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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第2章 少年期 追憶の紋章

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第29話 光の世界へ

 一か月後――


「メナト! 肩が上がっていないし、動きにキレがないぞ! 終わったらランニング二キロ追加だ!」


 朝の空気を震わせるように、ヨーダの怒号が庭に響いた。


「に、二キロも……!? む、無理だよ……もう足も腕もパンパンで……」


 ラージャンに来て一年あまり。

 ヨーダのしごきは日を追うごとに増している。


 朝一番で五キロ走り、続けて【魔纏】を巡らせながらの五キロ。

 そのあと休む間もなく木剣を握り、袈裟斬り、右薙、逆袈裟、左薙――この四連を左右の手で百セット。

 右手を終え、今は慣れない左手で必死に素振っているところだった。


 利き手ではない分、力の入れ方も安定せず、木剣が腕の中で暴れる。

 肩も肘も悲鳴を上げ、それでも振り抜かなければならない。


「なんだ? 全力ダッシュを五本追加したいのか?」


「いえ! やります! やりますからぁ!」


 今日も、いつものように情けない悲鳴が庭に溶ける。

 ただ、ここで挫けてはいけない。

 今の俺の姿を見て、ステラも頑張っているはずだから!


 素振りを終え、息を切らしながら家の外周を走り始める。

 肺が悲鳴を上げ、足は鉛のように重い。

 それでも走らなければならない。

 拷問にも似たこの特訓、これはステラとの約束なのだから。


 その途中、庭の片隅に小さな白い葉が目に入った。

 葉が涙のような形をしていて、黒涙草に似ていながらも、色は違う。

 闇を吸ったような黒ではなく、星のような輝きを灯す。


 これは俺が創り出した植物――『星灯草』。

 ステラの視力を取り戻すためだけに、生み出した希望の草だ。

 成長速度はエーテルよりも速く、芽さえ出てしまえば一気にここまで育つ。

 だがそのぶん、十粒に一粒くらいしか芽を出さない。


 エーテルのように魔力回復という副産物もない……いや、あれはもう副産物どころではなく、本体になりつつあるが、星灯草にはそういったボーナスは一切ない。

 だから、数はそこまでそろえなくてもいいのだ。

 

 なんとか地獄の朝特訓を終え、風呂で汗を流し、ダイニングへ。

 そこには半べそをかきながらお椀とにらめっこしているステラの姿があった。


「……ひっく……お兄ちゃん……これ、本当に不味いよぉ……」


 テーブルの上に置かれたお椀には、星灯草の茎と葉を丸ごと煮込んだ――料理と呼んでいいのか分からない何かが入っている。

 どこに効能があるか分からないので、余すことなくすべて入っているのだ。


「頑張れ、ステラ。僕も一緒に食べてあげるから……」


 そう励ますと、俺の席にもアイシャが同じお椀を置く。

 覚悟を決めて、ほんの少しだけ口に含むと……


「うぇっぇぇぇ!!!」


 声にならない悲鳴が出た。

 ゲロ不味い。

 センブリ茶と苦丁茶を混ぜて、さらに倍濃縮したような地獄の味。

 胃の底から逆流してくるものを必死に押し戻さなければ、確実にリバースする。


 ちなみにこれ、ホークとアイシャも食べてみたのだが、二人とも少し口につけただけで、涙目になり、嘔吐えづき、それ以来一切口にしていない。

 大人二人が白旗を上げたのだから、ステラが泣くのも無理はない。


 だからこそ、俺も地獄の朝練に耐える代わりに、ステラも星灯草地獄に挑んでいる。互いに苦しいが、どちらも理由は同じ。ステラの目を救うためだ。


 なにしろ【追憶の紋章(メメント・モリ)】が、星灯草を前にすると妙に反応するのだ。


(シシシッ、坊! お嬢にこれを飲ませれば、いつか絶対に視力は回復する!)


 ――そんな声が、頭の奥で聞こえた気がするのだ。

 マジで、俺の勘違いだったら本当に申し訳ないのだが、良薬は口に苦しだ。


 星灯草を食べ始めてからのステラは、かなりげっそりしてしまった。

 それでも食べ続けているのは、俺が横で一緒に苦しんでいるからだ。

 

 だから今日も、俺は震える手でお椀を持ち上げる。

 妹のために……エルのために、そして何より、自分のために。




 夜になってエーテルの種子を創ってからステラと布団に入った。


「お兄ちゃん……星灯草の種ってどこから持ってきたの? 本当のこと教えてよぉ」


 ステラは勘づいているのだ。

 俺が黒涙草を飲み込んだあの日――その後に星灯草が生まれたことを。


 きっと、妹はこう思っている。

 お兄ちゃんの身体を犠牲にして作ったんじゃないかと。

 だからこそ、涙目になりながら、あの地獄の味を必死で食べ続けているのかもしれない。


 だが真実を告げれば、ステラはきっと自分を責めてしまう。

 それだけは絶対に避けたい。


「たまたま偵察任務中に見つけたんだよ。【追憶の紋章(メメント・モリ)】が勝手に発光して……頭の中にエルの言葉が流れてきただけ」


 俺たち家族はステラに嘘ばかりついている。

 だがそれでもいいと思っている。

 妹の心を守れるのなら、知らなくていいこともあるのだ。


「……そっか。うん、分かった。じゃあ……おやすみなさい。また明日ね、お兄ちゃん」


「うん、おやすみ、ステラ」


 そう言っていつものように眠りにつくのだった。





 翌朝――


 いつものように意識が浮上し、薄暗い天井をぼんやり見つめながら目を覚ます。

 隣ではステラが小さく寝息を立てている。

 妹が起きるまでは布団の中でも無駄にはしない。


 【魔纏】の訓練を始める。

 魔力の扱いは以前より格段に上達した。

 しかし、それでも一時間も高速で循環させ続けていると、半分……とまではいかないが、魔力が漏れてしまう。


 訓練に没頭していると、隣でもぞもぞと布団が揺れた。

 ステラが目を覚ました気配だ。


「……ん……おはよう、お兄ちゃん……なんか……眩しい、ね……」


「ああ、ごめん。カーテン開けっぱなしで寝ちゃったから」


 いつものように、ベッドから降りて、ステラの手を取ろうとする。

 だが、ステラは布団の上で固まったまま微動だにしない。


「どうした? 具合でも悪いのか?」


 返事がない。

 声が届いていないのかと思い、もう一度呼びかける。


「ステラ?」


 そこで、震える声でステラが答える。


「……お兄ちゃん……わたし……眩しいの……」


「眩しい? まぁ、カーテンを……って……ステラ!? お前、おま……!」


 ――光を、感じている。


 星灯草の効果が。

 ステラの努力が。

 エルの声が――想いが。

 すべてがようやく、報われようとしている!


「ステラ! こっちに来て!」


 俺はステラの手を取り、日本で言えば洗面所にあたる場所へ向かった。

 毎朝、アイシャが小さな桶に水を張っておいてくれるのだ。


 ステラは何度も何度も顔を洗う。

 特に目元を念入りに。

 タオルで水気をそっと拭い取ると、俺は妹の肩に手を添えて言った。


「ステラ……ゆっくり目を開けてごらん?」


 ステラの瞼は開けられないわけじゃない。

 ただ、視力がないため、焦点が合わず、どこを見ていいのか分からないため、自ら閉じていたに過ぎない。


「うん……でも、お兄ちゃん……笑わない?」


「笑うわけないよ。大丈夫……ゆっくりでいい」


 ステラはそっと瞼を持ち上げた。

 徐々に宝石のような蒼玉サファイアブルーの瞳が姿を現す。

 最初は焦点が泳ぎ、視界の何を掴んでいいのか分からないように揺れていた。


 でも、光に目が慣れていくにつれて焦点が定まり――

 ステラは突然、小さく震えた。


「ど、どうした? 急には見えないかもしれないけど、焦らなくて――」


 そう言って肩に手を置くと、ステラはぶんぶんと首を振った。


「ちがうの……見えるの……! 優しい景色が……大好きなお兄ちゃんの顔が……ちゃんと……!」


 次の瞬間、ステラは勢いよく飛び込んでくるように抱きついた。


「ステラ……!」


 その小さな腕が、必死に俺の背中にしがみつく。

 泣いているのか、笑っているのか分からない声で何度も名前を呼ばれて……胸が締め付けられた。


 しばらく抱きしめ合ったあと、ステラはそっと俺から離れ、桶に張られた水面に自分の映った顔を覗き込む。


「……私……だいぶ大きくなったんだね。ちゃんとした服を着せてもらって……あ、髪の毛……寝ぐせでボサボサだ……」


 自分で吹き出して笑うステラ。


「ああ、でも朝晩お母さんが髪の毛をとかしてくれただろう?」


「うん! いつも私の面倒を見てくれた!」


「なら……そのお母さんに見せに行こうか?」


「……うん! でもお兄ちゃん。手を引いて? 私……見えないふりをして驚かせたいの!」


 いたずらっぽく笑うステラ。

 こんな表情が見られる日が来るなんて……。


 ステラの要望に応え、俺は妹の手を取り、今日も小気味いい包丁の音を響かせるアイシャのもとへ向かった。


「「おはよー、お母さん」」


「はい、おはよう。メナト、テーブルから布巾取ってもらえる?」


 アイシャは視線を落とし、星灯草を細かく刻みながら、いつもの調子で頼んでくる。俺はステラと目を合わせ、軽く笑った。


「うん。じゃあ、ステラが持って行ってあげて」


 すると元気よくステラが答える。


「はぁ~い!」


 元気よく返事をしたステラは、自分の足でテーブルまで歩き、布巾を手に取ると、アイシャのもとへ向かった。


「メナト、そんな意地悪しないで。らしくないわよ?」


 刻む手を止められないまま、アイシャが俺に小言を漏らす。

 確かに以前なら、ステラが包丁を扱う母の近くに行くのは危険だった。


 しかし、今は違う。


「お母さん? はい、布巾。持ってきたよ?」


 その声に、アイシャの手がぴたりと止まる。


「え? あ、ありがとう。でもステラ、あなた――」


 包丁をまな板に置き、布巾を受け取ろうとした瞬間、

 アイシャはステラの変化に気付いた。


「す、ステラ……? もしかして目が――ッ」


「うん! 見えるようになった! お母さんの綺麗な顔が見えるよ。それとその不味い草も」


 にこっと笑ってみせるステラ。

 対照的にアイシャは瞳に溜まった湖があっという間に決壊した。


「ステラ!!!」


 アイシャは、堰を切ったように娘を抱きしめる。

 その声を聞きつけ、ホークが慌ただしくダイニングに飛び込んできた。


「どうした!? アイシャ!? 何かあったのか!?」


「ええ……見て……ステラが……ステラが……」


 アイシャが腕の力を抜き、ステラを自由にすると、

 妹は父の方へ振り返り、軽くウィンクした。


「す、ステラ……お前、まさか――ッ!?」


 ホークは言葉よりも早く駆け寄り、ステラの顔を正面から凝視する。


「うん、見えるようになったの!」


 その無邪気な報告に、ホークの表情が一瞬で崩れ落ちる。

 父もまたステラを抱きしめ、負けてなるものかとアイシャも反対側から抱き寄せた。


 三人の涙と笑顔の抱擁を見つめながら、俺はそっと右手を掲げ、刻まれた紋章を家族に向ける。


「エル……ようやく、はじめの一歩を踏み出せたよ。全部、エルが導いてくれたおかげだ。ありがとう」


 すると、【追憶の紋章(メメント・モリ)】は満足げに、やわらかな輝きを放つのであった。


これにて第二章終了となります!


皆さんの応援♥やコメントがほんとに力になります!

フォローや★★★★★をいただけると、皆さんが想像する以上に喜びます!!!


作品に注目が集まり、執筆を継続するモチベーションにも繋がりますので、よろしくお願いしますm(__)m


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