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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第3章 少年期 ラージャン攻防戦

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第35話 丘の上の戦い

『【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】!』

『【風迅槍ヴェントス】!!』

『【氷迅槍グリシア】!!』


 俺とホーク、アイシャの魔法が連続して放たれ、丘の上に陣取る帝国魔法師たちを次々と貫いていく。

 一方、奴らの魔法はヘルマー伯爵の【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】によって完全に遮断され、こちらには一切届かない。


「くそッ! 前衛と後衛を入れ替えろ! 魔法師は下がれ! 槍士は前へ! そのまま突っ込め! 狙いはヘルマー伯爵だ! 伯爵さえ倒せば勝機は我らにある!」


 帝国兵の怒号と共に、長槍を構えた兵が勢いよく丘の端に並び、坂の加速を利用し、伯爵を目掛けて突撃してくる。

 しかし、俺たちはすでにこれを迎え撃つ準備を整えていた。


「お母さん!」


 俺がアイシャに合図を送ると、母の手の甲はすでに蒼い輝きを帯びていた。


『【水流ノ調ベ(アクア・カントス)】!』


 激しい水流が周囲一帯に撒き散らされ、帝国兵の進路が一瞬で水浸しになる。


『【泥ニ塗レ土遊ビ(リームス・ルディ)】!』


 続けざまに俺が詠唱すると、地面がぐずりと崩れ、深い泥沼が形成される。

 下り坂の勢いで止まれず踏み込んだ帝国兵たちは、そのまま泥へとずぶずぶ沈み込んでいった。


「お兄ちゃん! はい、これ!」


 ただ、【泥ニ塗レ土遊ビ(リームス・ルディ)】は消費魔力が高い。

 すぐにステラがエーテルポーションを差し出してくれたので、一気に飲み干し、空になった陶器を妹へ返す。

 ちなみに、俺が飲むエーテルポーションには酒精が含まれていない。


 何度も【泥ニ塗レ土遊ビ(リームス・ルディ)】を唱え、そこら中を泥沼にし、帝国兵を次々と沈めていくと――


「……メナト。お前、むごいことを平然とイメージするのだな」


 ヘルマー伯爵が、わずかに顔を引きつらせて俺を見る。

 えっ? 泥沼なんて基礎中の基礎だと思っていたんだけど、もしかして違うのか?

 俺が困惑すると、伯爵は一転、豪快に笑い飛ばした。


「まぁいい! おかげで帝国の連中は完全に腰が引けておる! このまま登り切るぞ!」


 俺は【泥ニ塗レ土遊ビ(リームス・ルディ)】を解き、地面を元の形へ戻す。

 もちろん、帝国兵を地中に生き埋めにしたまま。


 突っ込めば【泥ニ塗レ土遊ビ(リームス・ルディ)】で沈められ、距離を取れば俺たちの魔法で削られる。帝国側は、どちらを選んでも勝ち筋がないことを悟っているはずだ。


 だが、奴らは退かなかった。

 槍を投げ、魔法を放ち、なおも徹底抗戦の構えを崩さない。


 さらにウィンと視界を共有していたホークが叫ぶ。


「紋章師が動いた! 魔法に備えろ!」


 見上げれば、丘の頂上。

 そこに立つのは、他の帝国魔法師とは明らかに装いの違う男。

 一般魔法師が着る黒地に赤のラインの法衣――その肩に金糸をあしらった特別製。


 あれがパルブ、【小火の紋章】を宿す紋章師か。

 パルブは右手を掲げ、手の甲が赤い燐光を帯びて輝きを放つ。


『奔れ、熾炎よ。疾風すらも焦がす熱となれ。灼ける衝動、猛火の槍と成し、万物を穿て――【火迅槍イグリス】!!』


 空気ごと焼き裂くような炎の槍が、一直線に伯爵の【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】へと突き刺さる。


 激突ののち、赤と白の魔力の残滓が空中に散った。

 互いの魔法が拮抗し、霧散したのだ。

 すでに【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】は削れていたとはいえ、流石は紋章師の魔法なだけある。帝国魔法師の火力とは桁が違う。


 だが、伯爵は四度目の【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】を展開する。

 その様子を見て、パルブがほんの僅かに身を引いた。


 そして、帝国側に目に見える異変が起こる。

 飛来してくる魔法の数が明らかに減ってきたのだ。


 理由は明白――魔力切れ。


 俺たちとぶつかる前から戦闘していたのだ。

 そろそろ枯渇しても不思議ではない。


 一方で、伯爵の腰の瓢箪瓶には、まだエーテルポーションがたっぷり残っている。

 が、あれだけ飲み続けて平然としている伯爵のほうが、どうかしている。


 ホークだったら顔面真っ赤、即ノックアウト。

 アイシャだったら、頬をほんのり染めて……周囲の男たちを虜にしていたかもしれない……それはともかく。


「このまま頂上まで登り切るぞ!」


 伯爵の号令が響き、俺たちはさらに勢いを増す。

 帝国側もパルブを筆頭に抵抗を見せるが――

 俺の【盲魔ノ毒槍スピクルム・トクシクム】が、パルブの【魔纏】をまとった左手に、浅くながらも確かに突き刺さった。


「なっ――!? 目がッ――!」


 一度刺さりさえすれば、毒は巡る。

 短時間とはいえ、確実に視界を奪う。


 帝国の板金鎧を着た兵が慌ててパルブの周囲を固め防護を厚くするが、その間に、俺たちはついに頂上へとたどり着く。

 長らく不利だった地の利を、とうとう覆したのだ。


 戦況は、もはや完全にこちらの優勢だった。

 王国側で戦線を離脱したのは数名のみ。

 対して帝国側は魔力が尽きて後退した魔法師を除けば、ほぼ壊滅状態。


 そんな彼らを率いるパルブへ、ヘルマー伯爵が問う。


「どうしてこうも無謀なことをした? お前たちの目的はなんだ? すべてを吐き、こちらにつけば命だけは助けてやろう」


 しかしパルブは一切応えず、ただ懐に手を入れ――

 取り出したのは、紫黒色に濁る忌まわしい草。

 布で厳重に包まれたヴェノムモリスだ。

 その動きに呼応するように、後方の帝国魔法師たちも同じものを取り出す。


「や、やめろ!!!」


 伯爵が制止するのもむなしく、彼らは一様にヴェノムモリスを口にし――

 全員の目が濁った光を帯び、爛々と狂気を宿す。

 魔力枯渇で立つのがやっとだったはずの魔法師が、燃えたぎる魔力を纏って詠唱を開始する。


 帝国兵も、もはや命を捨てた動きで突撃してきた。


 こうなれば、こちらも全力で叩き潰すしかない。

 パルブを含む帝国魔法師たちは、ヴェノムモリスで無理やり魔力を焚き上げ、至近距離から容赦なく魔法を連射してくる。

 伯爵の【護界ノ盾(アエギス・スクトゥム)】だけでは、張り直す合間に必ず一撃は喰らってしまう。


 だからこそ、ホークとアイシャが盾の境界線へと飛び出し、【魔纏】で敵の魔法を相殺する。


そして、俺も。


『【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】!』


 深紅の輝きとともに、禍々しい剣が俺の手に顕現する。

 あの日、俺の胸を貫いた罪の刃。


 この剣に斬れぬものはない――そう信じ、迫りくる魔法の奔流へと、俺は躊躇なく振り抜いた。

 斬撃が空間に走り、触れた帝国魔法師の魔法は、まるで煙のように霧散する。


 騎士団だけでなく、ホークやアイシャまで驚愕の表情を見せるが、今は得意げになっている場合ではない。


 俺、ホーク、アイシャはステラを守るように三角形に陣を取り、魔法の雨をすべて弾き返し続けた。

 ヨーダはステラに何があってもいいように、警戒を深める。


 そして、一分も経たないうちに。

 パルブを含む帝国魔法師たちは、全員その場で膝をつき、次々に倒れ込んだ。

 ヴェノムモリスの毒が、回り立つことすら難しくなったのだ。


「こちらの被害は――ッ!?」


 伯爵が振り返り、報告を求める。


「負傷者は多数ですが、命に別状はありません!」


 状況を整理していたウルバンが力強く答える。


「……そうか。ならば――せめてこやつらを……」


 伯爵が手を掲げ、介錯の魔法を唱えようとした――まさにその瞬間だった。

 毒で動けなかったはずの帝国魔法師の一人が、突然むくりと起き上がり、手にしたヴェノムモリスを握りしめ伯爵へ飛びかかってきた。


「なっ――!?」


 あまりに突発的で、伯爵は反応できない。

 詠唱も間に合わない。


 だが、俺の手にはまだ【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】があった。

 一閃――

 深紅の刃が空を裂き、首を刎ねた。


 伯爵を守った……そう思った刹那。

 首を失った魔法師が、なおも四肢をぎこちなく蠢かせ、伯爵へ迫ってくる。

 悪夢のような光景に、背筋が凍る。


「伯爵! 逃げてください!」


 俺が叫んだ瞬間――

 燃え上がる炎の槍が、首無しの魔法師を貫き、灰へと変えた。


 【火槍イグニス】? 詠唱したのは誰だ!?

 炎の軌跡を辿ると……毒で意識が朦朧とし、膝をついているパルブだった。


 なぜパルブが味方を……?

 困惑する俺たちの前で、パルブは弱々しい声で言った。


「……燃やせ……俺たちを……じゃなきゃ……魔力のない者……枯渇した者……紋章を持たぬ者たちは……」


 息を引きずりながら、パルブは次々と瀕死の味方に【火槍イグニス】を放ち、炎で焼き尽くしていく。苦しませぬように一撃で。


 その顔には、もう戦意などなかった。

 ただ、絶望と、そして仲間の苦痛を終わらせたいという哀切だけがあった。


「帝国は変な魔法を使う! とにかく燃やせ!」


 ウルバンの号令で、王国側も支援に回る。

 ようやく、パルブ以外の魔法師たちを完全に沈黙させたその時――


「くそっ……マヌスめ……」


 パルブはぼそりと呟き、意識を手放す。

 俺たちは勝利した……が、なんとも後味の悪い戦いだった。

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