第73話 資源と発達
「すご~い!!! なにここ!? 洞窟なのに光ってる!」
「ス、ステラ!? ライトから飛び降りないで!」
洞窟の内部に足を踏み入れた瞬間、ステラのテンションは一気に跳ね上がり、勢いよくライトの背から飛び降りる。
それを慌てて制止するルナリア。
その様子は、まるで本当の姉妹のようで、思わず頬が緩む。
「でも……なんで光ってるんだろう?」
内部を見渡すと、洞窟の壁や天井、足元の岩肌に至るまで、ところどころが青白く淡く発光している。
明かりがなくとも、不自由しないほどだ。
「たぶん……これは……魔晶石だと思う……氷晶石も混ざってるかも……そしたら……とんでもない値が付くよ」
「氷晶石?」
「そう。装飾品に加工すれば水属性魔法の威力を高められるし、魔力を込めれば周囲の温度を下げることもできる魔石よ。とても希少で、王都でも滅多に見られないものなの」
「これ……全部が?」
「正確には分からないけど……仮に全部が魔晶石だったとしても、とんでもない埋蔵量だと思う……少なくとも、国に毎年入ってくる税収よりは高いはず……」
さすが魔境と呼ばれた未開の地。
とんでもない資源が眠っている。
洞窟はさらに奥へと続き、ところどころに広い空間が口を開けている。
生き物の気配は一切なく、あるのは静寂だけ。
そして――
「な、なに……ここ……」
「分からない……でも……日の光が……」
洞窟の終着点。
ひときわ広い空間に足を踏み入れた瞬間、俺たちは思わず言葉を失った。
天井の遥か上から、太陽の光が真っ直ぐに差し込んでいる。
だが、ここは標高五千メートルを超える山の内部。
自然に光が届くはずがない場所だ。
見上げた先にあったのは――信じ難い光景だった。
「……透き通ってる……ここだけ……」
天井の一部だけが、まるで磨き上げられた水晶のように澄み切っている。
岩盤は存在しているはずなのに、光だけが阻まれずに落ちてくる。
すると、ルナリアがライトから説明を受けたことを、言葉に乗せる。
「どうやら……ライトはずっと、ここを寝床にしていたみたい。夜になると月明かりが満ちて、微かな魔力が漂うんだって……」
なるほど。
月の光と魔力に満ちた場所。
同じような魔力を持つルナリアに惹かれて、ライトは洞窟内から出てきたのかもしれないな。
「……これは……お父さんたちに知らせよう。ここを僕たちが手を加えていいのかどうか……ちゃんと話し合わないといけない」
「ええ。ライトも……そうしてほしいって」
ルナリアはそう言って頷いた。
こうして俺たちは、金脈と呼ぶに等しい洞窟を後にする。
そして翌日――
改めてホークたちを伴い、この場所を再訪することに。
「……すごいとしか言いようがないな」
ホークたちも初めて目にする光景に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……夜に来れば、さらに幻想的な景色が広がるのかもしれないな。だが――しばらくは立ち入りを禁じよう。下手に手を加えれば、この空間そのものが崩れてしまう可能性がある」
やはり、考えていることは俺と同じだった。
「ここって、アクィラ男爵領だよな? ってことは……全部、団長のものなんじゃ――」
パルブがそう口にするが、ホークはすぐに首を振る。
「いや。ここまでの金脈を、男爵家が私有することは許されないだろう。ただ一つ確かなのは、この場所の存在は秘匿すべきだということだ。下手に言いふらせば、利権争いや権力闘争に巻き込まれる。ウィンを使役する身としても……この地の主であるライトの意思は、汲んでやりたい」
そう言うと、ホークはここにいる全員を見渡した。
「みんな、今まで通りだ。屋敷より北側には、極力手を付けない。やるとしても開墾程度に留めること。特に、この滝の周辺には近寄らないようにしてくれ。いいな?」
賢明な判断かもしれないな。
俺たちには、まだ採掘にまで手を回す余裕はない。
全員がその判断に賛同し、再びそれぞれの日常へと戻っていった。
訓練、開墾、エーテルポーションの精製。
レビたちへの餌やりに養蜂。
さらには、ライトとのコミュニケーションにも時間を割く。
そんな慌ただしい日々の中――新たな入植者たちが姿を現した。
その数、約五十名。
いずれも王の人選だけあって、なかなかの逸材揃いだ。
そして、その五十名と共に、ホークは王からの勅命を携えていた。
『来月、王城にて大規模な品評会を開催する。他国からも要人を招く故、来月、登城と共にエーテルポーションを納めよ。数量は多ければ多いほど良い』
そのため、新たに加わった者たちへ作業を教えつつ、
最優先事項として着手したのは――道の整備だった。
馬車が通れるようにするための舗装作業。
荒れた道では、エーテルポーションを詰めた壺が割れてしまう。
少量ならまだしも、これから扱うのは百単位の取引だ。
輸送途中での破損は、そのまま信用の失墜に繋がる。
ホークが「急務だ」と言ったのも、至極もっともな話だった。
そして、一か月後――
「では、行ってくる!」
そう言ってホークが振り返ると、パルブやディノス、メルをはじめとした領民たちが一斉に頭を下げた。
「団長! 留守は任せてくれ!」
「イヴァン、エヴァン。粗相のないようにな」
「ペッパも、迷子になっちゃだめだよ!?」
今回の同行者は、アクィラ男爵家の面々だけではない。
ルナリアはもちろん、ヨーダ、双子、そしてペッパも連れていくことになった。
いずれは彼らにも交易を任せる可能性がある。その第一歩だ。
道の舗装は、まだ完璧とは言えない。
だが、馬車の揺れで壺が砕け散るほど脆弱でもない。
加えて、今回からは御者も領民の中から選抜している。
そのために騎乗訓練を重ね、手綱の扱いも徹底的に叩き込んだ。
積まれているのは、品評会の目玉とされるエーテルポーション。
壺一つひとつが、この地の未来を載せていると言っていい。
「よし――行くぞ!」
ホークの号令とともに、四台の馬車がゆっくりと動き出す。
やがて車輪は速度を増し、土煙を上げながら王都への道を駆けて行くのであった。




