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第85話 七月七日

 二年後――


「メナト! 体重を乗せろ! 前より体が大きくなったからといって、過信するな! イヴァン、エヴァン! 互いを見るな! 感じろ!」


 俺は双子の二人と、木剣を使った模擬戦の最中だった。

 その様子を、ヨーダが声を荒げて指導している。


 一つ年上の双子は、【共鳴の紋章】を持つ。

 赤銅盾勲章の効果だけでは、正面から対抗するのは正直きつい。


 とはいえ、一対一なら俺に分がある。

 ヨーダを相手にするという手もあるが、三人の練度を一度に引き上げるには、この模擬戦が最適なのだ。


 そんな俺たちの訓練を、ステラとペッパが走りながら観戦している。

 二人はまだ魔力を授かってはいないが、体力はかなりついてきており、以前とは比べものにならないほど走れるようになっていた。


 一方、ルナリアはというと――

 アイシャから、魔法文字リテラ・マジカルの指導を受けている。


 最近は領民が増え、【曙光の鷹】も安定してきた。そのおかげで、メンバーそれぞれが、自らを研鑽する時間を持てるようになったのだ。


 と言っても、テビリスの住民は百人そこそこ。

 この地は本当に核となるメンバーしか入植させない。

 それがホークの意志だった。


「はい! お兄ちゃん! お疲れ様!」


 双子との模擬戦を終え、汗だくになった俺に、ステラがタオルを差し出してくれる。俺とステラの関係は、今も変わらず良好……いや、むしろ昔以上に良好だ。


 歳を重ね、幼女から少女へと移り変わる、何とも微妙な年頃である。

 それなのに、ステラは昔よりもいっそう俺にべったりだった。


 もっとも、ステラは発育がかなり遅いらしく、王都へ行くと同年代の子供たちよりも背は低く、幼く見える。

 それとは対照的に、俺は成長が早く、一つ年上の双子とほぼ同じ背格好だ。


 ちなみに、双子の二人も同年代の中では体格が良い方である。

 どうやら魔力を授かり、【魔纏】を使い始めると、少しずつ身体の成長が早まるらしい。六歳の頃から【魔纏】を使っている俺が、周囲より早く成長しているのも、その影響なのだろう。


 と、そこへ――

 俺たち子供の中でも、最も成長を遂げた人物が、魔法文字リテラ・マジカルの勉強を終えて近づいてきた。


 ルナリアだ。

 彼女は、細身ながらも出るところはきちんと出るようになり、確実に大人への階段を上り始めている。それに相変わらずの美貌。

 今も、双子の二人がちらちらと視線を向けていた。


「メナト、ちょっと魔法を受けてみて?」


 そう言われるや否や、返事をする間もなく、ルナリアはいきなり詠唱に入る。


『天を裂く雷よ、我が手に集え。其の形、槍と成し、敵を穿て――』


 紫電を思わせる魔法文字リテラ・マジカルが、ルナリアの周囲に浮かび上がる。だが、【月の紋章】は反応を示さない。


『【雷槍フルグル】!』


 紫電が迸り、一本の槍となって俺へ一直線に飛来する。

 それを、【魔纏】で受け止め、相殺した。


「やっぱり……これもダメかぁ。これで五大属性、全部反応しなかったよ……」


 ルナリアは肩を落とす。


「でも、五大属性をすべて扱えるだけでも十分すごいじゃないか。それに、僕も五大属性じゃ反応しないし」


「そうなんだけどね……で、今日の予定は?」


「ステラと一緒に、マルゴへエーテルポーションを搬入するんだ。ルナリアも来るか?」


「じゃあ、行ってあげようかな。メナトが来てほしそうだし」


 テビリスは、交易の拠点としては決して適した場所ではない。

 原生林に囲まれ、テビリス平原には今も肉食獣がうろついている。


 そのため、旧オフィーリア子爵領の領都マルゴで行商人から物資を買い付け、それを俺たちがテビリスまで運び込む。

 それが、今の生活の基本だった。

 今日も物資を受け取るため、マルゴへ向かわなければならない。


 ライトを先頭にして、俺とステラ、ルナリアの三人で馬車に揺られながら街道を進む。


 いつの間にか、三人で並んで座るのが当たり前になっていた。

 俺の右隣にはステラ、左隣にはルナリア。

 その中で、ステラが俺の魔法手袋の上から、そっと手を重ねてくる。


「お兄ちゃん、明日、私の誕生日でしょ? 欲しいものがあるんだ!」


「欲しいもの? 僕に用意できるものなら、何でもいいよ」


「本当? じゃあ、絶対に約束だからね!」


 ステラが欲しいものって、何だろう。

 俺とおそろいの何かだろうか。


「へぇ……いいなぁ。じゃあ私も、メナトからもらいたいものがあるから、誕生日にでもお願いしようかな」


 今度はルナリアが、俺の左手を両手で包み込み、顔を近づけてくる。


「え、あ、うん……僕にできることなら、何でも言ってよ」


「あっ! お兄ちゃんもルーナも、顔赤い! 私のお兄ちゃんなんだからね!」


 そう言って、ステラがぐいっと俺の膝の上に跨る。

 するとルナリアが、少しからかうように言った。


「少しくらい、貸してくれたっていいじゃん。ステラだって、ライトをもふもふするの好きでしょ?」


「うう……それは……確かに……」


「世の中にはシェアっていう考え方があるの。メナトもライトも、仲良くシェアしよう?」


「うん! じゃあ、ルーナとシェアする!」


 ――いや、俺ってライトと同じ扱いなのか?

 そう思っていると、ステラがライトにするのと同じように、


「お兄ちゃーん!!! 大好きぃぃぃぃ!!!」


 と、思い切り頬をすり寄せてきた。


「……ありがとう。僕もステラが大好きだよ」


 そう言って、受け入れる。

 この時間が、たまらなく愛おしい。

 こんな日々が、ずっと続けばいい――

 心から、そう思っていた。




 その日の夜――


 いつものようにステラと二人で眠っていると、


「……お兄ちゃん……痛い……」


 苦しげな妹の声で、俺は目を覚ました。


「だ、大丈夫か――!?」


 飛び起きると、ステラは腹を押さえ、布団の中でうずくまっている。

 普段は余程のことがなければ起きないほど眠りの深いステラだ。

 それだけに、この痛みが相当なものだと分かる。


「どこが痛い? 今すぐお父さんとお母さんを呼んでくる!」


 そう言って立ち上がろうとした瞬間だった。

 布団にあったステラの手が俺の腕を掴む。

 同時に、照明のないはずの部屋が、ほんのりと明るくなった。


「……え?」


 違和感に導かれるように振り向いた、その先。


 闇を照らしていたのは……ステラの右手だった。

 その甲に、星形の紋章が浮かび上がり、煌々と光を放っている。


「ス、ステラ……それ……」


「……右手の甲が痛くて……そしたら、紋章を……授かっちゃった……九歳って教えられていたはずなのに……本当は……来年でよかったのに……」


 震える声で、そう告げるステラ。


 ――ついに、この日が来てしまった。


 これまで重ねてきた嘘を、もう隠し通すことはできないと悟った瞬間だった。

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