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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第3章 少年期 ラージャン攻防戦

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第48話 ラージャン攻防戦――5

「な、なんだ……!? あの巨人は!?」

「で、でかすぎる……十メートル……いや、二十メートル近くあるぞ!」


 マヌスが操る巨人を目にした瞬間、騎士団は一斉に動揺した。

 傭兵たちも、街の住民たちも、恐怖に顔を引きつらせ、身体を震わせている。


 その巨人の肩に、小さな影。

 背丈はせいぜい三十センチほど。

 人形の中に潜んでいた存在――マヌスだ。

 マヌスが両手を細かく動かし、巨人を操っている。


「あ、あれは……小人族パルブスじゃないのか……?」

「まさか……帝国に滅ぼされたって聞いていたぞ……!?」


 小人族パルブス

 そんな種族がいるのか?

 それに、あの巨人はなんだ!?


 混乱する俺に向かって、巨人の肩の上からマヌスが吐き捨てるように叫ぶ。


「どうだ!? 驚いたか!? これが古の時代にこの地を支配していた巨神族タイタンだ! この肉体は腐ることなく、永遠に不滅! まさに俺様が操るに相応しい器!」


 そう言い放つと、マヌスは王国軍と帝国軍が激戦を繰り広げている街門へと巨人を向かわせた。


 次の瞬間――

 巨人の脚が唸りを上げ、街門を蹴り飛ばす。


 瓦礫が雨のように街へと飛び散り、それをヘルマー伯爵が【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】で受け止める。


 だが、瓦礫のすべてを防ぎきることはできず、伯爵と共に前線を張っていた板金鎧を纏った騎士たちが次々と吹き飛ばされた。


 しかし、被害が大きかったのは――俺たち王国側よりも、むしろ帝国側だった。

 巨人を操るマヌスは友軍の位置など一切気にも留めない。

 踏み潰し、蹴散らし、街門を破壊するその一撃一撃に、帝国兵が巻き込まれていく。


「さ、下がれ! 巨人の進路に入るな!」

「ま、マヌス様! 我らがそこにおります!」


 だが、マヌスは意にも介さず、嘲るように叫び返す。


「俺様に指図するな! ちっぽけで脆弱な人間どもは、突撃あるのみだ! 下がった者から、俺様が踏み潰してやる!」


 巨人が踏み潰す仕草を見せ、地面が大きく揺れる。

 帝国兵のうち、半数は玉砕覚悟で突撃に出たようだが、後方にいた魔法師たちを中心に、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う者も現れた。


 一方、俺とホークは街門へと駆ける。

 すでにそこで戦闘を行ってるウルバンが叫ぶ。


「マヌスだ! 魔法師や弓兵は巨人の肩に乗るマヌスを狙え!」


 当然、マヌスを狙う。


『【火槍イグニス】!』

『【氷槍グラキア】!』

『【風槍ヴェント】!』


 次々と放たれる魔法。

 だが、巨人の巨大な手が、それらをまとめて叩き落とした。


「馬鹿か!? 巨神族タイタンの身体にそんなやわな魔法が通じると思ったか!?」


 嘲笑とともに、巨人が街へ侵入しようと足を踏み出す。

 そのまま踏み潰さんとした、まさにその瞬間――


『【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】!!』


 ヘルマー伯爵が半球状の結界を展開する。

 強烈な反発力に弾かれ、巨人の身体が大きくよろめいた。


「お前たち帝国はこの【盾の紋章】が輝く限り、絶対に入らせん!」


 ヘルマー伯爵がエーテルポーションを豪快に飲みながら、叫ぶと――


「何をッ!? 老将が! 生意気なんだよぉ!!!」


 マヌスが両手を勢いよく振り下ろす。

 それに呼応するように、巨人の脚が持ち上がり、ヘルマー伯爵めがけて叩き落とされた。


 同時に、ガラスが砕け散るような甲高い音が響き、【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】が砕け散る。


 だが、それでも完全には通さない。

 反発を受けた巨人の脚もまた弾かれ、巨体が大きくたたらを踏んだ。


「伯爵!」


 その瞬間、俺たちも街門――いや、街門があった場所へと辿り着く。

 同時に、アイシャとヨーダ、ステラ、そしてパルブも合流した。


「お前たちが頼りだ!」


 伯爵は荒い息を吐きながらも、声を張り上げる。


「各自、できる限り散開しろ! 一方向から狙っても、あの手で防がれるだけだ! 様々な角度からマヌスを狙え! できれば強力な魔法を頼む!」


「承知しました! メナトとステラ、ヨーダは街門正面! 俺とアイシャは右方向からだ! ただ、あまり遠くなるなよ! 伯爵、カイサたち傭兵は左からお願いします!」


 さらにアイシャが続ける。


「マヌスの手の動きを見る限り、巨人を操るので手いっぱいみたい。友軍を操る余裕はなさそうよ。なら、少しは大胆に動いてもいいわ!」


 確かに。

 マヌスは両手を広げ、常に巨人の動きに集中している。いかに紋章の力があろうと、あの質量を片手で制御するのは無理なのだろう。

 他の者を操る余裕なんてあるわけがない。


 ――なら、今が好機。

 最初に詠唱を始めたのは、アイシャだった。


『凍てよ、大地。沈めよ、蒼天。我が心、無に帰し、静寂の槍を放たん。一閃の凍光、万象を穿て――』


 水の紋章が、これまでに見たことがないほど強く、深く輝く。

 水魔法の中でも、汎用性と威力を極限まで高めた高位魔法。

 普通の魔法師なら、一発放てば魔力が枯渇する代物だ。


『【氷閃迅槍グレイス】!!!』


 閃光と見紛うほどの速度で、巨大な氷槍がマヌスへと放たれる。


「なっ――!?」


 マヌスは咄嗟に巨人の手を盾にする。

 だが、氷槍はその掌を貫き、深々と突き刺さった。

 衝撃に耐えきれず、巨人の巨体が後方へと押し戻される。


 そこへ、ホークが追い打ちをかけた。


『天翔ける風よ、我が名に応えよ。閃き、駆け、斬り裂け。この身をも貫く疾風の矛となり、万象を穿て――【風閃迅槍ヴェレイス】』


 今度は、暴風を纏った風の巨槍。

 氷槍と同等、いやそれ以上の破壊力を孕んだ一撃が叩き込まれる。


 巨人の手に突き刺さりながらも、暴風は収まらず、

 マヌスの身体を巨人の肩から吹き飛ばした。


 が、マヌスは宙で糸を引き、まるで当然のように元の位置へと戻る。


 俺も、ウルバン、カイサ、騎士団の魔法師たちと共に魔法を放つ。

 マヌスに直撃すれば、確かにダメージは通る。

 だが、巨人の前では、俺たちの攻撃はあまりにも小さい。


 それでも少しでも意識をこちらに向けさせるため、

 少しでも隙を作るため、ひたすら魔法を撃ち続けるしかなかった。


 ただ、マヌスにとっては相当に腹立たしい状況らしい。


「クソッ! 集まらなければ何もできない人間どもめッ! 蹴散らしてくれる!」


 怒声と共に、巨人の巨腕が振るわれ、巨足が地面を抉るように蹴り、土煙と共に瓦礫や土がとんでもない勢いで飛んでくる。


 俺たちはヘルマー伯爵の【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】に守られている。

 だが、帝国兵にとっては、もはや地獄そのものだった。


「も、もう無理だ……!」

「王国にやられるより、マヌス様に殺されてる数の方が多いぞ!」

「た、退散だぁ!!」


 隊形も誇りもかなぐり捨て、帝国兵たちは我先にと逃げ出す。


 俺たちは敢えて追わない。

 今、狙うべきはただ一人――マヌスだけだ。

 しかし、その瞬間だった。


「……ごほっ! ごほっ!」


 【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】を張り続けていたヘルマー伯爵が、

 大きく体を折り、血を吐いた。


「伯爵ッ! だ、大丈夫ですか!?」


「問題ない……! お前たちは……マヌスを――!」


 そう言いながら、伯爵は腰に下げた瓢箪瓶を掴み、

 枯渇した魔力を補給すべく、中身を一気に煽る。


 だが――


「っ……!」


 伯爵の身体は、もはやエーテルポーションすら受け付けなかった。

 激しい吐血と共に、酒が地面へと零れ落ちる。


 その光景を見た瞬間、帝国兵たちの目の色が、はっきりと変わった。


「お、おい……ヘルマー伯爵が限界だ!」

「今だ! 【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】さえ消えれば――」

「マヌス様の巨人が、街ごと蹂躙してくれるぞ!」


 つい先ほどまで逃げ惑っていた帝国兵たちが、

 まるで獣のような勢いで反転する。


 恐怖から解放されたのではない。

 恐怖の矛先が、再びこちらへ向いただけだ。


 彼らは、最後の力を振り絞り、俺たちへと再び牙を剥いた。


「父上! 一度撤退を! 高所に戻れば、まだ挽回のチャンスがあるはずです!」


 ウルバンの叫びに、ヘルマー伯爵は首を横に振った。


「……無理だ。あの巨人がいる限り、退けば街は踏み潰される。ならばここで止める。この街の主として、それ以外の選択肢はない」


「しかし! 父上が――ッ!」


 ウルバンの言葉を遮るように、ヘルマー伯爵は左手に構えていた赤銅盾を、迷いなく投げた。


「受け取れ、ウルバン」


 鈍い音を立て、赤銅盾が息子の腕に収まる。


「今、この瞬間をもって――お前が総大将だ」


「父上……!」


 次いで伯爵は、ゆっくりと視線を巡らせ――

 俺の胸元で淡く輝く赤銅盾勲章に目を留める。


 そして、はっきりと俺を見据え、かつてないほど穏やかな笑みを浮かべた。


「メナト……その赤銅盾勲章、よく似合っている」


 まるで、未来を託すかのように。


「後は――お前たちに、頼む」


 そう言い終えると同時に、ヘルマー伯爵はゆっくりと、両手を掲げた。


「この街は――我が命をかけても守り抜く! マヌス! お前ら帝国の好きなようにはさせん!」


 巨人の肩に乗るマヌスを睨み、伯爵が詠唱を始める。


『我が命、魔力に変じ、盾となる。血は壁となり、魂は門となれ。我が死を越え、皆を護れ――』


 その瞬間――

 【盾の紋章】が、今までとは比べものにならないほどの輝きを放つ。

 その輝きは命そのものが燃え上がる灯火だった。


 同時に、【追憶の紋章(メメント・モリ)】が、まるで応えるかのように光を放つ。


 もしかして――

 そう思った瞬間、伯爵の最後の言葉が言い放たれた。


『【終護ノ命盾(モルス・アエギス)】】!!!』


 詠唱の最後の言葉と共に、伯爵の胸から光が溢れ出す。

 その光は盾を象り、ラージャンの裾野を覆う。


 その中心に立つ伯爵は、

 掲げた両手を下ろすことなく、

 膝を折ることもなく、

 両足で大地を踏みしめたまま動くことはなかった。


 さらに、伯爵の右手に宿っていた【盾の紋章】が輝きを保ちながら剥がれる。

 それはかつての【草の紋章】と同じようにゆっくりと宙を漂い、俺の前に辿り着くと――


 俺が――

 【追憶の紋章(メメント・モリ)】が――

 ヘルマー伯爵の想いを確かに受け取った。


 

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