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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第4章 少年期 叙爵と王女様

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第51話 出発

 伯爵の葬儀から一週間後――


 俺は、いつもの丘で元帝国の紋章師パルブと向かい合っていた。


『【火迅槍イグリス】!!』


 【小火の紋章】が赤く輝き、激しい炎をまとった槍が俺へと放たれる。

 対する俺は――


『【紅ノ閃光ハ奔ル(クリムゾン・エッジ)】!』


 深紅の斬撃を飛ばすと、パルブの炎の槍を真っ二つに斬り裂く。

 斬撃はそのまま、空の彼方へと消えていった。


「……マジかよ……その威力で【火迅槍イグリス】と同じ消費魔力『5』はおかしいだろ? これじゃあ俺が、ただの魔法師みたいじゃねぇか……なぁ? 団長?」


 パルブはそう言って、自分のボス――ホークへと視線を向ける。


「見た感じ、俺の【風迅槍ヴェントス】より威力は高そうだ。気を落とすな、パルブ」


 団長と呼ばれたホークは苦笑を浮かべながらも、【紅ノ閃光ハ奔ル(クリムゾン・エッジ)】の軌跡を目で追っていた。


 実は伯爵の葬儀が終わった翌日、パルブは突然俺たちの家を訪ねてきて、入団を申し出たのだ。

 こちらとしても、彼は願ってもない戦力だし、情に厚い人物だということも分かっている。二つ返事で了承すると、彼はヨーダと共に離れに住むことになった。


「でも、【紅ノ閃光ハ奔ル(クリムゾン・エッジ)】は【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】じゃないと発現しないのが弱点なんだよなぁ……【風斬ヴェント・スラッシュ】の方が汎用性は高いし……」


「……そうだな。なら、これからも剣の訓練は怠るな」


 今度はヨーダが会話に加わる。

 だが、その視線はこちらには向かず、少し離れた三人を見ていた。


 その三人というのは――

 ステラ、イヴァン、エヴァン。

 三人はヨーダ指導の下、木剣を無心に振るっている。


 実は双子とその両親であるディノスとメルも、ホークが雇うことにしたのだ。

 さらに、ペッパの面倒を見ると言った手前、彼も一緒に雇うことになった。


 とはいえ、この五人は基本的に戦闘要員ではない。

 役割はエーテル栽培だ。

 ただ、まだ耕作地がないため、現在はこうして偵察任務に帯同している。


 先日の大勝利を考えれば、帝国がすぐに攻めてくるとは思えない。

 だが、念には念をとのことで、現ヘルマー伯爵のウルバンが俺たちを雇っているのだ。


 なお、ディノスとメルはペッパと、少し離れた場所へ薬草摘みに向かっていた。

 その上空にはウィンが飛んでいるので、奇襲の心配はない。


 ちなみに給金は、パルブが金貨三枚。

 ディノス一家とペッパの五人には、まとめて金貨五枚だ。


 相場から見れば、紋章師であるパルブに対しては破格に安く、

 逆にディノス一家に対しては、かなり高い待遇になる。


 紋章師ともなれば、本来は最低でも金貨五枚が相場だ。実際、他の傭兵団からももっと高値でスカウトはあったらしい。それでもパルブは【曙光の鷹】を選んだ。

 ヘルマー伯爵からは、金貨十五枚を提示されたとも聞いている。


 条件の良いところを選ばなかった理由は、ヘルマー伯爵家に雇われてラージャンに留まれば、ジハルドの兵と戦う可能性が高まるからだ。

 それに、彼は自分がエースになるという立場も好まなかったらしい。

 誰かの下につきたい。そんな思いが、言葉の端々から見え隠れしていた。


 一方のディノスは、収入が倍以上になったことを素直に喜んでいた。

 ペッパを養ったとしても十分に余るらしく、顔をほころばせている。

 まぁペッパに関しては、ホークとアイシャも目を掛けているから、大人みんなで育てているといった感じだ。


 双子も、両親が危険な仕事に出なくて済むと知って大喜び。

 最近では、あれほど避けていた傭兵ごっこにまで参加するようになっている。



 ラージャンの街に戻ると、門兵に呼び止められた。


「ホーク殿。戻られ次第、メナトと共に屋敷へ来てほしいと、ヘルマー伯爵からの伝言です」


「分かりました。すぐに伺います」


 俺はホークに連れられ、ヘルマー伯爵の屋敷へ向かった。

 通されたのは、いつもの執務室だ。

 室内には、先代ヘルマー伯爵が使用していた赤銅盾が、壁に飾られている。


「ホーク、メナト。よく来てくれた。偵察の結果、異常はなかったか?」


「はい。だいぶ帝国の戦力は削れました。数年は大丈夫かと」


 捕虜にした帝国兵たちも、すべて王国側についた。

 彼らは上からの命令で戦っていただけで、好んで侵略をしていたわけではない。

 もちろん中には例外もいたが、そういう輩は有無を言わさず即刻斬首している。


「そうか……では本題に入ろう。明後日、王都ヘリザリムへ向かうことになった。だが、私と【曙光の鷹】が全員不在となれば、住民に不安を与えてしまう。そこで同行する者を絞りたいのだが、構わないか?」


「……はい。従います」


「では、【曙光の鷹】からはホークとメナト、二人だけで頼む。二人は今回の論功行賞の対象者だからな。私も近衛を最小限にするつもりだ。往復の警備で負担をかけることになるが、いいか?」


「承知しました」


 確かに、まだ前回の戦いから一か月も経っていない。

 この状況で、領主であるヘルマー伯爵と俺たちが同時に街を離れるのは得策ではない。


 ――ただ、それを許さない者がいた。


「やだ! 絶対に私も一緒に行くの!!!」


 家に戻り、伯爵からの話を皆に伝えた途端、

 普段は温厚なステラが、みるみる顔色を変えた。


「ステラ、お父さんを困らせないで。お母さんとステラはお留守番よ」


「じゃあお兄ちゃんも残ってよ!!!」


「メナトは命令だから行かなきゃならないの……遊びに行くわけじゃないのよ?」


 アイシャの言葉にホークも続き、ステラを諭す。


「ステラ、イヴァンやエヴァン、ペッパもいるじゃないか? なるべく早く帰ってくるから少し我慢してくれ」


 それでも、ステラはどうしても俺と離れるのが嫌らしい。

 だが、この押し問答を続けても、互いに疲れるだけだ。


「ステラ。次は一緒に行こう。でも、今回は登城命令が出ているんだ。僕は行かなくちゃいけない。だからステラは、お母さんたちと一緒にこの街を護ってほしい」


 そう言って妹を抱き寄せ、背中を優しくトントンと叩く。


「……嫌だよ……私、ずっとお兄ちゃんと一緒だったのに……離れたくない……」


「うん、ずっと一緒だよ。だから、これも今生の別れじゃない。ほんの少しの間だけだ……ね?」


「……分かったよ。じゃあ行くまではずっと一緒だからね! 帰って来てからもずっと一緒なんだからね!」


 ――今までも十分一緒だったはずなのに、

 これ以上どうやって一緒にいるんだ?


 そんなことを考えながら、俺は出発の日を迎えた。

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