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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第2章 少年期 追憶の紋章

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第20話 メナトの魔法

『静かに満ちよ、水の鼓動。滴は集い、水球となり、水球は爆ぜ、流れとなる。いま我が手にその理を宿し、奔流と化せ――』  


 水色の魔法文字が円を描くように浮かび上がり、空中でくるりと回転しながら重なり、魔法陣を形成。

 陣が完成した瞬間、澄んだ水の塊がゆらりと姿を現した。

 水塊は静かに膨らみながら、傭兵たちの頭上へ上昇。


『【水風船ハ破裂スル(アクア・ルンペレ)】!!』


 刹那、破裂音と共に水塊が弾け飛び、傭兵たちを丸ごと飲み込む。

 とはいえ、【追憶の紋章(メメント・モリ)】は反応しない。


 せいぜい十メートル範囲。

 大きめの家庭用プールをひっくり返した程度の水量だ。

 だが、破裂音だけは全力でイメージした。


 傭兵たちは派手に吹っ飛ぶわけでもなく、ただ驚愕で尻もちをつき、水を全身にかぶって呆然とした。


「な、なんだ……!? 今のは!?」

「け、ケガは!? ケガしてないか!?」

「ふざけんなよ……ただのビックリ魔法かよ! 子供の悪ふざけか!」


 安堵の声が広がる。

 だが、ここからが本番だ。


『土よ、眠りから目覚め、形を失え。濡れし大地よ、今だけ子供のように遊ぶがいい。踏みしめる者の足を包み、沈め、抱きしめよ――』


 次に使うのは、多くの子供が通る遊び。


『【泥ニ塗レ土遊ビ(リームス・ルディ)】!』


 魔法が発動すると同時に、水でぐっしょり濡れた地面が沈む。

 ぬちゃ……ぬちゃ……と音を立て、大地そのものが溶けていくように泥沼へと変貌した。


「えっ……ちょっ、足が!?」

「うわっ!? 沈む……沈むぞ!!」


 尻もちをついていた傭兵たちの体が、ゆっくり沈み始める。

 逃げようとしても、泥が全身を抱きしめるように絡みついて離さない。


 これを抜け出すのは、正直、不可能に近い。

 実際、以前ホークで試したとき、父ですら脱出できなかった。


 ……なぜホークで試したのかというと、【魔纏】対策。

 【追憶の紋章(メメント・モリ)】を使わずに、ホークの【魔纏】を切り崩すか考えてみろと言われ、苦心した挙句に編み出したのが、地中での拘束だった。


 ちなみにホークを庭に埋めたとき、俺は大はしゃぎだったのだが、

 アイシャが現れた瞬間、空気は凍りついた。


「誰が洗濯すると思ってるの!」


 それ以来、この魔法は封印していた。

 そして今、傭兵たちがもがくたびに泥が跳ね、

 俺たちの服にも容赦なく飛んでくる。


 ……うん、これは今日も確実に怒られる。

 美人で優しい母だが、家事を無駄に増やされると怒るのだ。


 傭兵たちの半身が地中へ沈みきったところで、俺は泥の魔法を解除した。

 本来ならここで終わってもよかったが、試しておきたいことがあった。


「お父さん? 危害は加えないから、もう一つだけ魔法を試していい?」


「なんだ? また変なのを考えたのか? この際だから好きにしろ」


 変なの、って……正しいけど、酷い。


 俺は頷き、右手の手袋を外す。

 露出した手の甲に刻まれた【追憶の紋章(メメント・モリ)】が、詠唱と同時に血のような深紅に輝く。


『流れし血は悔恨となり、魂は鉄へと変ず。我に刻まれし咎人の剣よ、今ここに顕現せよ――【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】!』


 出現した剣は、俺が死んだあの日の光景をそのまま形にしたもの。

 ラージャンに来る前に唱えた時は血が滴るイメージを抜いたが、今回は違う。

 刀身からは、ぽたり……ぽたり……と赤い雫が落ち続けている。


「ひぃぃぃっ……!!!」


 先ほどまで威勢よく怒鳴っていた傭兵の顔が、みるみる蒼白になる。

 酷い者は全身を震わせ、歯の根が合っていない。


「わ、悪かった! 本当に悪かった! 謝る! だから、その剣をしまってくれ! もうお前らには絶対に手を出さない!!!」


 大の大人が涙を流して命乞い。

 その必死さに、俺も少しだけ罪悪感がよぎり、ホークへ視線を送る。

 だが父は、ため息の一つもつかず、容赦も情けもなく、冷徹な声で告げた。


「では選べ。メナトの実験体になるか、俺に殺されるかだ。お前らは真剣で斬りかかってきたから、討たれる覚悟もあった。そういうことだろう? ただし、俺は楽には殺さない。死んだ方がマシだと、何度も、何度でも思わせてやる。五秒だけ待ってやる。答えが出せないなら――殺す」


 ホークは、怒りを表には出さない。

 けれど、その声だけで本気だと全員が理解した。

 そして、冷酷にカウントを始める。


「……五」


 傭兵たちの呼吸が乱れる。

 泥に濡れた肩が震え、互いにぶつかり合う。


「四」


 誰一人声を出せない。

 逃げようとしても脚は泥まみれで、動くどころか崩れ落ちるだけ。


「三」


「ま、待ってくれ! 俺は剣だ!」

「お、俺も! 実験体でいい!」

「生きたい! 俺もまだ死にたくない!」


 ついに悲鳴のような声が上がり、全員が自分だけは助かろうともがく。

 その必死さが、逆にどこか滑稽ですらあった。

 ……ので、つい大きな声で応えてしまった。


「分かりました。では、今から刀身を頬に触れてもらうから、どうなったか教えてくださいね!」


 努めて明るく、子供らしい声音で言うと、【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】の刀身を傭兵の頬へそっと押し当てた。


 刃が皮膚に触れた瞬間――


「ぎゃぁぁぁあああ!!! 痛いッ!!! もう刺さないで!!! 刺さないでくれぇぇぇえええ!!!!! …………」


 絶叫。

 頬に血の跡を残し、白目をむいて失神した。


 あまりに突然の出来事に、周囲にいた傭兵たちが凍りつく。

 そしてホークが、明らかに引きつった声で訊ねてきた。


「な、何をしたんだ?」


「ん? 何もしていないよ? この前ヨーダが、『この剣は呪われているから、誰にも触れさせるな』って言ったでしょ? だから、触れたらどうなるんだろうって思っただけ」


 事実、【咎ノ剣(ブレード・ギルト)】には俺が死んだ時のイメージが深く刻まれている。刺され、倒れ、血に染まり……その全部が刀身に焼き付いている。


 この剣に触れた傭兵たちは、刹那に俺の死を追体験したのだろう。

 まるで自分が刺されたかのような錯覚と激痛を味わって。


 でも、そんなことをホークに説明できるわけがない。

 だから俺は、何気ない調子で誤魔化した。

 ホークはしばらく沈黙したあと、ぽつりと呟いた。


「……そうか、でもその剣を俺たちの前で出すときには、必ず事前承諾を得てからな。そうでないときは禁止だ」


 また、禁止事項が増えてしまった。

ここまで楽しめていただけたでしょうか?

明日からは一日一回の投稿になりますのでよろしくお願いします。


よろしければブクマと★★★★★の方をお願いしますm(__)m

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