! 型がない!
めちゃくちゃな攻めだというのに!!
受け切れない!
聖剣に魔剣グラムが下段から打ち上げられ、俺の手から弾かれて空中を舞う。
「これで……! 終わり!」
勇者が聖剣を大上段に振りかぶり、俺の頭に叩きつけようとしてくる。
つくづく思う。本当に魔法と剣、どちらも鍛えておいてよかったと。
血豆だらけの右手を、勇者へ突き出す。
手からは巨大な赤いファイアボール。
その時、勇者の顔が笑みで大きく歪んだ。
この魔力量でも、対魔力で弾けるんだろう?
なぁ、ガスバーナーって知ってるか? 知らないよな??
空気量を調整して正しく燃焼させると、炎って奴は青く光るんだぜ。
膨れ上がったファイアボールを圧縮すると、部屋の空気を吸い込みながら、魔力密度が瞬間的に上がる。
炎は手の平サイズまで小さくなったが、代わりに凝縮された魔力と、青く変色したファイアボールを至近距離で放つ。
再び対魔力の障壁が展開されたが、一瞬でバラバラに崩れた。
「まだまだこれからさ!」
勇者の白い鎧が真っ黒に焦げ、金属疲労により砕ける。
腹部が露わになり、勇者が手で押さえて血を吐いている。手に白い光が収束していき、勇者が一言だけ唱えた。
「ヒーリング」
黒く火傷した腹部が元の色に戻り、完全に回復する。回復魔法も使えるのね。
ここまで戦い抜いたんだ。身体に随分と無理を効かせて戦っていたのだろう。
俺を見る目がまた漆黒に淀んでいくのがわかる。先代魔王から苦しめられた人生を送っていたのだろう。
早めに対話に持っていきたい。
「俺はクレイヴ。勇者の名は何という?」
「魔王と交わす言葉なんてない」
「まぁそう言うな。これから戦う仲だ。
お互いの名前くらいは知っておいた方がいいだろう?
それとも君のところの騎士は名を言わないのかい?」
「……。スズハ。スズハ・センクレット」
スズハ……?
随分と日本っぽい名前だな。
「そうか。ではスズハ、続きだ。
君が納得するまではいくらでも付き合うぞ」
先制されっぱなしはこちらの命が危うい。
ケルベロスとグングニルの真価を発揮する時だ。
「行け!」
話している最中に三つの首に戻しておいた水の番犬を勇者の頭上から飛びかからせる。
しかし、それも予測の範疇だと言わんばかりに、バックステップで簡単に躱された。
「舐めるな……!」
「舐めてないさ」
バシャンと床に大量の水が弾け、勇者が不敵に笑った瞬間。水の中から雷の槍、グングニルを三本。高速で発射する。
「……っ!!」
ようやく少しの焦りを見せる勇者が全て聖剣で叩き落としたが、対魔力を貫通して勇者の全身をビリビリと痺れさせた。
三段構えの攻撃が勇者の自由を奪い、俺は一瞬で距離を詰めて勇者本人ではなく聖剣に向かって、魔剣グラムを思い切り振り抜いた。
回転しながら聖剣が勇者の手から離れる。
本当の殺し合いならこれで決着。
「さぁ__対話の時間だ」
俺達のやり取りは、ここからがスタートだ。




