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第98話 ブロッサム侯爵派の内情

 一週間後――


「二人の席次戦はどうだったの?」


 昨日は騎士科の席次戦。登校中、俺が尋ねると――


「「俺たちが主席と次席だ!!」」


 双子が揃って親指を立てた。

 騎士科は魔法禁止。純粋な武技のみの勝負だ。


 剣、槍、斧、盾――そうした紋章持ちはいなかったらしく、二人は圧倒的な実力でワンツーフィニッシュを決めたという。


「席次戦終了後の勧誘がすごかったぜ」

「ブロッサム侯爵派にカロール伯爵派。他にも別派閥や他国の連中までな」


 貴族出身ではない二人は、逆に声をかけやすいのだろう。


「メナトは動かないのか?」

「アクィラ魔境伯爵派とか作らねぇの?」


「……そんな派閥作る気なんかないよ」


 肩をすくめると、隣を歩いていたルナリアが口を挟んだ。


「でも、メナトを探っている人は多いわよ。私のところにも話が来ているもの」


「えっ? ルーナに?」


 普通なら、王女であるルナリアに近づくために、俺やステラへ声がかかるはずだ。だが現実は逆らしい。


「そうよ。いずれアクィラ魔境伯爵が宮廷魔法師団長官に就く、という噂が広まっているの。有力貴族はすでにブロッサム侯爵やカロール伯爵が押さえている。でも、新興貴族やこれから上を目指す家にとっては違う。今のうちにアクィラ魔境伯爵派に加わることは、大きな先行投資になると見ているのでしょうね」


 学校は、将来の人脈を築く場でもある。

 高い学費を払って通う彼らにとって、どの派閥に属するかは家の命運を左右する問題だ。損得で動くのは当然か。


「それに……最近はブロッサム侯爵派も勢いが落ちているみたい。だから皆、不安なのよ」


 まぁ原因は間違いなく俺とホークのせいだろうな。

 そして、当のユージオ本人でもある。

 その理由は――


「メナト! 今から勝負だ! 逃げたらお前の負けだからな!」


 校門前で俺を待ち伏せていたのか、全力疾走で駆けつけてくる。

 息を荒げながら睨みつけてくるが、もう慣れた。


「なぁ? 朝と放課後、毎日二回ずつやってるけど、いつまでこれを続けるんだ?」


「もちろん、俺が勝つまでだ!」


 勇者は諦めない。

 何度でも立ち上がる。

 それは分かるのだが、しぶとすぎじゃないか?


 朝に魔力を使い切り、放課後も枯渇。

 その結果、授業中も自主練でも魔力運用の訓練ができない。


 当然、成長は鈍る。

 実際、セラは授業中に効率よく【魔纏】を鍛えている。

 このままでは席次が落ちるのは目に見えている。


 ……とはいえ、俺の知ったことではない。

 今日も、ユージオを手早く地面に沈めると、俺は魔法科棟四階へ向かった。


 目的地は――大図書館。


 授業が始まるまでの時間、俺はここで詠唱例や魔法文字リテラ・マジカルを読み込む。

 分からない箇所は後でフィリップスに聞けばいい。だから基礎の整理は朝のうちに済ませる。


 授業は実践的な魔法理論だけではない。

 ヘロス王国への忠誠や愛国心を説く講義も多い。


 中には洗脳じみた内容もあるが、理由は分かる。

 ここにいるのは、将来を期待された者たちだ。

 もし敵に回れば、それだけで国家の脅威になる。


 大図書館に向かい、先についているはずのステラとルナリアを探していると、一人で書物に目を落とすセラの姿があった。


「セラ、おはよう」


「おはよう、メナト」


「あれ? 今日取り巻きは?」


 俺の質問に苦笑するセラ。


「取り巻きなんて言わないで。別に私のために集まっているわけじゃないの。みんな不安なのよ。誰かが抜け駆けしないか、他の派閥へ流れないかって。さっきはユージオ様と一緒だったけど……メナトは見なかった?」


 そういえば、さっき俺に叩き伏せられた後、何人かがユージオに手を貸していた。

 入学直後は大所帯だったが、今は十人にも満たない。

 求心力が落ち始めているのは明らかだ。


 周囲に派閥の面子がいないことを確認し、俺はセラの隣に腰掛け、誰にも聞かれないように囁く。


「王都に戻ってからの話、聞かせてくれない?」

 

「うん。王都で陛下に謁見はできたけど、公務でお忙しくてね。そこでブロッサム侯爵に相談したら、すぐに取り計らってくれて前線に配属されたの。戦功を重ねて騎士爵をいただいて、その後、名誉男爵に叙されたわ」


 なるほど。

 ブロッサム侯爵は、セラたちにとって大恩人というわけか。


 と、そこに図書室の奥からステラとルナリアがやってきた。


「あ、セラだぁ! お話ししよう!」

「まったく……来ないと思っていたら、また女の子に手を出すんだから……セラフィ? メナトにまたエッチなことされてない?」


 なぜ俺が話すだけでそうなる。

 抗議する間もなく、ステラがセラの隣に座る。


「ユージオとはどういう関係? もしかして恋人?」


「そんな関係になったら、他の貴族に何を言われるか……! それにブロッサム侯爵はいま大変な時期なの。私はユージオ様を支える立場よ。それに――わ、私にも気になる人くらいいるから……」


 耳をピクピクと震わせ、必死に否定するセラ。

 気になる人か……セラも今年で十二歳だから想い人の一人や二人はいるのかもな。


 俺は話題を戻す。


「ユージオはやはりブロッサム侯爵に主席を取れと言われているの?」


「ええ。後継者争いは王族だけの話じゃないわ。ブロッサム侯爵家にもある。ユージオ様は長男ではないけれど【勇者の紋章】を授かったことで最有力候補になったの。でも、魔法科で一位を取れないようでは後継者の座も危うい。将来の王宮騎士団長の席も遠のく……」


 なるほど……あいつは、ただ意地で挑んでいるわけじゃない。

 家から命令と、自分の将来を背負っているってわけか。


「それだけじゃないわ。他にも色々と……でも、どこまで話していいのか分からない。きっと、相当追い込まれているはずよ」


 追い詰められた勇者、か。


「もう一つ。セラはプラエスの件、どう思っている?」


 ユージオと戦うたびにプラエスの仇などと言われて正直気分が悪いのだ。


「……うん。一度だけお会いしたことがあるけど、とても優しい方だった。だから、ホークさんたちに嵌められたって聞いて……どちらを信じいいか分からなくて」


 やっぱりそうやって情報統制するよな。

 戦時中の日本みたいだ。


「セラフィ。これは誓って言えるわ。プラエスはアクィラ魔境伯爵だけでなく、私やメナト、ステラ――そしてお兄様たちにまで、オフィーリアを使って毒を盛ったのよ」


「……エドガー殿下も、そう仰っていました」


 エドガー殿下。

 ブロッサム侯爵が推す王子であり、ルナリアの異母兄。

 ただ人は都合の良い方の話を信じるからな。

 ブロッサム侯爵派はブロッサム侯爵の言うことを信じているのだろう。


 これは一度腹を割って話した方が良さそうだな。

 互いのためにも……ずっとユージオに挑まれる分には鬱陶しいだけで構わないのだが、成長の止まった相手と戦っていてもあまりメリットにはならないからな。


 それに俺には一つの考えがある。

 実現すれば互いに悪い話ではないはずだ。


「分かった。時が来たら今度ユージオとちゃんと話してみるよ。そのときは、ステラとルナリア、そしてセラ。三人とも同席してくれ」


「うん。私もそれがいいと思う」


 ルナリアが頷き、ステラも力強く頷いたところで、始業の時間に。

 四人揃って一年Sクラスの教室に向かうのであった。

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