表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第3章 少年期 ラージャン攻防戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/102

第50話 戦いの終わり

「……うう、頭痛い……」


 気が付けば、いつものベッドで、いつものようにステラと抱き合うようにして眠っていた。


 いつもと違うのは、酷い頭痛と吐き気だ。

 これが二日酔いってやつか……。

 仕方なかったこととは言え、もう酒は飲みたくない。


 ふらふらとしながらリビングへ向かうと、そこにはホークとアイシャ、そしてヨーダの三人がいた。


「おはよう……」


「おはよう、メナト。大丈夫か? まだ寝てていいぞ?」

「メナト? お水飲みなさい?」

「……今日の朝練は免除してやる」


 三人は一斉に振り向き、心配そうな表情を向けてくる。


「うん、ありがとう。ちょっと水を飲むついでに試したいことがあって……」


 そう言うと、俺は皆の前で魔法を唱えた。


『【無毒ノ魔種(スペルマ・サルバス)】!!!』


 現れたエーテルの種は、三十六粒。

 いつもは三十粒しか出せない。それが六粒も増えている。


 一粒で魔力を『5』消費する。

 つまり、魔力が『30』増えた計算だ。

 俺の魔力量は『150』から『180』に上がったことになる。


 その意味を理解したホークたちが、息をのむ。


「まさか……魔力が増えたのか?」


「うん、多分だけど、【盾の紋章】を吸収したからだと思う。伯爵の魔力はいくつくらいか知ってる?」


「昔は『90』だったはずだが……今は『60』くらいだと聞いた覚えがあるな」


 ということは、伯爵の魔力の半分が上乗せされたようなものか。


「それにしても、魔力『180』は過去を遡ってもそうはいないぞ。それを七歳のメナトが……」


 確かに、魔法大国オーロラで宮廷魔法師長官確定と言われていたホークですら『150』。『180』は、やはり異常な数値だ。


 ……まあ、それはさておき。


「ねえ? 昨日、あの後どうなったの?」


「ああ。マヌスはパルブに焼かれ、その場で死亡。残った帝国兵は全員投降した。街への被害もほとんどなく、あるのは帝国兵の死体ばかりだ。近いうちに論功行賞が行われるから、メナトもぜひ出席してほしいとのことだ」


 伯爵の捨て身の突撃がなければ、この街も大きな被害を受けていただろう。


「ねえ? 後で少し外に出てもいいかな? 街の様子を見たくて」


「そうね。じゃあ、お母さんと一緒に行きましょう。まだ動揺している住民もいるだろうから……」


「ありがとう。じゃあ、僕はもう少し寝るよ。おやすみなさい」


 そう言って、俺はステラが眠っている寝室へと向かった。




「おぉ! 【曙光の鷹】だ!」

「街の英雄だ!」

「救ってくれてありがとうな!」


 午後になり、アイシャとステラの二人と一緒に街へ出ると、すれ違う人々から次々と声をかけられ、感謝の言葉を向けられた。

 この街に来たばかりの頃とは、まったく違う反応に少し戸惑ってしまう。


 激戦となった街門付近まで行くと、帝国兵の死体処理はすでに終わったようで、血痕や瓦礫がまだ残る中、騎士団が住民を雇って復興作業に励んでいた。


 と、そこに見知った顔が五つ。

 イヴァンとエヴァン、包帯を巻いた男と女、そしてペッパだ。

 彼らはきょろきょろと周囲を見回し、何かを探している様子だった。


「おはよう、イヴァン、エヴァン」


 ステラが躊躇なく声をかけると、双子は少し気まずそうな表情で答える。


「お、おはよう、ステラ……メナト」

「ふ、二人とも……ごめんな」


 どうやら、マヌスに操られていたときのことを覚えているらしい。


「ううん、あれは仕方ないよ」


 俺がそう言うと、二人はほっとしたように表情を緩めた。


 すると今度は、包帯を巻いた男女がイヴァンとエヴァンの後ろに立ち、深く頭を下げる。


「君たちがメナト君とステラちゃんだね。イヴァンとエヴァンから話は聞いている。二人の父のディノス。そしてこちらが妻のメル。迷惑をかけて本当にすまなかった」


 ディノスが頭を下げると、それに倣うようにメルも頭を下げた。

 ペッパの両親かと思ったが、双子の両親だったらしい。


「いえ、ディノスさんの言葉があったから、あの人形が怪しいと気づけました。こちらこそ、ありがとうございます。皆さんは、何を探しているんですか?」


「え、あ、ああ……ペッパ君が、その人形を探していて……って、その前に、その喋り方。メナト君は本当に七歳でいいんだよね?」


 やばい、少し礼儀正しくしすぎたか。

 もっと純粋無垢な子どもを演じないと。

 そんな俺をさりげなくフォローしてくれたのは、アイシャだった。


「いつも二人がお世話になっております。メナトは少し特殊な子ですので、あまりお気になさらないでください」


「……確かに、七歳で紋章師ですからね。他の子たちとは違うのかもしれません」


 ディノスはそう頷くと、話を元に戻した。


「それで、どうしてペッパの人形を探しているんですか?」


「ん? ああ。ペッパ君は、マヌスに強制的に連れてこられた帝国の孤児なんだ。それで、マヌスが潜んでいたあの人形……実は、ペッパ君がずっと大事にしていたものらしくてね」


 なるほど。

 人形の所有者はペッパだったのか。


「僕、心当たりがあります。多分、あっちの方かと……」


 俺がそう言うと、ペッパがすぐに駆け寄ってくる。


「ほ、本当!? どこ!? 僕のカンタ君、どこ!?」


 あの人形――カンタ君っていうのか。

 それにしても、この子が一番の被害者かもしれないな。

 こんな幼い年で、たった一人、知らない街に連れてこられて……。


 それに、ディノスやメル、双子も本当に人がいい。

 悪いのはすべてマヌスというのは分かっている……分かっていても、人によってはペッパを恨んでもおかしくない状況だろう。


 俺は街の裾野の端から、少し外れた場所へと向かう。

 すると、人形は予想していた場所の近くに落ちていた。


 ただ、マヌスが人形から勢いよく飛び出したせいだろう。

 カンタ君の背中は破れてしまっている。


「あ、あった! カンタ君! ごめんね、一人にして――こんな痛い思いをさせて!!!」


 ペッパは人形を拾い上げると、涙を流しながら優しく抱きしめた。

 孤児のペッパにとって、カンタ君はただの人形ではなく、心の支えだったのだろう。


 この先、ペッパはどうするのだろうか。

 帝国に戻されるのだろうか。

 そんなことを考えた、そのときだった。


 ディノスが、泣きじゃくるペッパの頭を優しく撫でながら、ぽつりと呟く。


「私たちが、この子を引き取ろうと思っています。ペッパ君は、ジハルドに戻ってもあまりいい思い出がないようで……」


 そこまでしてくれるのか。

 きっと、この人たちは困っている人を放っておけないのだろう。


 そんな両親の背中を見て育ったからこそ、イヴァンとエヴァンも、ステラが失明していたときに面倒を見てくれていたのだ。

 この親にしてこの子あり、だな。


 その様子を見ていたステラが、そっとペッパに声をかける。


「ねぇ、ペッパ。カンタ君、痛そうだから縫ってあげようか?」


「……縫う?」


「うん。破れちゃったところを、違う布で縫うの。でも、お裁縫をやったことがないから、上手にできるか分からないけど……」


「本当――!? うん、やってほしい!」


 ペッパは涙を拭うと、さっきまでが嘘のように、ぱっと笑顔になった。


「ディノスさんたちもご一緒にいかがですか? 私たちにはこの街の知り合いも少ないものですし……それに、メナトやステラも喜びますから」


 アイシャがこんな提案をするのは、実に珍しいことだった。

 母自身も自覚しているのだろう。

 自分たちが、この街でどこか浮いた存在であるということを。


 マヌスを討伐した今は別の意味で、浮いているというより、強く注目されているのだが。


 アイシャに誘われ、ディノスとメルは互いに顔を見合わせる。

 誘いを受けるべきか、少し迷っている様子だった。


 しかし、その迷いを断ち切るように、ステラがすでに双子の袖を引っ張っていた。


「イヴァン、エヴァン、お家で一緒に遊ぼう! ペッパも一緒に、五人で遊んだらきっと楽しいよ!」


 その無邪気な言葉に、場の空気が一気に和らぐ。


 こうしてカラス屋敷に、客人が招かれることになった。




 その夜――


 皆で夕食を共にし、ディノス一家とペッパが帰った後のことだった。

 アイシャが、ホークとヨーダに問いかける。


「どうだった? ディノスさんたち」


「ああ、あの人たちなら信用できるな」


「……俺も問題ないと思う」


 何の話をしているんだ?

 そう思ったのが顔に出ていたのか、アイシャが説明してくれた。


「本格的にエーテルの栽培を考えているの。今回の戦いで、酒精の入っていないエーテルポーションは全部使い切ってしまったでしょう? だから、安定して供給できる体制を作りたいと思って……」


 アイシャは一息ついて続ける。


「そのためには人手が必要になる。でも、エーテルは扱いを誤ると危険でしょう? だから、信頼できる人に任せたいと思っていたのよ」


 なるほど。

 ディノスとメルに農業を任せる、という考えか。


「じゃあ、あの二人は適任だと思うよ。イヴァンとエヴァンも、両親には傭兵業を続けてほしくないみたいだから」


 帰るたびに怪我だらけになる仕事を、子どもたちが嫌がっていることを伝える。


「そうか……では、あの件も前向きに検討するか」


「あの件って?」


 俺が聞き返すと、ホークが少し表情を引き締めた。


「さっき、お前たちが外に出ている間に、ウルバン様が従者と一緒に来られてな。論功行賞はここでは行わず、王都で盛大にやると言われた。事前に褒美も告げられた。父さんは叙爵される……それも名誉男爵ではなく、正式な男爵として、だ」


「えっ!? 叙爵!?」


 思わず声が出る。

 ホークはオーロラ王国出身の、元貴族の家系だ。

 そんな人物を他国で叙爵していいのか?


「知っているとは思うが、以前から何度か打診があったのだがな……今回は前向きに考えてみようと思う。ただ、父さんからも条件は出した。かなり厳しい条件だ。それでもウルバン様は問題ないと言われてな……だからそれならと答えた。ただ、本当に要求が通るか分からない。何しろ叙爵するのは国王だからな」


 どんな条件なんだ?

 そう思ったところで、話題は切り替わる。


「それと明日、ヘルマー伯爵の葬礼が行われる。必ず参列するように、とのことだ」


 ついに、ヘルマー伯爵とお別れするときがきたのか。




 ヘルマー伯爵の葬儀の日――


 葬儀は伯爵家の屋敷で、盛大に執り行われた。

 人々が静かに喪に服すものだと思っていたが、実際はその逆だった。

 まるで祝いの席のように酒が振る舞われ、料理も驚くほど豪華だった。


「葬式って……こういうものなの?」


 参列しながらホークにそう尋ねると、彼は苦笑いを浮かべる。


「いや、普通は厳かに喪に服するものだ。ただ、これはヘルマー伯爵の希望らしい。生前から『とにかく酒を飲め、それも旨い酒をな』と、口癖のように言っていたそうだ」


 ……なんて人だ。


 やがて、俺たちが弔問する番が回ってきた。


 数珠を持ち、形式ばった作法で抹香をくべる――

 そんなことはしない。


 棺の中で安らかに眠る伯爵の顔を見つめ、俺はある物をそっと隣に置く。

 エーテルポーションを満タンに詰めた瓢箪瓶だ。


 その後、手袋を外し、手を合わせて、お別れの言葉を述べる。


「伯爵……あなたの想いは、確かに受け継ぎました。そして、ラージャンを護ることもできましたよ。だから――どうか、安らかに」


 【追憶の紋章(メメント・モリ)】が俺の言葉に反応するかのように白く輝く。


「後のことは任せたぞ」

これにて第三章終了となります!


ブクマや★★★★★をいただけると、皆さんが想像する以上に喜びますので、よろしくお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ