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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第3章 少年期 ラージャン攻防戦

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第38話 拷問より恐ろしいもの

「おい、聞いたか? 街の中でも祟りに遭うって……」

「薬師ギルドが襲われたらしいぞ。それも、別の傭兵団の三人がやったって」

「聞いた聞いた。俺、明日から外出禁止だってさ」

「お前もか? 俺も父ちゃんに外へ出るなって言われた」

「帝国兵を生き埋めにした奴に、ちゃんと責任取らせろよ」


 今日も空き地では、そんな物騒な話ばかりが飛び交っていた。

 戦場から離れたはずの街にまで、不穏が染み出してきている

「お兄ちゃん……怖くない?」


 ステラが、俺の服の裾をそっと掴む。


「ああ……そうだな。イヴァンとエヴァンの姿もないから、今日は帰ろう」


 丘で会ったあの日以来、双子とは一度も顔を合わせていない。

 もっとも、俺にとっては、もう十分だった。

 あの日、彼らから聞くべきことは、すべて聞いてしまったから。


 イヴァンとエヴァンが、あの戦いの最中に丘の近くにいた理由。

 それは、彼らの両親が傭兵だったからだ。


 しかも、うちと同じで両親ともに傭兵業を営んでいる。

 だが、魔力に恵まれているわけでも、特別な技を持っているわけでもない。


 だから二人の役目は、いつも同じ。

 戦列の最前列に立ち、大盾を構え、敵の攻撃を受け止める――壁役。


 華はない。

 だが、誰かがやらなければならない役目だ。

 そのせいで、両親の体には生傷が絶えない。

 出撃のたび、双子は必死に引き留めるのだという。

 ――行かないで、と。


 だが、傭兵稼業は生きるための仕事だ。

 引き留めたところで、別の仕事があるわけではない。


 そして、先日の帝国兵との戦いで、両親は再び深手を負った。

 今も布団に伏し、起き上がることすらままならないらしい。


 だから、少しでも早く治るように。

 イヴァンとエヴァンは、あの丘で薬草を採っていたのだという。


 その話を聞いたステラは、ホークとアイシャに事情を説明し、あの丘から一緒に帰る際、双子に回復薬ポーションを手渡した。


 回復薬ポーションといっても、魔力回復薬エーテルポーションのように即座に効果が出るものではない。あくまで傷の治りを促進するだけの薬だ。


 それでも、回復魔法の存在しないこの世界において、回復薬ポーションは非常に希少で高価なものだ。

 最初、双子は受け取るのを頑なに拒んでいたが、ホークとアイシャが説得し、最終的には何度も頭を下げて家へと帰っていった。




 家に戻ってから、空き地で耳にした話をホークに伝えると、父はすでに同じ情報を掴んでいた。


「ああ、ウルバン様から聞いている。どうやら住民の怒りの矛先が、ヘルマー伯爵や騎士団に向き始めているらしい」


「え? どうして?」


「領主や騎士団が動かないのは無能だ、という内容の羊皮紙が、密かに出回っているそうだ。そのせいで、騎士団は街中の警備をさらに強化することになった」


 そう言って、ホークは少し言葉を切る。


「その件で、午後からお父さんは伯爵に呼ばれている。ついでに、メナトも来い」


「また? 午前中も行っていたのに? それに僕も?」


「ああ。伯爵はどうやらメナトのことを気に入っているようでな。何度もメナトのことを話題に出すんだよ。それに、メナトにしかできないことがある」


 俺にしかできないこと?

 すると、同席していたヨーダも頷く。


「……そうだな。メナトであれば、もしかしたら、という可能性もあるな」


「どういうこと?」


「行ってからのお楽しみだ。お前の得意分野だから頑張って来い」


 俺の得意分野ってなんだろうか?

 ……もっと酒を作れとかかな?

 理由は分からないが、伯爵から目をかけられているのは悪い話ではない。

 そう自分に言い聞かせ、俺はホークと並んでヘルマー伯爵の屋敷へ向かった。



「おい、手土産はどうした? 酒は? あれがなければどうも調子が出ん」


 執務室に足を踏み入れるなり、挨拶代わりに飛んできた一言に、ホークが苦笑する。


 その反応に満足したのか、伯爵は喉を鳴らしてから本題に入った。


「さて、午前中に話していた件だがな、ホークの言う通りだ。異常な行動を起こしている者たちは、皆、魔力を持たぬ者だった」


「やはり、丘の上でパルブが言っていたことは正しかったですか」


「だな。あやつは知っていた。魔力のない者、紋章を持たぬ者は本人の意思に関係なく行動してしまうと……」


「で? パルブは相変わらずですか?」


「うむ。意識は取り戻しているが、何ひとつ喋らん。どんな拷問をしてもだ。そのくせ、出された飯はきっちり食う。一度は死んだ身――毒で殺されようと構わぬ、そんな覚悟だけは感じ取れるな」


 ……パルブは、もう目を覚ましているのか。


「で? ホークに策があると聞いたが?」


「ええ。拷問……ではありませんが、一つ、試してみたいことがありまして」


 もしかして、俺が呼ばれた理由って……?


「ほう? どういうものだ。言ってみろ」


「はい。論より証拠です。今すぐ、地下牢へ向かいましょう」」


 その言葉に、伯爵は口の端をつり上げ、俺をじっと見る。


「……なるほど。どうやら今日も面白いものを見せてくれるというわけか」





 連れてこられたのは、騎士団の地下牢獄だった。

 どう考えても、子供が入るような場所ではない。

 ホークは、本当に俺のことを子供だと認識してくれているのだろうか。

 そんな不安を覚えつつ、収監された犯罪者たちの檻の脇を通り抜けていく。

 その中には、以前空き地で見かけた、同じ傭兵団の仲間を殺したとされる男の姿もあった。


 やがて、地下牢の最深部――その最奥に投獄されているパルブのもとへと辿り着く。

 両手は鎖で繋がれ、身動きは取れない。

 全身には無数の痣があり、指先を見ると爪まで剥がされている。

 ……それでも、まだ口を割らないのか。


 少し遅れて、ヘルマー伯爵の嫡子であるウルバンも姿を現した。


「父上、面白いものを見せるとは、一体……?」


「うむ。見せるのは、私ではない」


 伯爵はそう言ってから、俺へと視線を向ける。


「メナト……でよいのだな? ホーク」


 問いかけに、ホークは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。


「はい。口を割るかどうかは分かりませぬが……一つ、試したいことがありまして。メナト、早速頼む」


 もう、何を求められているのかは察しがついた。


「うん……でも、僕の魔法じゃ、どうにもならないと思うけど……」


 そう言いながら、俺は詠唱を紡ぐ。


『流れし血は悔恨となり、魂は鉄へと変ず。我に刻まれし咎人の剣よ、今ここに顕現せよ――【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】!』


 顕現した深紅の剣から、血の雫がぽたり、ぽたりと床に滴り落ちた。


「パルブさん? 僕はあなたを傷つけませんから、安心してください。ただ、この剣を頬に触れるだけですから……」


 できるだけ怖がらせないよう、ゆっくりと【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】を近づける。


 そして、その切っ先がパルブの頬に触れた瞬間――

 彼の身体が、突然ガタガタと激しく震え始めた。


「わ、分かった! すべて話す! すべて話すから――ッ! 痛いッ! 死ぬ! 死んでる! もう死んでるからやめてくれぇぇぇえええ――ッ!!!!!」


 耳をつんざくような絶叫の直後、

 橙色だった髪は一瞬で真っ白に変わり、そのままパルブは失神した。


「あれ? 思ったより簡単に口を割ったね?」


 その一言に、伯爵、ウルバン、ホーク、警備をしていた騎士団員――

 全員が、言葉を失ったまま、俺を冷ややかな目で見つめていた。

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