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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第4章 少年期 叙爵と王女様

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第52話 柄はオオカミさんでした

「うわぁ……凄い街だね……」


 ホークとヘルマー伯爵、そして二人の従者と共に、俺は王都ヘリザリムの門をくぐった。


 そこに広がっていたのは、誰もが一度は夢の中で迷い込んだことのあるような、懐かしさを帯びた異郷の街並みだった。


 石畳は長い時を抱き込みながら淡く光を返し、遠くで鳴る鐘の音が、波紋のように重なり合い、街の奥へと溶けていった。


 夜を照らすのは篝火ではなく魔晶灯だ。

 贅を尽くしたそれらが通りの至る所に吊るされ、柔らかな光で街を包みこむのだろう。


 高層の建物は街の中心部にのみ集められ、その中枢区画は、街中にもかかわらず、水が湛えられた堀と、高い壁によって守られていた。

 ラージャンとはまったく趣の異なる、防衛の形だ。


「街の中心部へ入るには許可が要る。もっとも、貴族であれば問題はないがな。論功行賞は三日後、王城で行われる。それまでの間、ホークは私と共に各方面への顔合わせを済ませておくといい」


「ありがとうございます」


「先に言っておくが、迂闊なことは口にするなよ。貴族というものは足の引っ張り合いだ。軍家にも公家にも派閥があり、それぞれが次期王の後継者を担いでいる。どの派閥に入るか、または距離を取るか、見極めておく必要がある」


 うえ……できることなら一生関わり合いたくない世界だ。

 右手で握手しながら、左手にナイフを忍ばせるような連中の中になど、身を置きたくない。


「僕はそういうのは遠慮しておくから、街を散歩しててもいい?」


「うーん……まぁ、いいだろう。ただし、街中で魔法をぶっ放すのは控えろよ?」


 どれだけ俺は信用されていないんだ。

 そんなやり取りを交わしつつ、馬車は街の東側にある宿の前で止まった。


 歴史を感じさせる佇まいの宿だが、館内は隅々まで手入れが行き届いている。

 古き良き時代を、そのまま今に残したような場所だった。


「じゃあ、行ってくるね」


 そう言って荷物を置くと、俺はすぐに宿の外へ出た。

 王都で、どうしても果たさなければならない用事がある。


 ――ステラへの土産を買うことだ。


「お兄ちゃんとお揃いのものがいい」と、あれほど念を押されたのだから、いい加減な物で済ませるわけにはいかない。


 そのための軍資金は、アイシャから預かっている。

 金貨五枚。本来なら子供に持たせてはいけない額だが、ステラを本気で納得させる品を選ぶとなると、少ないより多い方がいい。


 もちろん、高ければいいというわけではない。

 だが、金があれば選択肢は増える。それだけの話だ。


 ただ、店の数があまりにも多く、なかなか決めきれない。

 服や雑貨、魔道具まで一通り見て回ったが、これだというものが見つからなかった。


 ――そもそも、ステラって何が好きなんだろう?


 さすがに七歳でアクセサリーというのも違う気がする……。

 そんなことを考えながら、店をしらみつぶしに巡って歩いているうちに、いつの間にか街の中心部をぐるりと囲む、水をたっぷり湛えた堀の近くまで来てしまっていた。


 さすがは王都だ。

 これだけ歩き回っても、まだ東側の一画しか見ていない。


 このまま別の街区に足を延ばせば、日が暮れるだろう。

 今日はここまでにして宿へ戻るか……そう考え、踵を返した、その時だった。


「あぶなぁぁぁあああい!!!」


 頭上から、甲高い少女の声が降ってくる。


「ん……?」


 反射的に空を見上げると――


 パンツが――

 いや、スカートをはいた女の子が、俺の頭を目がけて落ちてきていた。


 瞬時に【魔纏】を頭部へ集中させる。

 そして――

 見事に、少女のお尻がダイブ。


「うわっ――!?」


 そのまま顔で受け止め、俺は勢いよく地面に倒れ込んだ。


「いててて……だ、大丈夫ですか?」


 【魔纏】のおかげで、ほぼ無傷の俺は、即座に体を起こすと、まだ地面に倒れたままの少女へ手を差し伸べた。


「えっ!? あ、あの……ケガは?」


 まぁ、普通はそう思うよな。

 だが、紋章師で、とっさに【魔纏】を使ったおかげだなんて説明したら、かえって面倒なことになりそうだ。


 咄嗟に、俺は適当な理由を口にする。


「僕、石頭なので……」


 少女は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、それから恐る恐る俺の手を取ろうとした――その時。


「いたぞっ! あそこだ!」

「捕まえろ!」


 背後から、二人の大人の怒鳴り声が響く。

 彼らはまっすぐこちらを指さしていた。


 それを見た瞬間、少女はハッとした顔になり、俺の手から離れる。


「ごめんねっ! でも、受け止めてくれてありがとう!」


 そう言い残すと、少女は追手から逃げるように人波の中へと駆けていった。

 大人たちも、その後を追うように雑踏の中へ消えていく。


 ――なんだったんだ、今のは……?


 それにあの子はどこから落ちてきたんだ?

 そう思って頭上を見上げるが、そこにあるのは高くそびえる城壁だけだ。


 あれは、軽く見積もっても十メートル以上はある。

 あんな高さから落ちれば、普通なら無事では済まない。

 いくら俺の頭がクッションになったとしても、だ。


 だが、少女には怪我らしい怪我は見当たらなかった。

 ということは――魔法師。

 俺と同じように【魔纏】を使ったのだろう。

 じゃなきゃ城壁から飛び降りようと思わないよな。


 年齢も俺より少し上くらいに見えたし、何より手袋をはめていた。

 もしかしたら紋章師という線もあるのか。


 それにしても、どうして彼女は追われていたのだろうか。

 追っていた連中が少しでも怪しければ止めることも考えたが、どう見ても身分のある大人たちだった。


 しかも、大衆の目がある中でも堂々と追っており、周囲の人々も特に騒ぎ立ててはいない。

 その様子を見る限り、追う側が悪人というわけではなさそうだ。


 とはいえ、あの少女も悪人には見えなかった。

 むしろ、服装や佇まいからして、かなり高い身分の者のように思えた。


 ――だからこそ、余計に分からない。


 ひとまず、この件は帰ってからホークやヘルマー伯爵に訊いてみるとしよう。

 そう考え、俺は宿へと足を向けた。

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします!

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