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第74話 三度目の王都

「す、すげぇ……」

「同じ国とは思えない……」

「魔晶灯しかない……夜になったら綺麗なんだろうな……」


 王都ヘリザリムに到着すると、双子とペッパは揃って言葉を失った。

 そんな王都の大通りを、ライトを傍らに連れたルナリアが先頭に立って歩いていく。


 正直、ライトほどの大型の動物が街に入れるとは思っていなかった。

 だが、その懸念は王女の一言であっさり覆される。


「私が使役しているから問題ないわ。それに、この子は他の人の言うこともきちんと聞くもの」


 そう言って、ルナリアはステラに視線を送る。

 意味を即座に理解した妹は、胸を張って前へ出た。


「ライト、お座り!」


 はたから見れば無謀にも思える命令。

 だが、ライトは即座に腰を落とし、地面に大人しく座る。


「お手!」


 ステラが小さな手を差し出すと、ライトはゆっくりと前脚を持ち上げ、その手の上にそっと乗せた。鋭い爪は完全に引っ込められており、力も感じられない。


「スキスキ!」


 ……スキスキ?

 何だそれは、と思った次の瞬間。

 ライトがごろんと横になり、惜しげもなく腹を晒した。


「ライトぉぉぉ!!!」


 ステラは興奮の声を上げると共にライトの腹に飛び込む。

 もふもふの海に顔を埋め、全身で堪能し始める妹。

 ライトも嬉しいのか、尻尾を扇風機のようにぶんぶんと回す。


 門兵もこれを見せられては何も言うことはできず、こうしてライトの安全性が確認できたため街に入ることができたのだ。

 まぁルナリアが強引に入ると言えば入れたのだろうが。


 宿を確保し、そのまま馬車を引いて中枢区画へ向かうと、案の定、見覚えのある男が待ち構えていた。


「ほう……どうやら金策は上手くいったようだな……しかし、この神聖なる王都に獣を入れるとは、いったいどういう神経をしているのやら……」


 腹を揺らしながら、嘲笑を浮かべるオフィーリア子爵。

 俺たちを一瞥し、見下すように鼻を鳴らす。

 だが、それに応じたのはホークではなかった。


「オフィーリア子爵、ごきげんよう。この子を王都に入れる判断をしたのは、私です。何か問題でも?」


 その瞬間、オフィーリアの顔色が目に見えて変わった。

 どうやら、同じ団服を纏ったルナリアの存在に、今まで気づいていなかったらしい。


「こ、これは……王女殿下!? そ、そうでしたか……! 私もこのような野蛮な者たちには相応しくなく王都に相応しい、気品ある動物だと思っておりまして……」


 露骨な掌返しをしながら、オフィーリアは愛想笑いを浮かべ、ライトの頭へと手を伸ばす。


 しかし、ライトはそれを許さなかった。

 唸り声と共に、一歩も近づくなと告げる明確な敵意と威圧。


「ひっ……!」


 脂汗が一気に噴き出し、オフィーリアは半歩、さらに一歩と後ずさる。

 さらに追い払うようにライトが牙を見せると――

 子爵は取り繕う余裕もなく、脂汗を撒き散らしながらその場を去って行った。


 マジであいつ、毎回毎回なんなんだ?

 と、思いながら謁見へ。


「お父様!」


 王の間に足を踏み入れた瞬間、ルナリアは迷いなく父のもとへ駆け寄り、その胸に抱き着いた。


「おお、ルナリア……久しいな。どうだ、テビリスは?」


「ええ、とってもいい所よ。それに――ほら」


 そう言って、ルナリアは振り返り、誇らしげにライトを示す。


「私の【月の紋章】で、この子を使役することができたの」


「お、狼……か? 普通の狼の何倍もあるように見えるが……」


「魔境と呼ばれたテビリスの主だそうよ。ずっと、月の魔力が満ちる洞窟に棲んでいたらしいの。【月の紋章】に惹かれて、姿を現したみたい」


 ルナリアはライトに視線を向け、穏やかに告げる。


「ライト。こちらが私のお父さん、ヘロス王よ。挨拶をして」


 ライトはゆっくりと前へ進み、玉座の手前で身を伏せ、巨体を床に預けた。

 王は一瞬ためらいながらも、そっとその頭に手を伸ばす。

 撫でられると、ライトは目を閉じ、微動だにしない。


「……なるほど。ルナリアの護衛としてはこれ以上ないな」


 父娘とライトの静かなやり取りを見ていると、王は視線をこちらへ移し、話題を切り替えた。


「して、ホークよ。エーテルポーションはどれほど用意できた?」


「はっ! 百壺、用意しております!」


「……百、というのは、以前持ち込んだものと同程度のか?」


「はい。おおよそ同等ではありますが、完全に同じ大きさの壺を揃えることができず……また今回は大量輸送のため、個別に抱えて運ぶことができませんでした。そのため、予備として三壺ほど多めに用意しております――今後は十リットル樽単位での交易をご検討いただければと」


 王は即座に頷いた。


「うむ。私としても、その方が管理しやすく合理的だ。樽はこちらで用意しよう」


 そこへ、ルナリアも会話に加わる。


「お父様。私もエーテルポーションの精製を手伝ったのよ。それに、壺に詰める作業も。だから質も量も問題ないわ。むしろ三壺も無料でいただけるのだから、アクィラ卿には感謝しなきゃね」


 この一言で、エーテルポーションの品質も、ホークの人柄も、ルナリアの名の下に保証されたようなものだった。


 ヘロス王が満足気に頷いたところで、ホークがヘロス王に訊ねる。


「陛下、品評会はいつ開催の予定で?」


 今月中なのだろうが、具体的な日程は聞かされていない。


「ふむ……今日だ」


「今日ッ――!?」


 ホークの声が裏返る。


「早ければ早いほどよい。それに今なら、キヴィタス皇国からの使者も滞在しておる」


 キヴィタス皇国――。

 俺が倒した【氷柱の紋章】を宿していたスティリクが身を置く国。


「キヴィタス側が使者を遣わしてきてな。さらなる国土分譲と引き換えに、スティリクの返還を求めてきた。北の前線オーネスは、こちらからは非常に守りにくい。しかしその北側は、レビンデ山脈の裾野がある。高台で守りやすい地形だ。そこへ街を移し、要塞化すれば、当面は北からの脅威を遮断できる」


 そして、俺を見る。


「メナトよ。それもこれもスティリクを倒したお前の手柄だ。大儀であるぞ」


「は、はいっ!!!」


 まさか、男爵家の嫡男に過ぎない俺の名を、王がはっきり覚えているとは。

 なんか認めてくれたようで少し嬉しい。


「追って、論功行賞の場で、あらためて称することとする」


 マジか……。

 嬉しさと同時に、胃のあたりがきゅっと縮む。

 国王からの評価というのは、どうしてこうも重い。

 だが喜んだのは、俺だけではなかった。


「さっすが私のお兄ちゃん!!!」

「アクィラ男爵家は、メナトのおかげで安泰ね」


 ステラとアイシャが素直に頬を緩ませる。

 その言葉を聞いた王が続けた。


「男爵を叙爵したのは、あくまでラージャン攻防戦の褒賞だ。エーテルポーションの件はまた別――当然、陞爵しょうしゃくも視野に入れねばならぬ。優秀な者をいつまでも男爵に留めておけば、私の見る目が疑われてしまうからな」


 名誉男爵を飛び越えて男爵を授かったというのに陞爵の可能性とは……。


「よし。ではお前たち、品評会の準備を手伝え。お前たちが監視のもと、壺から樽へ移し替える作業を行う。その際、妙なものを混入させようとした者がいれば生死は問わぬ。容赦はするな、良いな?」


 まだエレキフグの毒を誰が混入させたのか分からないから慎重になっているのか。


 こうして俺たちは、王の指示のもとエーテルポーションの移し替えに帯同し、そのまま品評会へと臨むことになった。

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― 新着の感想 ―
前後読み直しましたが、具体的な日程って何の日程なのかがわからず、困りました。 ふむ、今日だ。と王様が言ったのは何のことなのか。 樽はこちらで用意しよう、と言っていたので、 ポーションの樽への入れ換えの…
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