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第93話 ルナリアは82、53、75でした

「一時はどうなるかと思ったぜ」

「な。まさにアクィラ魔境伯爵家対ブロッサム侯爵家の縮図って感じだったな」

「何かあったら、僕とカンタ君が守るからね!」


 先ほどの一件を遠巻きに見ていた双子とペッパが、俺とステラ、ルナリアを囲むように自然と散開しながら声を掛けてくる。


「まさか、会っていきなり決闘を申し込まれるとは思わなかったよ」


 ため息交じりにそう零すと、ルナリアも小さく肩をすくめる。


「ほんとね……よほどブロッサム侯爵に色々と吹き込まれているのでしょうね」


 あの直後、ルナリアが即座に割って入ってくれたおかげで、事態は最悪を免れた。

 もしあれがなければ、就学前に血生臭い事件を起こしていたかもしれない。


 ――と。

 ふいに視界の端で、ステラが頬を膨らませてこちらを見る。


「ねぇ、お兄ちゃん? 私の格好を見て、何か言うことはないの!?」


 そう言うなり、その場でくるりと一回転。

 法衣の裾とスカートが、軽やかに風を孕んでひらりと舞う。


「うん、ステラ。とっても可愛いよ。すごく似合ってる」


「本当!? 嬉しい!」


 ぱっと表情を明るくして、いつものように抱きついてくるステラ。

 腕の中に伝わる妹の温もりに、自然と肩の力が抜けた。

 そのままの体勢で、ルナリアに視線を向ける。


「そういえばさ。僕とステラとルナリア、それにセラとユージオ……僕たちだけフード付きだよね? しかも裏地の色も、それぞれ違うみたいだけど……あれって何か理由があるの?」


「ああ、それ? 魔法科だけはフード付きなの。オーロラ王国が滅ぶ前は、全部同じ制服だったらしいけど……滅亡後に、オーロラ魔法大学の様式を取り入れて、魔法科だけ特別仕様になったのよ」


「へぇ……」


「それで、裏地の色が違うのはSクラスの証。個人で色を選べるの……私が勝手にイメージカラーを決めちゃったんだけどね。メナトは深紅、ステラは蒼。私は……アンバーというか、暖色系というか……黄金色?」


 なるほど。Sクラスが設けられている学科にのみ、裏地の色分けが施されているというわけか。


 ステラのフードの裏に覗く鮮やかな蒼は、妹の雰囲気に驚くほどよく似合っている。これがルナリアのセンスだとするなら、なかなかどうして侮れない。

 俺の深紅といい、色の選び方に確かな美意識を感じる。


「でも、街中ではこの法衣を着ている人、あまり見かけなかったけど?」


 素直な疑問を投げかけると、ルナリアは「それはそうよ」と即答した。


「魔法科そのものの人数が少ないもの。各学年およそ百人程度で、A・B・Cクラスが三十人ずつ。席次が付くSクラスだけは特別で、わずか十人よ。対して騎士科は三百人、普通科に至っては六百人。魔法科より少ない学科もあるけれど、そういうところは元々人気や需要がない場合が多いわね。もっとも、最近はヘロス王立学校に入れるならって理由で、どの科も倍率は上がっているけど」


 へぇ……一学年で百人。

 思っていたより、ずっと狭き門だ。

 さらにルナリアは、少しだけ声を落として補足する。


「それにね、騎士科の生徒のほとんどは、魔法科に落ちた人たちよ。本当に剣や槍一本で騎士を志して入学する人なんて、ほんの一握り」


 その視線が、自然と前を歩く双子へ向けられる。


「だからイヴァンとエヴァンは相当珍しい存在なの。二人揃って魔法科合格はほぼ確実だったはずなのに……」


 少し間を置き、苦笑混じりに付け加える。


「もっとも、それ以上に稀なのはペッパだと思うけど。紋章師で魔力量『25』もあれば、魔法科Sクラスは確定なのに……」


 すると、当の本人が肩をすくめて応じた。


「僕は団長や副団長、それにディノスさんやメルさんの恩に報いたいだけだからね。執事科だからって魔法を学ばないわけじゃないし」


 そう前置きしてから、ちらりと俺を見る。


「それにメナトと一緒の訓練は正直きついよ。模擬戦で魔法戦になったら、痺れさせられて、失明させられて、死の追体験をさせられた挙句、最後にヴェノムモリスを飲まされる――なんて鬼畜コンボ、耐えられないでしょ?」


 笑いながらそう言うペッパに、周囲からも苦笑が漏れる。

 ネタとはいえしっかり危険人物扱い。

 それはさておき――。


「この街は、思っていたより治安が良くないね。学校の中はともかく、外に出るときは一人で出歩かない方がいいと思う。特にステラとルナリアは、ライトが合流するまでは注意してほしい」


 そう念を押したところで、ちょうど目的地の試験場へと辿り着いた。


 俺とステラ、ルナリアは魔法科Sクラス所属予定。

 入学前に席次を決める必要があるため、まずは一般受験生と同じ基礎試験を受け、その後に席次戦が行われるという流れらしい。


 正門近くに設けられた、巨大なアリーナのような施設に足を踏み入れると、そこには受験生と思しき者たちがずらりと並び、設置された的に向かって次々と魔法を放っていた。


 空気が震え、魔力の残滓が漂う。

 ここが、才能の取捨選択が行われる場所なのだと嫌でも理解させられる。


「52番! 魔力量『28』! 威力『40』! 精度『42』! 合計――『110』点!」


 試験官の張り上げた声がアリーナ全体に反響した瞬間、場内が一斉にざわめいた。


「おぉ……『110』点だと!? 本日の最高点じゃないか!」

「これはAクラスも夢じゃないな……!」

「52番って、確か名誉男爵家の出だったよな? 派閥さえ間違えなければ、男爵への陞爵も近いかもしれんぞ!」


 どうやら、相当な高得点を叩き出した受験生がいたらしい。

 羨望と焦り、期待と嫉妬が入り混じった視線が、その受験生に集中する。

 その後も、番号と共に次々と数値が読み上げられていく。


 魔力量。

 威力。

 精度。

 そして合計点。


 聞いている限り、合計『100』前後が一つの基準ラインのようだ。

 それを超えれば合格圏内、下回れば落とされる。

 なるほど……世界中から人材が集まる学術都市と呼ばれる所以か。


 そんな一般受験生の列とは明確に分けられた、別の待機列に俺たちが並ぶと――

 即座に、ざわめきが起きた。


「お、おい……あれ、魔法科Sクラスの連中じゃないか?」

「銀髪の子、めっちゃ可愛くね?」

「ロリコンかよ! 金髪の方のおっぱいの破壊力が目に入らねぇのか!?」


 ひそひそ声のつもりなのだろうが、残念ながら全部聞こえている。

 ……めちゃくちゃ不敬だな、こいつら。

 ライトがいたら、冗談抜きで頭を噛み砕かれているところだぞ。


 そう内心で呆れていると、ほどなくして職員の一人がこちらに近づいてきた。


「ええと……君たちは……」


 一目で制服の違いに気づいたのだろう。

 魔法科Sクラス用の法衣を確認すると、手元の資料へと視線を落とす。

 だが、どうやら書類の量が相当らしく、探すのに少し手間取っている様子だった。

 見かねて、代表として俺が一歩前に出る。


「アクィラ魔境伯爵家嫡男、メナトです。こちらがヘロス王国第三王女、ルナリア王女殿下。そして、ステラです」


 その瞬間。

 先ほどまで軽口を叩いていた受験生の一人が、みるみる青ざめる。

 ……今夜は震えて眠れ。


 もっとも職員の方はというと、王女殿下や魔境伯爵家の名に過剰に反応することはなかった。一瞬だけ目を見開いたものの、すぐに表情を引き締め事務的に頷く。


「そうか。では早速だが……試験……いや、簡単な実力測定を始める」


 試験と言わないのは、合否が存在しないからだ。

 ここで行われるのは、あくまで把握。


「魔力量、威力、精度の確認だ。基礎魔法を可能な限り連続で詠唱し、あの的に撃ち込んでもらう。使用する魔法は全員、槍系で統一してくれ」


 職員はアリーナ中央に設置された巨大な的を指さす。


 ふーん……。

 魔力だけを授かり、魔法文字リテラ・マジカルを学ぶ機会がなかった者は、どうするのだろう。俺たちは恵まれた環境で学んできたが、平民の子どもたちの中には、魔法文字リテラ・マジカルそのものに触れる機会すらない者もいるはずだ。


 とはいえ、今ここで口にする疑問ではないか。


「威力測定は、槍系の魔法じゃなきゃダメですか?」


 確認するように問いかけると、職員は頷いた。


「ああ。中には紋章の影響で、別系統を得意とする者もいるだろう。だがこれはあくまで実力測定だ。本番ではない。今は統一条件で見させてもらう」


 なるほど。

 この段階では、いちいち個性に配慮してはいられないというわけだ。


「それと――ルナリアは受ける必要はない」


 ということは、魔法科の中でも、測定対象は俺とステラだけということか。


「じゃあ、私は後でやってみるわ。自分がどのくらいなのか、純粋に興味あるし」


 そう言ってルナリアは一歩引く。

 俺は軽く頷き、的からおよそ三十メートルほど離れた位置へと進んだ。


 魔法手袋を外し、右手を前に掲げ、意識を集中し、詠唱へ。


『吹き荒べ、大気の刃。目に見えぬ槍と成り、敵を穿て――【風槍ヴェント】!』

「吹き荒べ、大気の刃。目に見えぬ槍と成り、敵を穿て――【風槍ヴェント】!」

「吹き荒べ、大気の刃。目に見えぬ槍と成り、敵を穿て――【風槍ヴェント】!」


 魔法は詠唱を必要とする。

 そのため、魔力を完全に使い切るまでには、それなりの時間がかかる。

 だが、しばらく続けるうちに、周囲がざわめき始める。


「お、おい……あいつ、魔力どれだけあるんだよ……」

「しかも見ろ……魔力が多いと制御が甘くなって精度が落ちるって言うのに……」

「全部ど真ん中だぞ。一ミリもずれてねぇ……」


 褒められるのは正直嬉しい。

 だが……いつまで唱えればいいんだ?


 まだ、魔力は半分も使っていない。

 そう思いながら詠唱を続けていると――


「よ、よし! そこまでだ!」


 ついに、試験官が慌てた様子で制止に入った。


「え? まだまだ撃てますけど?」


「そ、そうか……だが、これ以上は不要だ」


 試験官は額に滲んだ汗を拭いながら説明する。


「この測定は、一発放つごとに『1』点を加算する方式だ。百発撃てば『100』点。そのすべてが、寸分違わず的の中心を射抜いている。加えて、威力も基準を大きく上回っている……」


 なるほど。

 つまり、魔力量は『100』点。

 一切のブレなく全弾命中しているのだから、精度も『100』点。

 でも威力はまだ納得がいかない。


「威力測定は、別の魔法でお願いします。今のは、紋章の力を使っていませんから」


「……これ以上の威力を出せる、ということか?」


「はい。では」


 そう答え、再び右手を前に掲げる。


『我に埋みし黒き涙よ。光を飲みこむ槍となりて、敵を穿て――【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】』


 【追憶の紋章(メメント・モリ)】が漆黒の光を帯び、魔法文字リテラ・マジカルが右手に集約――

 漆黒の槍が放たれ、空を裂くと、的の中心を深く貫いた。

 衝撃で空気が震え、的の周囲にひびが走る。


 そして、沈黙を破るように、試験官の声が響き渡った。


「――魔法科Sクラス! アクィラ魔境伯爵家嫡男、メナト・アクィラ!」


 一拍置いて、叫ぶ。


「魔力量『100』! 威力『90』! 精度『100』! 合計――『290』点!!!」


 その声が届いた瞬間――

 会場は一斉にどよめき、歓声とも悲鳴ともつかぬ声に包まれた。


「れ、歴代最高得点だ!!!」


 誰かの叫びを皮切りに、アリーナ全体が沸騰したかのように騒然となるのだった。

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