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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第4章 少年期 叙爵と王女様

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第55話 王宮騎士団長

 ルーナと王宮騎士に連れられて向かった先は、街の中心部――

 水を湛えた堀と、高い城壁に守られた内郭区域だった。


 中の景色は、外郭とは明らかに異なる。

 背の高い建物が立ち並び、一つ一つが大きく、威圧感すらある。


 その中の一棟へ、まず男二人が入り、俺とルーナが後に続いた。


「ここ、王宮騎士団の詰所なんだよ」


 緊張で強張る俺に、ルーナが小声で教えてくれる。

 内部では、騎士や魔法師たちがそれぞれ研鑽を積んでいる。

 その喧騒の中を抜け、俺は吹き抜けになった広いホールへと通された。


 その時だった。


「メナト君。わざわざ来てもらって、すまないね」


 突然、頭上から声が降ってくる。

 見上げると、吹き抜けの二階……いや、三階部分。

 そこから三つの影が、こちらを見下ろしていた。


 先頭に立つ男が、ゆっくりと口を開く。


「早速だが君の実力を見せてもらいたい。構わないかい?」


 相手が誰なのかも分からない状況。

 そもそも、断れる立場ではない。


「……はい。でも、状況がよく分からなくて……」


 すると、男はどこか芝居がかった調子で言った。


「ああ、失礼。私は王宮騎士団団長にして、ヘロス王国ブロッサム侯爵家当主――ジェイスだ」


 王宮騎士団団長が侯爵なのか。

 オーロラ王国では宮廷魔法師長官が伯爵だったので、権力を握っているという話も納得だ。


「君の噂が、王都にまで届いてね。実力を知っておきたかったのだよ」


 何か他にも思惑があるかもしれないな。


「そうですか。では……何をすればいいですか?」


 大抵の子供は、力や特別な才能を持てば、誰かに見せびらかしたくなる。

 だから俺はそういう子供として振る舞うことにした。


「うむ……まずは、メナト君。君の紋章の名を教えてほしい」


 やはり、俺が紋章師だということは最初から把握されていたか。

 俺は笑顔を浮かべ、魔法手袋を外すと、ジェイスから見えるように手を掲げた。


「【追憶の紋章(メメント・モリ)】と呼ぶらしいです。効果は分かりません」


「効果は分からない?」


「はい。気づいた時には、いつの間にか宿っていたようで」


 ジェイスはわずかに目を細める。


「……だが、オリジナル魔法はあるのだろう?」


「あります。そこまで威力は高くないですが」


「……なるほど。では、それを見せてもらってもいいかな?」


「もちろんです!」


 そう即答した――その瞬間。


「待って」


 声を上げたのは、ルーナだった。


「さすがに、子供相手に魔法戦なんてしないよね?」


 侯爵家当主を前にしても、まるで臆する様子がない。

 だが、ジェイスは怒るどころか、むしろ一段柔らかい口調で答えた。


「ご安心を、ルナリア様。私が相手をするわけではありませんから」


 ――ルナリア様?


 思わず、内心で言葉を繰り返す。

 ルーナという名は、偽名……いや、愛称か?


 それに、侯爵家当主が敬称を付ける相手。

 ルナリアとは、一体何者なのだ……。


 そんな俺の疑問など意に介さず、ジェイスは淡々と話を続けた。


「レーニス。メナト君の相手になれ」


 その声に応じ、一人の男が俺の前に現れる。

 彼は最初から魔法手袋をしておらず、露わになった手の甲には風系統の紋章が刻まれていた。


「メナト君、彼はレーニスだ。我が王宮騎士団に所属する紋章師の中でも、実力は上位に位置し、教育係担当でもある。紋章名は【そよ風の紋章】。魔力は『80』だ」


 ……あれ?


 紋章師の平均魔力って『100』じゃなかったか?

 いや、それは魔法大国オーロラ王国の基準であって、ヘロス王国では違うのかもしれない。


 そういえば、ヘルマー伯爵の全盛期も『90』前後だと聞いたな。

 国が違えば、基準も違うということか。


「ちなみに、メナト君。君の魔力はいくつだい?」


 まるで俺の思考を読んだかのような、絶妙なタイミングでの質問。


「え、えっと……『100』です」


 最初は『120』くらいにしておこうかとも思った。

 だが、相手の数値が想像以上に低かったため、無難に『100』と申告したのだが、それでも、ジェイスは目を見開いた。


「『100』……だと? それは、ルナリア様クラスではないか……」


 ……なるほど。ルナリアは『100』前後ってことか。

 魔力は、必ずしも魔法の威力に直結するわけではない。

 だが【魔纏】の強度は、残存魔力量によって決まる。


 消費魔力の低い魔法で攻撃し、できるだけ多くの魔力を残した状態で相手の魔法を受ける。それが、魔法戦の基本だ。


「では、まず互いに【風槍ヴェント】を唱えてもらおう。メナト君も使えるね? 【風槍ヴェント】を……それと【魔纏】も忘れずに」


「はい。大丈夫です。では、早速――」


 俺が詠唱を始めると、ジェイスがじっと俺の右手を見つめていることに気づく。

 なるほど……【追憶の紋章(メメント・モリ)】を見極めようとしているのか。

 本当に風魔法に反応しないのか、その確認だろう。


 だが、そんな思惑など知らないふりをして、俺は無邪気に魔法を唱えた。


『【風槍ヴェント】!』


 対して、レーニスも【そよ風の紋章】を輝かせながら【風槍ヴェント】を放つ。


 二つの【風槍ヴェント】が空中で衝突し――

 当然のように、俺の槍はレーニスの槍に貫かれた。

 それを、【魔纏】を纏った左手で受け止め、相殺する。


「ほぉ……さすが魔力『100』だな。では次は【氷槍グラキア】、その次は【雷槍フルグル】と続けてもらいたい」


 ん? 【雷槍フルグル】?


「あの、【雷槍フルグル】は覚えていないのですが……」


「【雷槍フルグル】を? オーロラ王国出身のメナト君が?」


 ん? オーロラ王国の人は【雷槍フルグル】を使えるというのか?

 そんな俺の疑問を察したのか、ルナリアが口を開いた。


「メナト、まだ知らないかもしれないけど、それぞれの国には基本とされる属性魔法があるの」


 そう前置きしてから、指を折って説明していく。


「例えば、ヘロス王国なら【風槍ヴェント】。

 マルム帝国なら【火槍イグニス】。

 そして、オーロラ王国なら【雷槍フルグル】」


 つまり、出身国によって最初に教えられる魔法が違うというわけか。


 そしてルナリアは、今度は視線をジェイスへと向けた。


「――でも、紋章師なら話は別でしょ? 例えば、ヘロス王国で生まれたとしても【火の紋章】を授かった者は【風槍ヴェント】を扱わない。理由は簡単。火属性の魔法文字を優先して覚えた方が、はるかに効率的だから」


 まぁ、そうだよな。

 特殊な魔法でもない限り、あえて覚える理由はない。


「……そうですね。ではメナト君。【追憶の紋章(メメント・モリ)】のオリジナル魔法を、見せてもらえるかい?」


「はい。レーニスさんに向けて放てばいいですか?」


「うむ。それで構わない。威力はどの程度かい?」


「父の【風迅槍ヴェントス】や、母の【氷迅槍グリシア】には及びません」


「……なるほど。ではレーニスも【風迅槍ヴェントス】で応じてくれ」


 ホークの【風迅槍ヴェントス】なら流石に危険だが、レーニスのものであれば問題ない。

 【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】で威力を削ぎ、さらに【魔纏】を併用すれば、防げるはずだ。


「分かりました。では、早速――」


 俺が詠唱を始めた瞬間、【追憶の紋章(メメント・モリ)】が黒曜石のような輝きを放つ。

 それに呼応するかのように、レーニスの【そよ風の紋章】も、先ほどより一段強い光を帯びた。


『【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】!』

『【風迅槍ヴェントス】!!』


 漆黒の槍と、圧縮された風の槍が正面から激突する。

 ――次の瞬間。


 互いの魔法は拮抗したまま、同時に霧散した。


 ……あれ?


 ホークの【風迅槍ヴェントス】であれば、間違いなく俺の【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】を上回る威力のはずだ。

 となると、これは紋章の格差、か。


「ご、互角!?」


 目を見開くレーニスとは対照的に、ジェイスは腕を組み、苦々しい表情を浮かべていた。


「今の詠唱からするに、その魔法は追加効果などあったりするのかい?」


「はい。目が見えなくなります。【魔纏】で相殺したとしても数秒。体のどこかに刺さりでもすれば、数分は失明します」


「……レーニス、【風槍ヴェント】で威力を軽減させて【魔纏】で受けてくれ」


 命令されたレーニスは頷く。


「じゃあ、行きますよ?」


『【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】!』

『【風槍ヴェント】!』


 漆黒の槍が風の槍を貫き、レーニスの左手に迫る。

 レーニスは【魔纏】で相殺しようとするが――

 浅く左手に突き刺さる。


「うおっ――! 本当に目が……見えない……」


 最初からそういう魔法だと知っていれば、混乱することはない。

 追撃など絶対に来ない状況であればなおさらだ。

 レーニスの視力が回復するのに数分を要した。


 その間、ジェイスは後ろに控える二人の男と話し、レーニスの視力が回復すると、すぐに話しかけてきた。


「他にもオリジナル魔法はあるかい?」


「はい、【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】という魔法が。この魔法は剣に触れると幻覚を見せるというものです」


「飛んだりはしないのかい?」


「飛ばすことは可能ですが、数メートル飛ばすとすぐに消えてしまいます」


「……なるほど。ではそれも見せてくれ」


「分かりました」


 そう言うと、深紅に染まる【追憶の紋章(メメント・モリ)】を目にした全員が、息を呑む。

 だが、そんな反応は意に介さず、俺はそのまま詠唱に入った。


『【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】!』


 この魔法は、ラージャンの民にも何度か見せている。

 今さら隠す必要もない。


「……な、なんだ……その剣は……?」


 声を震わせ、後ずさるレーニス。

 その視線の先で俺の手に現れた剣から血が滴り、床に落ちるたびに蒸発。

 ルナリアも、無言のまま一歩距離を取る。


「触れますか? 何人か、トラウマになっている方もいるので……正直、あまりお勧めはしませんが」


 だが、レーニスは一瞬だけ視線を泳がせた後、虚勢を張るように胸を張った。


「い、いや。私はこれまで、教育係として得体のしれない魔法を数多く受けてきた身だ。どれほどのものか、確かめさせてもらおう」


 ……大丈夫かなぁ。


 【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】を発現させた瞬間の、あの引きつった表情。

 どう見ても、覚悟が決まっている顔ではなかった。


 そんな人が、これに触れたら――

 嫌な予感は、裏切ってくれない。


「ぎゃぁぁぁああああああ!!!!!」


 絶叫が詰所内に叩きつけられた瞬間、空気が一変する。

 悲鳴に引き寄せられるように団員たちが駆け込み、俺を中心に円を描く。


「レ、レーニス様!?」

「い、如何なされたのですか!?」

「まさか……こんな子供が……?」


 一斉に向けられる疑念と警戒の視線。

 正直、胃がきゅっと縮む。


 だが、それを一喝したのはジェイスだった。


「全員、持ち場に戻れ。これは私が命令したことだ。その子に他意はない」


 ……助かった。

 今の流れで弁護がなければ、袋叩きだっただろう。


 やがて、床に崩れていたレーニスが呻き声を上げ、ゆっくりと意識を取り戻す。

 その様子を見届けてから、ジェイスが問いかけた。


「レーニス……どうだった?」


「……はい。これまで、数えきれないほどの魔法を受けてきましたが……この魔法は間違いなく最恐です。二度と……触れたいとは思いません」


「そこまで、か……」


 ジェイスは深く息を吐き、再び渋い表情を浮かべる。

 そして背後に控えていた二人の男へと視線を送り、低声で何事かを話し始めた。


 俺たちをずっと監視していた騎士たちもレーニスを気遣い始め、誰もこちらに注意を向けなくなった、そのときだった。


(メナト、実力を隠せって言ったでしょ!?)


 ルナリアが、怒気を押し殺した小声で俺に詰め寄ってくる。


(大丈夫です。コアの部分は見せてませんから)


 正直に言うべきか迷ったが、彼女は事前に警告してくれた恩人だ。

 これくらいは、打ち明けてもいいだろう。


(えっ……? もっとエグいのが、あるの?)


(ありますよ。とっておきが。ただ、父に使用禁止にされていまして。下手をすると、近くにいる人全員が被害に遭うので)


 一瞬、ルナリアが言葉を失う。


(……メナトって、かわいい顔してるのに、とんでもないイメージが沸くのね。それだけ妄想ができるのであれば、その年で変態さんにもなっちゃうか)


 呆れと苦笑が入り混じった視線を向けてくる。


(へ、変態じゃないですよ。後でちゃんと事情を説明してください。ルナリア様)


 そう告げると、ルナリアはほんの少し、困った表情を見せるのであった。

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