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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第3章 少年期 ラージャン攻防戦

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第45話 ラージャン攻防戦――2

「魔法師は、とにかく【火槍イグニス】を街中に放て!」


 前進しながら帝国兵が叫ぶと、帝国魔法師たちは騎士や傭兵ではなく、街そのものを狙って魔法を放ってきた。


 だが、それはすでに想定済みだ。


 昨日のうちから、アイシャを中心とした水魔法師たちが街中を回り、桶という桶に水を張り、建物にも十分な水分を含ませてある。


 とはいえ、だからといって【火槍イグニス】を素通りさせるわけにはいかない。

 【魔纏】で魔法を相殺し、こちらの魔力消費を最小限に抑えつつ、相手の魔力だけを削っていく。


 そんな中、俺は【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】を次々と帝国兵に命中させていた。


 失明し、絶叫する仲間の声は、帝国側の士気を確実に削る。

 同時に、こちらから見れば苦しんでいるのは帝国だという構図が一目で分かる。


 そんな状況にしびれを切らした帝国のターゲットは俺へと向いた。


「おい! あいつだ!」

「あいつが目を潰してるぞ!」

「ちっこいガキだと!?」

「魔法師は、あいつを狙え!」


 そう帝国兵が叫ぶと、自然と帝国魔法師たちは前へ出てくる。

 それに押される形で、その前にいた帝国兵、さらには最前列の板金鎧を纏った兵たちまで前進せざるを得なくなった。


 結果として、帝国軍は無理な前進を強いられる。


 一方、俺は街中で【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】を振り回すほど愚かではない。

 ゆっくりと後退しながら【魔纏】で帝国魔法師の魔法を相殺する。

 ホークとアイシャも近くで同じように相殺を続けてくれていた。


 これをやる理由は二つある。


 一つは、帝国魔法師の【火槍イグニス】を一点に集中させるためだ。

 事前に建物へ水分を含ませ、桶にも水を張ってはいるが、それでも火を完全に防げるわけではない。

 だからこそ、こうして俺たちに魔法を集めている。


 そしてもう一つ――これが最も重要な理由だが、

 帝国の……いや、マヌスの注意を、俺たちに向けさせるため。


 こいつらがいる限り、街は落とせない


 そう思わせれば、必ずマヌスは動く。

 そう踏んで、あえて目立つ行動を取っている。


 こちらとしても、この戦いに勝ったとして、マヌスを取り逃がせば本当の勝利とは言えない。

 懐に潜られたままでは意味がないのだ。


 それが功を奏したかどうかは分からない。

 だが、その直後――騎士団の一人が、明らかに異常な行動に出た。


 前線に設置されていたバリケードを、突然破壊し始めたのだ。


「お父さん! ペッパはいる!?」


 飛んでくる魔法を【魔纏】で相殺しながら、ホークがウィンに指示を飛ばす。


「上空からは見えない。もしかしたら、軒下や建物の陰にいるのかもしれない」


 ここは見晴らしのいい丘の上ではない。

 市街地だ。

 潜める場所はいくらでもあった。


「じゃあ、僕は探しに行くから離れるけど大丈夫!?」


「ああ、まだ余裕はある。それに――分かってるな_」


 ホークが視線で合図を送ってくる。

 そうだ。俺たちには、本当に万が一の事態に備えた最後の手段がある。


「うん! じゃあ行くよ! ステラ、ヨーダ、そして――」


 ステラとヨーダに視線を送り、最後にもう一人の紋章師を見据える。


「パルブ!」


 帝国出身で【小火の紋章】を宿す男、パルブ。

 かつて第一陣として俺たちに宣戦布告してきた人物だ。


 伯爵やウルバンは、彼を味方に引き入れようと何度も説得したらしい。

 だが、パルブが首を縦に振ることは決してなかった。


 ジハルドで共に過ごした者たちと戦うくらいなら、死んだ方がましだ。

 そう言い切ったという。


 ただし、マヌスだけは別だった。

 いや、マヌスだけは自分の手で討ち取りたい――

 せめて一太刀でも浴びせたいと、パルブは自ら志願してきたのだ。

 

 その理由は明白だった。


 丘の上の戦いで、マヌスが部下を操った結果、パルブは仲間だった者に、自らとどめを刺さなければならなかったからだ。


 口は軽いが、義理堅いところもある男なのだと、少しだけパルブを見直した。


「パルブ、人形を持った子を探すんだよ!」


「分かってる。メナトも眼帯の男がいるかもしれないから見逃すなよ!?」


 四人で固まったまま、街中を駆ける。

 すると、ほどなくして――


「お兄ちゃん! イヴァンとエヴァンがいるよ!?」


 ステラが街の中腹を指さす。

 視線を向けると、そこにいたのは双子の姿だった。

 だが、イヴァンの手には、いつもペッパが抱えているあの男の子の人形がある。


「イヴァン! エヴァン! ペッパを……ペッパを見なかった!?」


 答えたのは、兄のイヴァンだった。


「どうしたの? そんなに慌てて」


「うん、ちょっとペッパと話がしたくてさ!」


 俺の焦りとは対照的に、イヴァンは不気味なほどいつも通りの様子だ。


「さっき、この人形を僕に預けて、街の上の方に向かったよ」


 街の上――!

 それはつまり、ヘルマー伯爵の屋敷付近だ。


 あそこには一応、魔法師も配置されている。

 だが、魔法師だからと言って安全ではない!


「ありがとう! ここは危ないから、街の隅に避難した方がいい!」


 そう告げて、俺たちはヘルマー伯爵邸へと走り出す。


 だが、次第にステラの息が上がってくる。

 俺は魔力を巡らせながら走っているため体力の消耗は少ないが、妹はまだ魔力を授かっていない。


 そこでヨーダがステラを担ぎ上げる。

 揺れの中で息を整えながら、ステラがぽつりと呟いた。


「ねぇ、お兄ちゃん……エヴァン、どうして何も喋らなかったのかな……?」


「どうしてって……僕が急いでいたからじゃないかな?」


 俺の答えに、妹はどこか納得がいっていない様子だった。

 だが、それ以上は何も言わず、乱れた呼吸を整えることに集中する。


 そして――

 ヘルマー伯爵の屋敷の近くへ辿り着いた、その時だった。


 そこにいたのは、以前ペッパと一緒にいたあの男。

 そして、どこかで見覚えのある女。


 さらに――

 ペッパの手に握られていたのは、人形ではない。


 短刀だった。

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