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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第3章 少年期 ラージャン攻防戦

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第47話 ラージャン攻防戦――4

 クソッ――。

 あのとき、ペッパの体から淡い紋章の光が漏れていると思ったが……違う。

 光っていたのは、人形の方だったのか!


 ステラと二人、双子を探しながら裾野へと駆け下りつつ、俺は必死に思考を巡らせる。


 もし、マヌスが人形に化けている、あるいは人形そのものがマヌスだとしたら。

 これまでの不可解な出来事は、すべて辻褄が合う。


 丘が見渡せる場所で、双子と一緒にサンセーラを摘んでいたのも、双子のためじゃない。あの場所から、偵察に来た傭兵たちを操るためだったのだ。


 そこで祟り騒動を起こし、それを街にまで広げる。

 そして、いつまでも解決できない伯爵家に不信と憎悪を向けさせ、混乱に乗じてラージャンを落とす。


 密かに出回っていた

『領主や騎士団が動かないのは無能だ』

 という内容の羊皮紙も、きっとマヌスの仕業だろう。


 と、そのとき。

 後ろを走っていたステラが、息を切らしながら俺の袖を引いた。


「お、お兄ちゃん……あそこ……下の端っこの方……」


 妹が指さす先を見ると、街の裾野の端に人形を抱えたイヴァンの姿があった。

 そのすぐ隣には、エヴァンも立っている。


「ステラ、ちょうど通り道にお父さんとお母さんがいる。ステラは二人と一緒にいてくれ! 僕は話してくる!」


 そう言ったものの、妹を置き去りにするわけにはいかない。

 俺はステラの手を引き、確実に二人の元へと送り届ける。


 すると――


「メナト、父さんも一緒に行く! 母さんはステラを頼む!」


 そう言って、ホークが俺の隣に並ぶ。


 俺とホークは二人で、裾野の端を目指して駆け出した。


 街の入り口では、ヘルマー伯爵が赤銅盾と【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】を構え、帝国兵を押し返している。


 時折、操られた者たちが伯爵に襲いかかろうとするが、そのたびに近衛たちが必死に制止していた。


 そして、ついに二人がいる場所へ辿り着く。


「はぁ……はぁ……イヴァン。その人形……ちょっと貸してくれないかな?」


 【魔纏】を巡らせていたとはいえ、走り続けていた体は限界に近い。

 息が上がり、肺が焼けつくようだった。


「ど、どうしたの? そんな……怖い顔して……」


 イヴァンは人形を胸に抱いたまま、一歩、また一歩と後ずさる。

 それを庇うように、エヴァンが前に出ようとするが――ホークが静かに制した。


「その人形……ペッパのものだろう? 少し見せてもらいたいだけだ」


 俺がそう告げ、距離を詰めようとした、その瞬間――

 人形の右手が、ほんのわずかに光を放つ。


 そして聞こえてきたのは、低く、重たい声。

 人形とは到底釣り合わない、不気味な詠唱だった。


『我が声を聞け、揺らぐ魂よ。意志は絡まり、選択は沈む。拒む心を眠りへ誘い、残るは動きのみ。我は王にあらず、ただ糸を引く者なり――』


 まずい――!


 イヴァンが抱えている以上、人形を攻撃することはできない。

 一瞬の躊躇。


 その隙を突くように、人形の周囲に限りなく無色で透明な魔法文字が浮かび上がる。


『【傀儡ノ律(マリオネット・コード)】!!!』


 ――っ!?


 体が、重い。

 鉛を流し込まれたかのように、四肢が言うことをきかない。


 この感覚……丘で、ペッパたちを見つけたときと同じような感覚。

 だが、強度は段違い!

 マヌスが――俺を操ろうとしている!?


「メナト!? 【魔纏】だ! 魔力を巡らせろ!」


 暴れるエヴァンを傷つけないように抑えながら叫ぶホーク。

 言葉と同時に、咄嗟に体内へ魔力を巡らせる。

 すると、抵抗するように重圧が弾け、体が一気に軽くなった。


「チッ……この距離で動きを封じることすらできないとは。なんて魔力だ……」


 その声は、確かに――

 イヴァンの腕の中にある人形から発せられている。


「お前が……マヌスか!?」


「貴様のようなチビに、俺様がお前呼ばわりされる筋合いはない!」


 ……相当、プライドが高いらしい。

 なら、そこを突く。


「誰かの陰に隠れてしか物が言えないくせに、俺様だなんて滑稽だな。恥ずかしくないのか? 子供に守られている分際で!」


「なっ――!? 俺様を侮辱するとは……ッ!」


 図星だったのだろう。

 怒りに任せるように、人形はイヴァンの腕から飛び降りた。

 ――そして、宙に浮く。


 ……マジか。

 驚いたのは浮遊したことだけじゃない。

 人形が、本当にマヌスだったという事実だ。


 だが、よく見ると違和感がある。

 人形の表面には紋章がない。


 その代わり、内部から淡い光が漏れている。

 まるで、中に何者かがいるように。


 ただ、イヴァンから離れてくれればこっちのターン!

 ホークがイヴァンとエヴァンの二人を抑え込んでいる間に、詠唱を紡ぐ。


『我に埋みし黒き涙よ、光を飲みこむ槍となりて、敵を穿て――【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】!』


 漆黒の毒槍が人形めがけて放たれる。

 しかし、マヌスは宙を自在に駆け、毒槍をあっさりと躱した。


「くそッ……!」


 的が小さすぎる。

 それ以前に、まるで当たる気がしない。


 よく見れば、人形の動きは不自然だ。

 何かに引かれ、吊られているような――


「……糸か」


 人を操る糸。

 それを空中に張り巡らせ、自在に移動しているのだろう。

 軽くて小さいからこそできる芸当だ。


 だったら――


『流れし血は悔恨となり、魂は鉄へと変ず。我に刻まれし咎人の剣よ、顕現せよ――【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】!』


 その糸ごと斬ってやる!

 が、マヌスは余裕の表情。


「俺様の【傀儡ノ律(マリオネット・コード)】が、剣で斬れるわけが――」


 その言葉が終わるより早く、一閃。

 【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】が宙を裂いた瞬間、マヌスの動きが、明らかに乱れる。


「なっ――!? き、斬りやがっただとッ!? どんな業物でも断てないはずの俺様の【傀儡ノ律(マリオネット・コード)】を!?」


 イヴァンとエヴァンを抑え込んでいたホークが、声を張り上げた。


「いいぞ! イヴァンが暴れなくなった! そのまま剣を振り続けろ! エヴァンを操っている糸も、いずれ斬れるはずだ!」


 確かに!

 無差別にでも剣を振るい続ければ、マヌスが張り巡らせた糸はすべて断てる。

 そう確信した、その瞬間だった。


「やはり天才の俺様が思った通り、あれを先に準備しておいてよかったぜ!」


 マヌスが不敵に笑い、街の外へ向けて【傀儡ノ律(マリオネット・コード)】を放つ。


 ほぼ同時に、上空から偵察していたウィンの報告を受け、ホークが叫んだ。


「街の外だ! 何か……とてつもなく巨大な物が運び込まれている! まさか、マヌスは――!」


 その言葉が終わる前――

 ラージャンの街の外で、巨大な人型の影が、ゆっくりと起き上がった。


 圧倒的な質量。

 壁越しでも分かる異様な存在感。


 そしてマヌスは、まるで最初からそこに帰る場所が決まっていたかのように、

 人形から抜け出し、巨人の肩へと吸い込まれるように飛び去っていったのだった。

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