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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第3章 少年期 ラージャン攻防戦

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42/102

第42話 ★誤算★

 ――危ないところだった。

 そう独りごちて、マヌスは家で大きく息を吐いた。


「……まさか、嗅ぎつけてくるとはな……」


 歯噛みするように呟く。


「他の街では、祟りだの幽霊だの、亡霊だのと騒がれるだけで終わっていた。俺様が操っていると見破られたことなど、一度もなかったというのに……」


 苛立ちを抑えきれず、床を爪先で小さく蹴る。


「どうしてだ……? パルブたちは確実にヴェノムモリスを食ったはずだ。死人に口なし……俺様のことが漏れるはずがない」


 そこまで考えて、マヌスは一瞬、言葉を切った。


「……それに……問題は、あの一家だ」


 脳裏に浮かぶのは、四人の姿。


「ドロスの話では、ラージャンにいる紋章師はヘルマー伯爵だけだと言っていた。それなのに、なぜ【曙光の鷹】がいる?」


 吐き捨てるように言う。


「上空を飛ぶ鷹……そして、俺様を何度も誘惑してくる美女。間違いない、ホークとアイシャだ。リバルティにいるはずの連中だろうが……」


 思考は、次第に不穏な方向へと転がっていく。


「……まさか俺様は、ドロスに踊らされているのか? 何かの餌として、この街に送り込まれた……?」


 そう考え始めると、胸の奥にじわりと不安が広がった。


「いや……いや、まだ決めつけるのは早い」


 だが、すぐに別の顔が浮かぶ。


「一番厄介なのは……あのメナトとかいうガキだ」


 忌々しそうに舌打ちする。


「なぜ、ガキの分際で俺様の【傀儡ノ律(マリオネット・コード)】が効かない? 紋章師様の魔法だぞ!? 何かの加護でも受けているというのか……? しかも……俺様の正体に、うっすら気づき始めている気配すらある。去り際のあの目……ただのガキの目じゃない」


 マヌスは知らない。

 メナトが、紋章師であるという事実を。


 【傀儡の紋章】専用魔法――【傀儡ノ律(マリオネット・コード)】は、人を操ることはできる。

 しかし、ホークのように視界を共有することもできなければ、

 メナトのように記憶を辿ることもできない。


 だからこそ。


 丘から離れた場所にいたマヌスは、

 丘の上で繰り広げられた戦いの真実を、何一つ見ていなかった。


 先頭を駆けるメナトの魔法も、その異質さも、まったく理解していない。


 ヘルマー伯爵に魔法師を突撃させることができたのは、遠目にもはっきりと分かる、伯爵専用とも言える魔法――【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】が見えたからに過ぎない。


 そこに向かって、瀕死の魔法師を突撃させればいい。

 別に、あのとき殺そうなどとは考えていない。

 ただ、恐怖心を植え付けたかっただけだ。


 これまでもそうやって恐怖を植え付け、他の街を攻め滅ぼしてきた。

 今回も、いつも通りのことをしたに過ぎない。


 マヌスは家の中で昏倒している者たちを見下ろし、苛立ちを滲ませながら呟く。


「クソッ……魔法で操っているとバレるはずがないと思っていたのに……今になって、こんなにも操ったことが裏目に出やがる」


 歯噛みするように言葉を続ける。


「このまま傀儡を解除したら、こいつらは確実に俺様の正体をバラす……だが、ここで殺せば間違いなく、あのメナトのガキが俺様に目を向ける」


 慎重に、そして苛立ちを隠しきれないまま、マヌスは視線を巡らせる。

 そこに倒れているのは、四人。


 まず、双子の兄弟――イヴァンとエヴァン。

 そして、その母親であるメル。

 最後の一人は、双子の父であり、先ほどまでマヌスと共に外を徘徊していた男――この家の本来の家主であるディノスだった。


 ディノスの腕に残る火傷の痕は、先の丘の上の戦いで負ったものだった。

 帝国魔法師の放った火魔法を、大盾で受け止めた際にできた傷である。


 メナトやウルバンが「どこかで見たことがある」と感じたのも無理はない。

 二人が丘に到着したとき、先陣を切って盾を構えていた夫婦――その男こそがディノスだったのだから。


 そして、あのとき彼の隣にいたのは妻であるメル。

 彼女の腕にも、同様に火傷の跡が残っていた。


 マヌスは歯噛みしながら呟く。


「こうなったら……作戦を早めるしかないか」


 一度、息を吐き、低い声で言葉を続ける。


「住民が蜂起し、その混乱の中で領主が死にゆく――そんな光景が見たかったのだが……仕方ない」


 計画通りに進まぬ苛立ちを押し殺すように、小さな拳を握る。


「多少、段取りを前倒しにしてでも、まずは自分の身の安全を確保しなければ元も子もない――一刻も早く、作戦を実行し、『あれ』を持ってこないとな」


 そう述べると、マヌスは外に出て、夜空に魔法を放つのであった。

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