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第99話 新たなる壁

 数日後の授業中――


「パァーンッ!!!」


 アリーナに乾いた音を響かせると、皆がびっくりし視線をこちらに向ける。


「うーん……なんで音だけしか具現化されないんだ? やっぱり正確なイメージができないからか……それとも詠唱の構成が悪いのか……」


 頭を抱えていると、見学していたステラが訊ねてくる。


「お兄ちゃん? 今の魔法はなに?」


「ん? 新魔法の試作だよ。【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】は右手で使う。だから別系統の魔法を併用するなら左手になる。でも左手じゃ紋章の恩恵が落ちるだろ? 下手すれば発現しない魔法すらある。だから紋章に頼らなくても使える魔法を作ろうと思ってさ」


「今のでも十分びっくりしたけど?」


 確かに音だけなら効果はある。

 不意を突く牽制としては悪くない。

 だが、俺が欲しいのは驚きじゃない……殺傷能力だ。


「お兄ちゃん! 今度は私の魔法を見て!」


 ステラが法衣を揺らしながら前に出て、右手を掲げる。

 的を真っ直ぐに射抜く視線。


『雲を割り、空を焦がす雷よ、その刹那の光を我が掌へ。雷光を束ね、万物を穿て――』


 【星の紋章】が眩く輝く。

 魔法文字リテラ・マジカルが空中に展開し、詠唱とともに右手へ収束していく。


『【雷迅槍フルグリス】!!』


 雷槍が迸り、的の中心を正確に撃ち抜き、焦げ跡を残した。


「どう!? ようやく覚えたの!」


「ああ、凄いじゃないか!」


 威力も速度も十分。

 ユージオの詠唱を何度も聞いていた分、習得は早かったらしい。


「うん! でもやっぱり威力が高くなると制御が難しくなるね! これからいっぱい訓練して精度を高めるんだ!」


 確かに精度は落ちるが、威力は『95』。

 その威力はセラの【樹ノ槍(アルボル・ランス)】をも上回り、次席の座を揺るぎないものにした。


 一方でルナリアやビアンカ、シェンたち動物を使役できる生徒は、いまもフィリップスの講義を受けている。主と獣の連携を前提にした、オリジナル魔法の開発だ。


 俺たちも納得のいく成果が出れば、そちらへ戻る予定。

 魔法文字リテラ・マジカルを読み解き、組み替え、失敗し、また構築する。

 皆、 確実に強くなっている。


 だが、ユージオだけは違う。

 朝と放課後の勝負で魔力を枯渇させ、残りわずかな力で授業に食らいつく。

 これでは差は埋まらない。むしろ開く一方だ。


「ユージオ様。メナトとの勝負は一度置いて、ご自身を磨くことを優先なさっては?」


 セラがユージオを心配して声をかけるが、即座に首を振る。


「俺はメナトを倒し、一位になる!」


 本気の目。

 そこに宿るのは――執念。誇り。焦燥。


 そんなユージオを見かねたのか、セラが縋るような視線を俺に向けてきた。

 彼女の立場を思えば、胸が痛む。

 だから、俺もできる限りのことはしてやろうと思う。


「ユージオ。今日も放課後、挑んで来るのか?」


「当然だ! 勝つまでやる!」


 つまり、負け続けるということだ。


「分かった。挑戦は受ける。ただし、その前に付き合え」


 ユージオは不満げに口を開きかけたが、俺はそれを遮り、ステラとともに教室へ戻った。




 ――そして放課後。


「メナト! いざ尋常に――ッ!!!」


 いつも通り、突っかかってくる。


「分かってる。でも、先に俺との約束だ」


 俺はそう告げ、ステラやルナリア、そしてセラを含むブロッサム侯爵派の面々に席を外してもらい、ユージオと二人で魔法科棟の外へ出た。


 すると、そこには双子が待っていた。


「メナト……ユージオを連れてきたってことは……」

「やっぱり、そうなるか」


 二人はすぐに察したらしい。

 双子は顔を見合わせ、小さく息を吐く。


「じゃあ、ついてこい」


 案内されたのは――騎士科棟。

 初めて踏み入れる場所だ。

 騎士科の生徒たちが、俺とユージオの姿を見てざわつく。


「なんで魔法科が……」

「あれって噂の一年だろ?」

「首席確実と呼ばれた王宮騎士団長の倅と、歴代最高得点を出したアクィラ魔境伯の嫡男だ」


 好奇と警戒の視線を浴びながら、俺たちは最上階――修練場へと足を踏み入れると、双子が振り返る。


「分かってると思うが、ここは魔法禁止だ」

「魔力を巡らせるのは許可されてるけどな」


 そう言って、二人は俺とユージオに木剣を手渡す。

 さらにユージオには木製の盾も。

 俺はというと、徽章がついた法衣を脱ぎ、双子に預ける。


「……どういうつもりだ?」


 ユージオが眉をひそめる。


「最近、魔法ばかりで体を動かしてないだろ。魔法戦で接近戦になっても、お前の魔力が枯れて終わる。勝負にならない」


 自分で言っていても分かる。感じが悪い。

 だが、俺はユージオに好かれる必要はない。


「なんだとッ!?」


「やるのか? それとも逃げるのか?」


「やるに決まっているだろ! その減らず口が利けないようにしてやる!」


 相変わらずの煽り耐性『0』で助かる。


「じゃあ始めるぞ」


 イヴァンが右手を掲げて前に出る。


「互いに礼!」


 木剣を構える。


「――はじめ!!」


 イヴァンの手が振り下ろされたと同時に、床板を蹴る音が修練場に響き、ユージオが一直線に踏み込んでくる。


「は、速いぞ!」

「魔法科の動きじゃねぇ!」


 騎士科の生徒たちがどよめく。


「当然だ! これが【勇者の紋章】の力だ!」


 確かに速い……が、剣筋はブレている。

 肩に力が入りすぎだ。

 もしヨーダが見れば、「三歳児の遊戯だ」と鼻で笑うだろう。


 躱して終わらせることもできる。

 だが――あえて、正面から受ける。

 木剣と木剣が交わり、乾いた衝撃音が修練場に炸裂する。


「し、主席の方もかなりやるな!」

「あのスピードについていけるのか!?」

「騎士科の主席よりも速くねぇか!?」


 騎士科の連中がざわめく中、俺は徐々に牙を剥いていく。


 ユージオが袈裟斬りを放つ。

 それを受け流し、続く横薙ぎを逆袈裟で弾き上げる。


 即座に間合いへ。

 次の一撃をユージオが盾で防ごうとした、その瞬間。

 俺は体内に巡らせていた魔力を足の裏に集中させ――

 踏み込みと同時に、押し込むように蹴りを叩き込む。


 ユージオは盾で防ぐが、態勢が崩れる。

 そこにすぐさま剣を振り下ろす。

 が、片膝をついたユージオはなんとかこれを木剣で受け止めた。


「お、おお……」

「魔法科の動きじゃねぇ……」

「【魔纏】を使ってるんだろうが……それでも太刀筋が鋭すぎる……」


「今度は俺の番だ!」


 気合とともに踏み込むユージオ。

 しかし、焦りが出ているのか、さっきよりも剣筋が荒い。

 力任せ。視線も単調。


「がら空きだぞ?」


 振りかぶった瞬間、脇腹へ木剣の腹を叩き込む。


「ぐはっ――!」


 肺の空気を一気に吐き出し、ユージオがたたらを踏む。


「今のは【魔纏】で防げ。喰らうと判断した瞬間に、そこへ魔力を集中させろ。多少でも軽減できれば、次につながる」


 昔、ヨーダに嫌というほど叩き込まれた基礎だ。


「う、うるさい……そんなこと、とっくにやっている!」


 だが実際は巡らせ方が粗く、魔力が散っている。守るべき一点に集まっていない。

 今の一撃は、しっかり【魔纏】で防げばダメージが入らないくらいには加減している。


 やはり魔力の扱いがなっていない。

 俺はステラやルナリアとふざけ半分で身体の触りっこをしながら【魔纏】の練習をしていたが、ユージオにはそういう相手がいなかったのかもしれない。


 周囲にいるのは、おべっかを使う者ばかり。

 ユージオ本人を見ているのではない。

 その背後にあるブロッサム侯爵家という肩書だけを見ている連中だ。


 だからこそ、誰もユージオに本気で勝とうと、アドバイスをしてこなかった……顔色をうかがうばかりで。

 子供たちだけでない。大人たちも……故の傲慢なのだろう。


「立て、ユージオ。まだまだやるぞ」


 だから俺が叩き直してやる。基礎から、徹底的に。

 ユージオのためだけじゃない。

 俺のためにも――そして、セラのためにも。


 それから三十分。

 何度も剣を交え、何度も打ち込み、何度も立たせた。


 やがて――

 ユージオは天井を仰ぐように、床へ倒れ込んだ。


 肩で荒く息をする。

 【魔纏】が拙いせいで魔力の消費が激しい。

 だが、枯渇にはまだ遠い。

 問題は巡らせ方の未熟さと、純粋な体力不足だ。


 そのとき――


「ユージオ」


 熱を帯びた声。俺じゃない。

 戦いを見て血が騒いだのだろう。

 かつて傭兵ごっこを嫌っていた双子の一人――イヴァンが前に出る。


「メナトとあれだけ打ち合えるなら、相当強いな。回復したら今度は俺とやらないか?」


 倒れたままのユージオが睨み上げる。


「……確かお前は……」


 どうやら顔は知っているのだろうが、エヴァンと見分けがつかないのだろう。

 イヴァンは木剣を肩に担ぎ、堂々と名乗った。


「騎士科主席。【曙光の鷹】団員。ステラとルーナの護衛を務める――イヴァンだ」


「騎士科一位……なるほど、相手にとって不足はないか……」


 ユージオはゆっくりと立ち上がり、呼吸を整える。

 視線が交差した刹那――

 掛け声もなく互いに踏み込む。


 【勇者の紋章】がもたらす身体能力は、歳の差すら覆す。

 速度も、瞬発力も、一瞬の爆発力も一歳上のイヴァンをユージオが勝る。


 だが。

 剣は――イヴァン。


 ユージオの猛攻をいなし、受け、崩し、要所で確実に一本を取る。

 互いに一歩も引かぬ好勝負。

 それでも決定的な場面は、すべてイヴァンが制した。


 激しく息をつきながら、ユージオがまたも床に倒れ込む。


「ユージオ――まだメナトに挑むのは早い」


 悔しさに歪んだ視線が、イヴァンを射抜く。


「まずは俺を倒せ。俺を越えられないなら、メナトには届かない」


 ユージオが反論しようと口を開きかける。

 だがイヴァンは、それを遮るように続けた。


「いきなり大将に届くわけがないだろう? 王宮騎士団で団長になりたい奴が、最初からブロッサム侯爵に挑めるのか? 下から積み上げろ。実力で階段を上れ。一段飛ばしは、ただの無謀だ」


 それは、勇者のターゲットが俺からイヴァンに変わる瞬間だった。



祝★100話★


まさか三カ月更新し続けるとは思ってませんでしたw

当初は一話あたり2.000字くらいのつもりだったのですが、

100話で300.000字。


しかし、本業が繁忙期突入。

しかも書籍化作業がゴニョニョ……w

してしまったので、投稿ペースを落とさざるを得なくなりました。


次回、2/21投稿予定ではあります。

これからも応援の方よろしくお願いします!!!

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