表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第3章 少年期 ラージャン攻防戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/102

第43話 決戦前日

 三日後――


 それは、偵察任務を行っていたときのことだった。

 ホークがウィンとの視界を共有しながら叫ぶ。


「まずい……まずいぞ! 帝国兵が出陣した! それに……大きな台車で何かを運んでいる……! 布で覆われていてよく分からないが、かなりの重量だ。何十人もの兵がかりで台車を押している!」


 エーテルポーションを飲みながらの索敵なので、酔いも回っていつもよりかは興奮している。

 にしても、なんてタイミングだ。

 いや、違う。帝国側は最初からこのつもりだったのだろう。


 まずは紋章師パルブを使ってこちらの注意を引き、その隙にマヌスを街へ潜り込ませる。そして準備が整ったら合図を送り、侵攻を開始する。


 数日前、俺たちが家に帰ったあとに夜空へ打ち上げられた火魔法。

 一直線に空へ昇り、炎の残滓を残して消えたあの光は、きっと帝国領からも見えていたに違いない。

 あれが、侵攻開始の合図だったのだ。


「数も……千は軽く超えている。さすがに籠城戦に持ち込まなければ厳しいだろうが……」


 だが、街の中にはマヌスが潜んでいる。

 籠城したところで疑心暗鬼が蔓延し、内部から崩れるのは時間の問題だろう。


「伯爵は、王様に援軍要請は出しているんでしょ!?」


 思わず声を荒げる俺に、ホークが苦い表情で頷く。


「ああ……だが、王国騎士団の行軍速度は遅い。当然だが、兵数が多くなればなるほど兵糧の準備にも時間がかかる。それにそれだけの兵士を一時的にでも収容できる準備が必要だ。すぐには動けない」


「でも、籠城して耐えれば、王国騎士団が帝国軍を背後から挟撃してくれるんだよね!?」


「そうだな……耐えることができれば……の話だが」


 守勢に回ると、どうしてもこうなるのか……。

 本来であれば、敵を削りながら後退するのが理想だろう。

 だが、ホークはエーテルポーションを飲みすぎており、酔いが回ってしまっている。


 こちらの要であるホークがこの状態では、冷静な判断が下せない可能性もある。

 そのため俺たちは、まず帝国に動きがあったことを伝えるべく、ヘルマー伯爵への報告を最優先とした。




 ――しかし。

 ヘルマー伯爵邸で俺たちが通されたのは、いつもの執務室ではなく、御寝所だった。


 部屋の中には、白衣を着た医師と思しき者が三人と、嫡子であるウルバン。

 そして、ベッドに横たわり、目を閉じたままのヘルマー伯爵の姿があった。


「すまない。父上の容態が昨日から急激に悪化していて、予断を許さぬ状況だ」


 俺たちが入室したことに気づいたウルバンが、うつむきながらそう告げる。

 一見すると、伯爵は普段と変わらぬ穏やかな表情で眠っているようにも見えた。


 だが、以前から伯爵を知るホークには、違って見えたようで――


「……かなり悪いようですね。この前の戦で、自慢の赤銅盾を持っていなかったので、そう感じていました」


 父は、ベッド脇に置かれ、丁寧に手入れされた赤銅盾へ視線を落としながら呟く。この赤銅は手入れをしないと、紫黒色に変色してしまうので、俺の胸に輝く徽章も毎日のように磨いている。


「……もう、持つことすらできぬほど衰えてしまったのだ。体も、ずいぶん小さくなったのが分かるだろう? 昔は、左手に赤銅盾を構え、右手で【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】を唱え、先陣を切っていたものだがな」


 今の俺からすれば、ヘルマー伯爵は十分に背の高い人物に見える。

 だが、昔を知る者たちにとっては、小さくなってしまったのだろう。


「で? どうした? 用があって来たのだろう?」


「ウルバン様にお伝えしなければならないことがあります。場所を変えてもよろしいでしょうか」


 病人に聞かせる内容ではない。

 執務室へ場所を移し、帝国軍がジハルドを出発したことをホークが告げると、ウルバンは思わず頭を抱えた。


「クソッ――! マヌスは、ここまで読んでいたというのか!」


 俺と同じ思いを吐き捨てるウルバン。

 だが、今は怒りをぶつけている場合ではない。


「ウルバン様。ヘルマー伯爵が伏している今、指揮を執られるのは貴方様しかおりません。騎士団だけでなく、我々傭兵団への依頼についても、決裁を下す立場にあります。帝国軍の兵数と輸送物資の規模を考えれば、今日中にここへ到達することはないでしょう。残された時間は明日までです。何を為すべきか、騎士団長や近衛と十分に協議されることを、具申いたします」


 さすが酔いの醒めたホーク。

 ウルバンも父の言葉に耳を傾け、すぐに行動に移す。


「分かった。ではまずホーク、万全の状態で明日に備えてくれ。ラージャンの街には【曙光の鷹】のほかにも、もう一つ【血の十字旗】という傭兵団がある。魔剣士カイサを団長とした、信頼のおける連中だ。今すぐ招集するから待っていてくれ」


 ウルバンはそう言うと従者を呼び、カイサのもとへ遣わした。

 それから二十分ほどして、バンダナのような布を頭に巻き、腰に剣を提げた男が執務室へ入ってくる。


「ウルバン様。至急とのことで参りましたが……如何なされました?」


「カイサ。ジハルドから帝国兵が出撃したとの報告が入った。【血の十字旗】には、騎士団の指揮下に入り、主力として迎撃任務に当たってもらいたい」


「それは光栄なお言葉。謹んでお受けいたします……が、そこにいるのは、噂の【曙光の鷹】団長・ホーク殿ですか?」


 そこでカイサは視線を横に走らせ、ホークを見る。

 その視線は、一瞬睨みつけるようにも見えた。

 ウルバンが頷くと、カイサはホークの前へ歩み寄り、右手を差し出す。


「噂は聞いている。次期オーロラ王国宮廷魔法師長官確実と言われるほどの実力なんだってな」


 ホークはその手をしっかりと握り返した。


「……亡国だ。だが、このままで終わるつもりはない」


「……そうか。それで、もう一つ訊かせてくれ。その子供は何者だ? なぜこのような場所に子供がいる?」


 カイサは俺へと視線を向ける。

 睨むような視線だが、どうやら彼の癖らしい。


「ああ、息子のメナトだ。これでも【曙光の鷹】の火力担当だ」


 ホークがそう答えると、今度はウルバンが口を挟む。


「……カイサ。メナトを子供と侮らない方がいい。お前も、パルブの変わりようを見ただろう? ああなったのは、すべてこのメナトの力だ。それに【血の十字旗】に卸しているエーテルポーション。あれを作ったのもメナトだ」


「な――っ!? こんな、まだ十にも満たない子供が……?」


 驚愕するカイサを前に、ホークから提案を出す。


「カイサ。互いの実力を知らなければ、背中は預けられないだろう。少し、メナトの実力を見てほしい。今から時間はあるか?」


「ああ……ウルバン様とホークがそこまで言うのなら、実力は折り紙付きなのだろうが……それでも、俺自身の目で確かめてみたい」


「……分かった。ついて来い」


 ウルバンはそう言うと、俺たちをヘルマー伯爵邸の広大な庭へと案内した。

 その庭は、扇状に広がるラージャンの要衝、その最頂部に位置している。

 庭の先は断崖絶壁となっており、この構造上、ラージャンを攻略するには必ず扇の裾野から攻め上がる必要がある。

 つまり、背後から討たれるということはありえないのだ。


「カイサ。メナトに向けて魔法を放ってくれ」


 ホークが即座に告げると、カイサは思わず目を見開いた。


「な……メナトに、魔法を?」


「ああ。何が起きても俺が責任を持つ。問題ない」


 少しの逡巡の後、カイサは頷き、距離を取る。

 右手を前に掲げ、詠唱を開始した。


『吹き荒べ、大気の刃。目に見えぬ槍と成り、敵を穿て――【風槍ヴェント】!』


 同時に、俺も詠唱を紡ぐ。


『我に埋みし黒き涙よ。光を飲み込む槍となりて、敵を穿て――【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】』


 放たれた風の槍と毒の槍が正面から衝突する――

 次の瞬間、毒の槍が風の槍を貫き、そのままカイサの脇を掠めて飛び去った。


「――っ!? も、紋章師……!? それに、なんだ今の魔法は……? 見たことがない……初めて見る術式だ……」


「そうだ。メナトは紋章師だ。だが、ただの紋章師ではない」


 ホークは淡々と続ける。


「メナト、あの剣を出してくれ」


 言われるままに【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】を顕現させると、

 それを目にしたカイサは、反射的に一歩後ずさった。


「な、なんだ……その禍々しい剣は……それに、紋章の輝き……色が違う……?」


 その疑問には答えず、ホークは再びカイサへ視線を向ける。


「もう一度だ。カイサ、魔法を放ってくれ」


 即座にカイサが【風槍ヴェント】を発動。

 俺は【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】を一閃――

 風の槍は、痕跡すら残さず霧散した。


「……マジか……信じられないことばかりだが……」


「カイサ、もう一度【風槍ヴェント】を。メナト、今度は左手で頼む」


 再び放たれた風槍を、今度は左手に集めた魔力――【魔纏】で真正面から受け止め、相殺する。


「……【魔纏】で、俺の魔法を……それほどまでの、魔力量ということか……」


 まさに脱帽といった感じ。

 が、カイサは禁句を口にしてしまう。


「凄いのは分かったが、どうやったらパルブがああなったのかが知りたい。俺も拷問に参加したが、まったく口を割らなかったのだが?」


「…………」


 場に沈黙が落ちる。


「なぁ、教えてくれよ……気になるじゃないか?」


 ここで誤魔化せば、明日の連携に影を落とすかもしれない。

 そう判断し、俺は観念したように口を開いた。


「じ、じゃあやってみます? 痛くはないので……」


「おっ!? 見せてくれるのか?」


「え、ええ……と、言ってもこの剣に触れてもらうだけなのですが……でも、やめた方がいいと思いますけど……」


 俺の言葉に、ホークが即座に補足する。


「カ、カイサ……自己責任で頼む。ただ、一つ忠告しておく。世の中には、知らなくてもいいことがある」


「いや、俺は何でも自分の目で確かめないと気が済まない性分でな。噂話に踊らされるのは御免だ」


 そう言いながらも、先ほどまでの勢いは消え、カイサは明らかに警戒した様子で一歩近づくと、恐る恐る【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】に手を伸ばした。


 そして――


「ぎゃああああああああああああああっ!!!」


 凄まじい絶叫が庭に響き渡ったかと思うと、

 カイサはそのまま白目を剥き、前のめりに倒れ込んだ。


 ……気を失ったらしい。


 しん、と静まり返る庭。


 ホークは深いため息をつき、ウルバンはこめかみを押さえる。


 そして――


 全員が、ゆっくりと俺の方を見た。


 まるで、

「なぜ止めなかった」

とでも言いたげな、白い目で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ